私は妹を連れて学園祭に行った(いづみside)
「おねえちゃん! 貴音は今日、とっても楽しみなのです♥」
願いむなしく……晴れてしまった。
※※※※※※※
六月のとある日曜日、この日は私が通う短大の「学園祭」だ。普段は女子だけが通う「女の園」だが、この日ばかりは一般客……つまり「飢えた獣」どもがやってくる忌わしき日になってしまう!
男性恐怖症の私としては、何としてでもこのクソつまんねーイベントを回避したかった。だが元カノの「平井 和」にそそのかされた妹が、学園祭に行きたいと言い出したのだ。
妹は行く気満々、私は絶対行きたくない……ここは円満な解決方法として「雨天中止」を強く願っていたのだが……願いむなしく晴れてしまった。
仕方ない、カワイイ妹のためだ。私はメイクをせず、できるだけ男から声をかけられないよう準備をしてから妹を連れて学校に来た。妹の方が超絶美少女なのでナンパされそうだが、大の男が中学一年生女子をナンパしたら倫理的にアウトだ。
「ようこそー! こちらパンフレットになりまーす」
入り口でパンフレットをもらった。すると……
「あらっ、いづみ来たんだー……えっ、何この子!?」
「あぁ、妹だよ」
さっそく同じ科の友人につかまってしまった。そして妹の顔を見た友人は……
「きゃー! 妹さんカワイイーッ♥」
と絶叫した。すると「カワイイ」という声に反応したカワイイもの大好き十代後半女子たちが、まるで池の鯉のようにわんさかと集まってきた。
「えっ、えっ、カワイイッ! 何でー!?」
「すごーい! かわいーっ」
「うわっ、可愛い! カワイー! すごーい!」
基本、彼女たちは「カワイイ」と「すごい」以外の語彙力はない。
「えっ? ふぇっ……」
いきなり女子大生の大群に囲まれ、妹はうろたえていた。
「あぁごめん! そろそろ行くから……」
「えぇーっ、もうちょっとお話しましょ!」
「ねねっ! ウチのサークル、占いやってるからぜひ来てねー!」
「あぁっウチも! フランクフルト美味しいよー!」
「ウチも!」「ウチも!」
妹は大人気だったがこのまま鯉の餌にするワケにはいかない。私は妹の手をつなぐと構内に入っていった。
※※※※※※※
「び……びっくりしたのです」
私も……妹のモテっぷりにな! まぁある程度想像はしていたが。
「ねぇ貴音ちゃん、どこか行きたい所ある?」
「メイド喫茶に行きたいのです」
メイド喫茶は和が所属する飲み……テニスサークルがやっている模擬店だ。私はパンフレットを見て場所を確認した。
――第二校舎のC教室……一番奥じゃん!
「貴音ちゃん、メイド喫茶は遠いから他の場所見てからにしよっ!」
「はいなのです!」
実は出かける前、母・茅乃から「できるだけ早くナゴ(和)に会ってきな」と言われた。でもなぜなのか理由を教えてくれないし、意味もわからないので無視することにした。
「すごいのです! 夜にはコンサートがあるのです!」
妹もパンフレットを見て、行きたい場所やイベントを探していた。どうやらこの日の夜、学園祭のフィナーレとしてアイドル歌手のコンサートがあるのだが……
「えっ、誰が来るの?」
「忍野萌海なのです」
地元で活動している、いわゆるローカルアイドルだった。
「……どっちでもいいわ」
「……なのです」
もうちょっと予算出せなかったのかなぁ……ウチの大学。
※※※※※※※
「おねえちゃん、貴音は楽しいのです♥」
「あぁそう……よかったな」
私は妹と、ひと通り学園祭の模擬店を見て回った。色々と食べたり飲んだり、占いやゲームなどで楽しんだ。妹も満足そうだったので……
「さて、そろそろ帰るか?」
「えっ、メイド喫茶には行かないのですか?」
うわー、できれば行きたくないんだけどなぁ! 私がなぜそう思ったのか……それは行けばわかる。
はぁ、しょうがない……行くか。私と妹は和のいるメイド喫茶に向かった。
※※※※※※※
「お帰りなさいませ! ご主じ……何だ、いっちゃんじゃな~い」
「オマエ今、私の顔見て『ご主人様』って言おうとしたろ!?」
メイド喫茶と書かれた教室の入り口で、いきなりメイド服姿の和から先制パンチを浴びた。私だって女だ……そこは『お嬢様』と言ってくれ!
「あら、お帰りなさ~い貴音お嬢様!」
「ただいまなのです! お漏らしのおねえちゃ……むぐぐっ!」
今度は和に向かって、妹の強烈なカウンターパンチが飛び出した。
「貴音ちゃ~ん、大人の世界は言葉を選ぶのよ~」
「むぐー、むぐぐー!」
すかさず和は妹の口をふさいだ。そして私に向かって
「もぉ~、茅乃ちゃんから早く来るように言われなかったぁ~!?」
怒った口調……どちらかと言えばケンカ腰の態度で話しかけてきた。
「えっ、いいじゃん学祭楽しんだって! 貴音だって楽しんでいたし……」
「何よ! (学園祭に)興味ないって言ってたくせに~! ま、貴音ちゃんがそう言うんなら仕方ないけど~」
いつもならこういう場で一番浮かれているハズの和だが何か様子が変だ。そういえば店内にも何か「違和感」を感じる。
妹もなにやら「違和感」を感じているようだが、どうやらそれは私が思っているのとは別の部分らしい。妹は和のメイド服の「ある部分」を見て目が釘付けになっていたのだ。
「なっ……和おねえちゃん! すっ、すごいのです」
妹は和の「胸」を凝視していたのだ。このメイド服は茅乃の手作りだが、デザインが一昔前に流行った「アン●ラ」風……この制服は巨乳だとかなりヤバい!
「そぉ~? じゃ、後で中も見せてあげようか?」
「おいやめろ」
「冗談よ~! それより、二人にお願いがあるんだけど……」
んっ、やっぱり和の様子がおかしい。それとよく見たら店内の「違和感」が何なのかわかった!
――店内に客が一人もいない!
確かにこの場所は少し奥まった場所にあり、学生以外にはわかりにくい場所。それに今どき学園祭のメイド喫茶なんて使い古された「ネタ」でしかない。客がいなくても不思議ではない。
しかしメイドたちは和はもちろん、他のメンバーだって決して悪くない容姿だ。それに飲みサーなら他の大学から男子学生が遊びに来ていてもいいハズ……何でこんなにジョイ●ンのサイン会状態になっているのか皆目見当がつかない。
メイド喫茶とは思えない重苦しい雰囲気の中、席に着いた私と妹がメニュー表を見ようとしたら、注文していないのに和がコーヒーをふたつ持ってきた。
「お代はいいからさぁ~、ちょっとコレ……飲んで感想くれる?」
えっ、何? いきなり……そういや和はさっき「二人にお願い」と言っていたのだが、もしかしてこのこと? 試飲しろってことか……。
私はコーヒーをひと口だけ飲んでみた……んっ!?
こっ、これは……いや、いくら元カノでもこれは正直な感想を言いづらい。和だけじゃなく、サークルの他の子たちも傷つけてしまう……。
「どう、貴音ちゃん……おいしい?」
和が妹にそう聞くと、妹はとんでもないことを言い出した。
「これ……とってもまずいのです!」
貴音なのです。今回は投稿が遅れてしまったのです。ごめんなさいなのです。




