《小休止なのです》
「いづみでーす」
「貴音なのです」
「初めて会ったときの話だね……ってか貴音ちゃん、最初お姉ちゃんのこと男だと思ってたんだよね」
「そっ、それはおねえちゃんがあんな格好で来たからなのです! 初めて会うのにあの格好は失礼なのです!」
「えー、でも私は元々そんなに服持ってないしなぁ……大学の入学式も普段着で行こうとしたら茅乃に止められたっけ! で、スーツをレンタルしたんだけど……」
「まさか……なのです」
「……さらしを巻いた」
「……ウソでもいいから貴音もそんなセリフ言ってみたいのです」
※※※※※※※
「冒頭はそれぞれの自己紹介を兼ねたエピソードだね」
「おねえちゃんは男の人が苦手、貴音は三歳のときにママがお星さまになっちゃった……というお話なのです。おねえちゃん! 家にはパパがいるのですが大丈夫なのですか?」
「んー、まぁ正直まだ緊張するけど……貴音ちゃんのお父さんは優しそうな人だからたぶん大丈夫だよ」
「……パパは存在感ないから気にならないのです」
「こらこら! それより貴音ちゃんは茅乃のこと平気? クセ強めだけど……」
「大丈夫なのです! 貴音はママさんが家政婦だったときから大好きなのです!」
「そうだ! 今回は家族の顔合わせの回だから、もう一度おさらいしておこうよ」
「まずは尾白家なのです! 尾白家は童話作家をしているパパの『尾白 延明』とわたし、『尾白 貴音』の二人家族だったのです。ママは貴音が三歳のときにお星さまになったのです」
「あともうひとり……」
「そうなのです! 愛犬の『クララ』がいるのです。次の次のエピソードで登場するのです! そのときちゃんと紹介するのです!」
「次は武川家だね! 武川家は母の『武川 茅乃』と私、『武川 いづみ』の二人家族でした。両親は私が小学校低学年のときに離婚して、それからずっと母・茅乃はシングルマザーで私を育ててくれました」
「貴音も二年前から育ててもらっているのです!」
「ま……まぁそういうことになるか。で、再婚したことで茅乃は『尾白 茅乃』と姓が変わりました」
「あれ? 何でおねえちゃんは武川のままなのです?」
「いい質問だね! 実は連れ子だからといって養子縁組する義務はないんだよ! お姉ちゃんは最初、ひとり暮らしをして自立するつもりでいたから延明さん……つまり貴音ちゃんのお父さんと養子縁組していないんだよ」
「えっ! じゃあ貴音とおねえちゃんは姉妹ではないのですか?」
「正確にはね、連れ子同士だよ」
「じゃあ呼び方を変えるのです! ヘンタイおっぱいさん……」
「こら! 本文より先にネタをバラすな」
※※※※※※※
「ところで……貴音たちの名前には何か共通点があると聞いたのです」
「そうなんだよね、ここから先はウラ話になるんだけど……実は私たち、山梨県北杜市にある『公共温泉』の名前をモチーフにしているんです!」
「えっ、よくわからないのです」
「まずはお互いの苗字、尾白は白州町にある『尾白の湯』、武川は武川町の『むかわの湯』です!」
「名前は何なのです?」
「貴音ちゃんは、高根町にある『たかねの湯』、私は大泉町にある『泉温泉健康センター』です!」
「パパとママさんは……」
「小淵沢町にある『延命の湯』、茅乃は明野町にある『茅の湯』……現在は『クララの湯』と名前を変えています」
「あっ、ここでクララが出てきたのです!」
「ちなみに貴音ちゃんが小さい頃読んでいた童話の主人公・マグナちゃんは白州町にある『フォッサ・マグナの湯』ですよ」
「じ、じゃあ貴音たちが住んでいるところは北杜市なのです?」
「あーそれは違うよ! 本文で固有の地名が一切語られることはないんだけど……舞台は作者が住む山梨県甲府市とその周辺になります! 実は今回私たちが出会ったホテルのレストランも、モチーフにした場所があるんです」
「もしかして……あの温泉街の入り口にあるホテルなのですか?」
「正解!」
「まだまだ貴音とおねえちゃんには秘密があるのです」
「そうだね! これから徐々に明らかにされていくのでよろしく……そういえば、貴音ちゃんのお母さんってお星さまになっちゃったんだよね」
「そうなのです! だから貴音はママに……お星さまに逢いたいのです! いっぱいいっぱいお星さまがほしいのです!」
「……えっ?」
「このお話の下に『お星さま』があるのです! これを五つにして貴音にくださいなのです! もう一度言うのです! 貴音をお星さまに逢わせてほしいのです!」
「そ……そういうことなのでよろしくお願いしまーす」
「お星さまに逢いたいのですぅううううううううっ!」