私は妹とメイド喫茶の「呼び込み」をした(いづみside)
――何でこれがあるんだよ!?
私と妹の貴音は、和に「(メイド喫茶を)手伝ってほしい」と言われた……協力するのはいいが、メイド服など着たくない。
そもそも私たち用のメイド服なんて用意されてないだろ……と思っていたら和がなぜか私たちのサイズに合わせたおそろいのメイド服を持っていたのだ! これは一度だけ、母・茅乃に「罰」として着せられたヤツだ……なぜ和がこれを?
「オマエ……まさか?」
「そぉよ~茅乃ちゃんから渡されたの♥ いっちゃ~ん! 最近の茅乃ちゃん、何かヘンじゃなかった~?」
元々茅乃は変なヤツだが……特に最近は変なことがありすぎた!
先日は突然「オムライス作れ」と要求してきたり、今日も出かける前に「できるだけ早くナゴ(和)に会ってきな」と言ったり……なるほど、そういうことか!
「オマエ……初めから私たちに手伝わせるつもりで茅乃と連んでたな?」
和は高校時代から茅乃と仲がいい。正直、和の方が血の繋がった親子じゃないかと思うことすらある。
「正解~! というワケでさっそく着てちょうだい」
「ふざけんな! 勝手に話し進めやがって! だいたい妹だって……」
「あら~? 貴音ちゃんはもう着てるわよ~」
振り返るといつの間にかメイド服を着た妹が立っていた。
「お帰りなさいませおねえちゃん! 貴音はメイドさんになったのです♥」
ブルータス! お前もかぁああああっ! そういや妹はウエイトレスの制服に憧れていて、茅乃からメイド服もらったときもメッチャ喜んでたわ。
「というワケで~、いっちゃんも着替えてきてね~♥」
「う゛ぅっ……」
「あっ、それと~」
「何だよ!?」
「ちゃんとメイクもしてね! まぁど~せ持ってきてないんでしょ~から私がしてあげる♥」
「いらねーだろ! 厨房なんだから」
「それがいるんだな~」
コイツ……何を企んでいるんだ? でも妹も乗り気だし……仕方なく私も更衣室へ着替えに行った。
※※※※※※※
メイド服に着替えた私は和にメイクを施された。どちらかといえばナチュラルメイクに近い……私が予想していたのとは違っていた。
「それじゃまずは貴音ちゃん! ちょっと多めにコーヒー淹れてくれる?」
「はいなのです」
「コーヒー担当の子も~この可愛いバリスタちゃんの淹れ方をよ~く見ててね!」
「はい!」
妹はすっかり「バリスタ」呼ばわりされている。それにしても妹がここまでコーヒーを淹れる「才能」があるとは思ってもいなかった。
「ちょっと待て! お客さんがいないのに淹れるのはまだ早いだろ」
コーヒーは鮮度が大事……なのに何で? すると和は
「ココで待っててもお客さん来ないわよ~、こちらから出向くのよ~」
「えっ?」
そう言うと和は、コーヒーをポットに入れると大量の紙コップを用意した。
「今から外に出て~呼び込みをするのよ! 貴音ちゃん! いっちゃん! 一緒についてきて」
「えっ!? 私は行かないよ」
そんなことしたら……男が大勢集まるじゃん。
「大丈夫~! いっちゃんには『別の目的』があるから~」
えっ、何だよ「別の目的」って?
※※※※※※※
私と妹と和の三人で校舎の外に出た。
普段は学生がまばらにいる程度の中庭が今日はすごい人だかり……そんな場所に私は、ア●ミラ風のメイド服を着て立っている。
――マジで恥ずい!
一応、アン●ラ風ではあるがロングスカートでメイド服っぽくはなっている。だがこの胸元が開いた形……これはヤバい! 巨乳がメッチャ強調されてしまう!
しかし私は「小さく見せるブラ」をしている。和のことだから「いっちゃ~ん、それ外しておっぱい強調して~♥」って言うと思ったが何も言われなかった。
「テニスサークル、メイド喫茶でーす! 只今コーヒーの試飲やってまーす」
和が声を張り上げて呼び込みをしたがイマイチ反応が悪い。こちらを向いている男たちがスマホを見ながらヒソヒソと話している。やっぱりSNSで悪い評判を流されたせいか?
男たちの様子を見た和は、妹の肩に手を置くと
「コーヒーがリニューアルしましたー! この子が新しいバリスタでーす♥」
と紹介した。するとその男たちは妹の前にドッと集まってきた。
「えっキミが淹れたの?」
「うわっカワイイ!」
「マジかよ? 客寄せのネタじゃないのか?」
そこへ和が
「ネタかどうか、飲んでみて感想言ってね~」
と紙コップに少しだけ入れたコーヒーを男たちに手渡した。
「あっ、これウメ―じゃん!」
「ホントだ! カフェで出されるのと変わんねーよ」
「おい、このSNSの言ってること違うじゃん」
やっぱりSNSの影響だったか! 一度こういうウワサが立つと皆、真偽を確かめずに遠ざかっていくからなぁ~。
味の評判は良かった。後はこれがどのくらい伝わるか……。だがこの数人の男たちの「試飲」がとんでもない事態を引き起こす。
遠巻きに見ていた通行人が次から次へと私たちの元へやって来た。もちろん試飲が目的だが、どうやらそれだけではなさそうだ。
「きゃー、何この子! かわいー♥」
「おぉー、天使だ! すげー」
「天使ちゃん! お兄さんにもコーヒーちょうだーい」
カワイイもの好きの女たちとロリコンが妹の元へ集まってきた。さらに……
「うわっ、このお姉さんすごっ!」
「こっ、これはいいもんを拝ませてもらった♥」
ハッキリとは言わなかったが、確実に「巨乳」目当ての男たちが和に群がってきた。巨乳とロリ……ったく、だから私にとって男は嫌悪の対象なんだよ!
それにしても近くに男たちが群がってきて気分が悪い。しかもこの状況じゃ私が来た意味ないんじゃね?
それともアイドル歌手の握手会にいる「剥がし」でもやれってことか? まぁ妹に触ろうとしたら「剥がし」どころかブン殴ってやるけどな! と、そこへ……
「きゃー、このお姉さん超カッコイイー♥」
「ホント! メイド服とのギャップ萌え~」
「あぁ~ん、もう! おネエさまに甘えたい~! エモい~」
明らかに百合系の好きそうな女の子たちが私の元へ集まってきた。
気がつくと……私たち三人の周りはすごい人だかりになっていた。
「たっ、大変なのです! もう試飲のコーヒーがないのです!」
妹は焦っていたが、もう周囲に試飲のコーヒーを求める様子はなかった。全員スマホを取り出し、私たちを撮影し始めていたのだ。
「すみませーん! 一緒に撮らせてくださーい」
「ごめんなさーい、ツーショット撮影はお断りでーす! 店内でチェキ撮影できますのでぜひ『ご帰宅』してくださーい! 場所は第二校舎のC教室でーす」
和が群衆にそう案内すると、
「おい行こうぜ!」
「私たちも行きましょ」
「天使ちゃーん、先にお店で待ってるからねー!」
群衆は吸い込まれるように、メイド喫茶のある第二校舎へ向かっていった。
私が呆気に取られていると
「さてと、これで巨乳好きとロリコンの『ご主人様』、そしてカワイイもの好きと百合好きの『お嬢様』が集まったわよ~……二人とも、頑張ってね」
コイツ……そのために私たちを連れ出したのか!? なかなかの策士だわ。
貴音なのです。
和おねえちゃんの隣に立つと……みっ、みじめな気分になるのです!




