私は妹とメイド喫茶の手伝いをした(いづみside)
「うわぁ! めっちゃ集まってるじゃん!」
私と妹の貴音は、和に連れられて校舎の外でメイド喫茶の呼び込みをした。妹が淹れたコーヒーの試飲は大好評、そして妹や私という個性的なメイドがウケたようで、男女問わず大勢のお客さんが模擬店になっている教室の前に並んでいた。
「さぁ~これから忙しくなるわよ~! 貴音ちゃん、いっちゃんもよろしく頼むわね~! お帰りなさいませご主人様~! こちらへどうぞ~」
私と妹にそう告げると和は慌ただしく接客に回った。
※※※※※※※
「例のヤツ、炊き上がった!?」
私は厨房に入ると料理担当の学生に声をかけた。
「あっはい、こちらに……」
学生が指差したのは「炊飯器」……そう、これがオムライスを作るための「切り札」なのだ!
実はさっきオムライスを試食したとき、中のケチャップライスに「ムラ」がありすぎたのだ。おそらく小さなフライパンで大量のご飯を炒めていたのだろう。出された物は紅白ライス……白い部分には当然味などない。
しかもこれでは効率も悪い。そこで私は「呼び込み」に行く前、調理担当の学生たちに炊飯器でケチャップライスを作る方法を教えていた。
洗ったお米を炊飯器に入れる際、材料を全て炊飯器に入れて炊くだけ……という方法だ。ちょっと邪道かもしれないが、これによりケチャップなどの味付けが均等に行き渡り誰でも失敗なく簡単に作ることができる。しかもガスコンロを使わないので、余ったコンロを卵焼き用に回すことができ効率もアップする。
「じゃ、さっそく作るよ!」
「あっお願いします! もう注文が殺到しています」
学園祭の模擬店なので多くのメニューには対応できない。本来、模擬店のカフェなら冷凍ケーキか、せいぜいハムとチーズのホットサンドあたりで十分だろう。
だがここはメイド喫茶……やはりオムライスだけは欠かせない。なので食事のメニューは実質これのみ。一応、ケーキセットもあるがお客さんはほぼ全員オムライスを注文してきた。
私はラップを取り出すとお皿の上に敷いた。それを見て
「えっ? あっあの……何でラップを?」
オムライスを担当していた学生が、不思議そうに聞いてきた。
「あぁ、これ? まぁ見ていなよ」
私は調味料と「ある物」を入れた溶き卵を、熱したフライパンに流し込んだ。
「あのっ、それは……牛乳?」
「そうだよ! これを入れるとふわふわに焼き上がるんだよ」
カフェオレ用に用意した牛乳を分けてもらった。しばらくすると薄焼き卵が完成したので少し冷ましてから先ほどラップを敷いたお皿の上に乗せた。すると私の様子を見ていた学生が驚きの声を上げた。
「あっあの……ライスは? まとめないんですか?」
「うん、一個一個フライパンの上でくるんでいたら効率が悪いし、さっきみたいに失敗しやすいでしょ?」
「うぅ……すみません」
「いやいいけど……だからこうやって……」
私は薄焼き卵の上にケチャップライスを盛りラップごと卵で包み込んだ。そしてラップの上からオムライスの形に整えるとひっくり返してお皿の上に乗せた。
「な、こうすれば失敗することなく作ることができるんだよ」
「すっ、すごーい」
「これだったらアンタもできるでしょ? 私は卵焼きに集中するから成形と盛りつけ頼むよ!」
「はっ、はい!」
「盛りつけに時間かかるようだったら他の人にも手伝ってもらって!」
とりあえず順調に進んできた。出来上がったオムライスは次々にテーブルへと運ばれていく……少し余裕が出てきたので私は、隣で盛りつけをしている学生に話しかけてみた。
「あ、あの……さっきはゴメンね!」
この学生は私と同じ栄養学科なので見覚えがある。だがオムライスを試食したとき、あまりの不味さに同じ栄養学科として許せない気持ちが強くなってしまい、思わず怒鳴りつけてしまったのだ。
「いっ、いえ……私こそすっ、すみません! 栄養学科なんですからもっと料理が上手くならなきゃいけないのに……」
「いやいや、別に食品や飲食系の就職なんてなーんにも考えずに入ってくるヤツもいるんだから大丈夫だよ」
「あっ、すみません……私も何も考えずに入学したヤツです」
――うわぁ~! 気まずい!!
「えーっと……そういえば名前聞いてなかったよね?」
「あっ、えっ!? とっ桃里です……金沢 桃里です」
「桃里さん? 私は武川 いづみ! よろしく!」
「……」
「……」
かっ、会話を続ける自信がない! 同じ学科なんだから共通の話題……たとえば言葉尻がいちいち鼻につくウスラハゲ講師の話とか……でも何かこの子、冗談通じそうにないし……そこへ、
「ねぇ、いっちゃ~ん!」
桃里という学生との会話に困っていると和が声をかけてきた。助かったぁー!
「どうした?」
「あちらのお嬢さま方がね、いっちゃんとチェキ撮影希望してるの~! よろしく頼むね~」
えっ撮影? そういえばさっきから私の方をジロジロ見ている女子高生らしい三人組がいた。私と目が合うと「キャーッ」と黄色い声を上げた。
「えっ、マジで? 何か恥ずいじゃん! ヤダよ」
「チェキ代の半分はメイド本人にあげる……取っ払いよ♥」
「やります店長♥」
店長かどうかは知らないが、私は勝手に和を店長呼ばわりした。オムライス用の薄焼き卵も多めに作ったので私は桃里という子に一言告げて女子高生たちとチェキ撮影に臨んだ。
客席には妹もいた。しかも見るからにロリコンっぽい男どもが妹とチェキ撮影するために行列を作っていたのだ。おい、妹に指一本でも触れたらボッコボコにしてやるからな!
くっそぉ~竹刀持ってくるの忘れた……あれ、そういえば!
妹はコーヒー淹れるのに忙しいんじゃ……!? よくみると他の学生が妹の代わりにコーヒーを淹れている。どうやら妹が淹れ方を教えたようだ。
※※※※※※※
「お待たせ! 遅くなってごめん」
「あっ、いえ……女の子から大人気なんですね」
私は厨房に戻ると桃里という子に頭を下げ、再び卵を焼き始めた。あれだけ用意した薄焼き卵がもう底をつき始めていた。
それにしても相変わらず気まずい! 何か話題は……あっ、そうだ!
「ところで……この集まりってテニスサークルなんだよね?」
「あっ……はい」
テニスサークルといえば陽キャの集まり……なのにこの子は大人し目でとてもそうは見えない。私は思わず聞いてしまった。
「あのっ、和から聞いたんだけど……ヤリサ―って本当?」
――あ゛。
間違えたぁああああああああっ!! 「飲みサー」って言おうとしたらついうっかり「ヤリサ―」なんて言ってしまったぁああああっ!
ただ……和は以前、はっきり「ヤリサ―」と言っていた。
桃里という子は耳まで真っ赤になり
「ええええっ! そっ、そんなんじゃありませぇん!」
「ゴメン! 飲みサーと間違えた!」
すると彼女は落ち着きを取り戻し
「私、この暗い性格を直したくてサークルに入ったんです! それに……」
私の目を見ると頬を赤らめてこう言った。
「私……男の人に興味ないんです」
貴音なのです。
コーヒーやオムライスのうんちくを並べたらお話が長くなってしまったのです。




