貴音は王子様の妹になったのです(貴音side)後編
……この人、理想の王子様なのです!
パパの再婚相手、武川さんの家族と顔合わせした貴音は、「理想の王子様」こと武川いずみおにいちゃんのカッコよさにキュンキュンしてしまったのです。
そして全員があいさつを済ませると、みんなで席に着いて食事を始めたのです。
――それにしても……カッコイイのです~♥
しかもこの「王子様」ちょっとワイルドな感じがするのです。
貴音たちはフォーマルな格好をしていたのです。貴音もこの日のためにドレスを新調したのです。でもこの王子様だけゆったりとしたスウェットにジーンズ……完全にカジュアルな格好だったのです。
「いづみ、もっとお行儀よく食べなさい!」
「え~、めんどくさいなぁ」
しかも料理の食べ方もワイルドなのです。デザート用のフォークで前菜を食べたり、ナイフを使わずにステーキを食べているのです……ちょっと面白いのです。
見た目も行動も、まるで少女マンガに出てくるちょっと不良っぽいイケメンみたい……貴音はこの王子様に「壁ドン」してもらいたいのです!
「ところでいづみさん、例の同居の件なんですが……」
パパが王子様に「同居の話」を聞いていました……忘れていたのです! そういえばこの王子様、実は貴音たちと一緒に住むのをイヤがっているらしいのです!
――こんなカッコイイ王子様……絶対ウチに来て欲しいのです!
貴音は神様にお祈りしたのです。
「あっ、よろしくお願いします! 大学も近いですし、お世話になります!」
――えっ? やったぁああああああああっ♥ まさかのオッケーなのです!
「……はぁ?」
でも……その言葉を聞いた王子様のママさん・茅乃さんは、なぜか驚いてフォークごとお肉を落としてしまったのです。
「あっ、ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言うと王子様は、ママさんから逃げるようにトイレへ向かったのです。
※※※※※※※
「あっ、貴音もおトイレに行ってくるのです」
しばらくして貴音もトイレに向かったのです。貴音はパパと何度かこのお店に来ているのでトイレの場所も知っているのです。
トイレに向かっている間、貴音は天にも昇るウキウキした気分だったのです。
――王子様と一緒に住めるのです!!
これから毎日あのカッコイイ王子様と過ごせるのです。王子様には、貴音の専属家庭教師になってもらいたいのです。そして……座って勉強している貴音を後ろから〝ぎゅっ♥〟と抱きしめて欲しいのです!
そうなのです! 貴音は……
――あの「王子様」のお嫁さんになりたいのです♥
人生の目標ができたのです。これから毎日が楽しいのです! ママの温もりも欲しいけど、理想の王子様も欲しいのです。そんなことを考えていたら……
おっ……
――王子様なのですぅううううううううっ♥
トイレから出てきた王子様とバッタリ会ったのです! でも……あれ?
王子様は何と女性用トイレから出てきたのです。
……えっ何で? 間違えたのですか? それとも女性用トイレがお好きな変態さんなのですか?
「あ、あの……」
貴音は勇気を出して王子様に話しかけたのです。
「ん? どうしたの?」
「あの、ここ……女性用トイレなのです……」
「う、うん……知ってるわよ」
――わよ?
その言葉を聞いた貴音は、全てを察したのです。
――この人……もしかして女の人?
もしかして……おねえちゃん……なのですか?
「あ、あの……いずみさんって……『お兄さん』じゃないのです……か?」
「えぇっ! 私、女よ! あなたの『お姉さん』になるのよ」
「ふえぇええええっ!? ごごっ……ごめんなさいなのですぅううううっ!」
――間違えたのですぅううううううううっ!!
王子様は女の人なのに、勝手に男の人だと思って話しかけてしまったのです!!
貴音は「おねえちゃんになる人」に対して思いっきり失礼なことを言ってしまったのです! 貴音は悪い子なのです! 貴音は顔から火が出るほど恥ずかしくてそのままトイレへ駆け込んだのです。
――ふわぁ! はっ……恥ずかしいのですぅううううううううっ!
これが貴音と、「王子様」こといづみおねえちゃんとの出会いだったのです。
※※※※※※※
おねえちゃんは今でもたまに、このときの話を貴音にするのです。
「そういえば貴音ちゃん……最初お姉ちゃんを男だと思ってたんだよね?」
「えっ、そそそそれは誤解なのです! だっ、だっておねえちゃん……」
おねえちゃんはときどき、イジワルなことを言うのです!
「じゃあ聞くけど……私はお兄ちゃんとお姉ちゃん、どっちならよかった?」
「もちろん、貴音は『おねえちゃん』が好きなのです! だから……」
――だから、貴音はおねえちゃんに「仕返し」をするのです!
「おねえちゃん! また『むぎゅ♥』ってして欲しいのです!」
貴音にとって、これは最高の「ごほうび」なのです。でも……
「わかったよ貴音ちゃん……来な」
おねえちゃんはイヤがるどころか、逆にうれしそうなのです!
〝むぎゅ♥〟
――ほわぁああああっ! きっ……気持ちいいのですぅううううううううっ!
実はおねえちゃん……ママと王子様の両方だったのです!
それはどういうことか……今度お話するのです。
貴音なのです。次回も読んでほしいのです。