【番外編】私には……居場所があるんです(和side)「起」
この日……私は突然「拉致」されてしまいました。
私の名前は「平井 和」、市内の短大に通う十八歳です。
大学の講義が終わった帰り……ある理由から一人暮らしをしている私は、通り沿いのスーパーマーケットに立ち寄り夕ご飯の買い物をしようと考えていました。
いつもならコンビニのお弁当で済ませるのに……なぜこの日に限ってスーパーに行こうと思ってしまったんでしょう。いつも通りコンビニで買い物すれば拉致られることはなかったはずです。
私がスーパーの入り口で買い物かごに手をかけたとき……
「おー、ナゴじゃねーか!」
突然、ある人から声をかけられたんです!
……声をかけてきたのは「茅乃ちゃん」でした。
※※※※※※※
「えっ、茅乃ちゃ~ん!?」
茅乃ちゃんとは、私の友人で元カノの「いっちゃん」こと「武川 いづみ」のお母さんのことです。
「珍しいねこんなところで」
「うん、ちょっと夕ご飯でも作ろうかな~って……」
「えらいじゃん! ちゃんと自炊してんだ」
「アハハ……まぁね」
――本当はほぼ毎日コンビニだよぉ~!
「ってことは一人暮らしなんだな」
「う……うん、まぁね」
すると茅乃ちゃんが、
「じゃあ……まだ帰ってないのか?」
核心に触れることを言ってきました。私は軽く頷くだけで返事をせず、その話に関して深く掘り下げないようにしました。
――あそこは私と無縁の場所よ……私の居場所じゃない!
「そういえばナゴ! オマエまだ買い物してないんだろ」
「えっ、うん……まだしてな~い」
「そっか……だったらウチに来な! ウチで夕飯食っていけよ」
「えっ!」
高校時代……学校の帰りに私はいつも、友人のいっちゃんの家に立ち寄っていました。そしていつもいっちゃんの母親の茅乃ちゃんに夕ご飯をごちそうになっていたのです。
当時私は寮生活をしていました。寮にも食事はありましたが、高校生はすぐにお腹が空きます。そこで寮に帰る前に、いっちゃんのアパートに立ち寄って茅乃ちゃんが作る料理を食べていたんです。
……まぁ、メニューはいつも一種類だけでしたけどね。
なのでまた……あのときのように茅乃ちゃんから夕ご飯をごちそうになるのはとてもうれしい……んですが……。
「ん? 何か用事でもあるのか?」
「うう~ん、気持ちはうれしいんだけど……」
あの家には「犬」がいるんです! 茅乃ちゃんは大好きだし、いっちゃんはいてもいなくても関係ないしそれに……あの家には超絶カワイイ「貴音ちゃん♥」がいるし! あぁんっ! もぉっ貴音ちゃんのパンツ脱がしてあ~んなことこ~んなこといっぱいヤリた~い♥
なので本当なら今すぐにでも行きたいところだけど……
私は犬が死ぬほど嫌いなんです! 前回初めて行ったときは犬の存在を知らなくて、いきなり飛びつかれるわ貴音ちゃんに押し付けられるわ……最後は気絶してしまい、しかもお漏ら……あぁっ! 何たる不覚ぅううううっ!
「あぁクララ(犬)のことか? 帰ったら貴音ちゃんの部屋に閉じ込めとくから心配するなよ! クララは貴音ちゃん専用のペットみたいなもんだからね! 一緒にしておけばずっと遊んでるよ」
――あぁ、私は貴音ちゃんを専用ペットにしたいんだけどなぁ~♥
「で……でもなぁ~」
「何だよナゴ! オマエ、本当は来たいんだろ? だから前に来たときわざわざ玄関で『マーキング』したんじゃねーのか!?」
――いやぁああああっ! 街中でその話はしないでぇええええええええっ!
「あのあと掃除大変だったんだからな! 罰としてウチに来い!」
「うぅっ……」
こうして私は茅乃ちゃんに脅される形で拉致されてしまったんです。
※※※※※※※
「ワンッ、ワンワンッ……ハッハッハッ……」
――うぅっ! やっぱり怖いよぉ~!
私は茅乃ちゃんの家に初めて入りました。前に茅乃ちゃんといっちゃんが住んでいたアパートとは比べ物にならないくらい広い家です。
私は今、リビングのソファーに座っていますが……少し離れた場所に「アレ」がいて、こっちを見ながら尻尾を振っているんです!
「ねぇ茅乃ちゃ~ん……これ、どうにかならない?」
「あぁ、もうすぐ貴音ちゃんが帰って来るから……それにケージに入ってるから大丈夫だよ」
「えっ……でも……何か飛び越えそう」
ケージと言っても……ただ四方が仕切ってあるだけで屋根がありません。しかもこの犬、さっきからピョンピョン飛び跳ねて今にも飛び越えてきそうな気配がするんだけど……ホントに大丈夫?
「貴音ちゃんの話だと月に一~二回ぐらいしか飛び越えないってよ」
「やっぱり飛び越えるじゃ~ん! もうヤダぁ~!」
と、そこへ……
「ただいまなのです!」
――あっ、貴音ちゃんだぁ~♥
「貴音ちゃ~ん、お邪魔してます~!」
貴音ちゃんは私の顔を見ると、目を輝かせてこう言ってきました。
「あっ、お漏らしのおねえちゃん! お久しぶりなのです」
う゛ぅっ! いきなりの「言葉攻め」が来た! これは効くわぁ~♥ やっぱこの子は「タチ」の素質あるわね!
「貴音ちゃん、さっそくなんだけど……この子連れてってくれる?」
「えっ、ついにお漏らしのお姉ちゃんもクララと仲よくなったのですか!?」
あのさぁ~! どこをどう解釈したらそういう考えに行きつくのかなぁ~。それとそのあだ名絶対にやめて~! もうっ、この子ってもしかしたら「タチ」というより「ドS」なのかも?
「貴音ちゃん! クララを散歩させたらそのまま部屋で遊ばせてあげて!」
「はいなのです」
茅乃ちゃんがフォローしてくれた。貴音ちゃんが犬を抱きかかえて外に連れ出そうとしたとき、
「あっ、貴音ちゃん!」
私は「あること」を思い出し、貴音ちゃんを呼び止めました。
「どうしたのです?」
「あっあのさぁ……来月お姉ちゃんたちの大学で学園祭があるんだけど……」
「?」
「私たちのサークルで『メイド喫茶』やるんだけど……来てくれる?」
すると貴音ちゃんは目をキラキラと輝かせて
「行く行く行くっ! 行くのです!」
――あぁ~っ、イクイクイクッって……夜のベッドで言わせたいわぁ~♥
「じゃあ特別に食券あげるね! これ持っていづみお姉ちゃんと一緒に来てね」
と言って食券を茅乃ちゃんに渡しました。本当は本人に直接渡したいけど、この子は犬を抱えている……近づけな~い!
「いいのかナゴ!? こんなのもらって……」
「いいのよ茅乃ちゃ~ん! 衣装作ってもらったお礼もしたいし……」
※※※※※※※
貴音ちゃんは犬を連れて散歩に行き、家の中は茅乃ちゃんと二人っきりになりました。私はリビングでスマホをいじりながら、キッチンにいる茅乃ちゃんに話しかけました。
「茅乃ちゃ~ん! 色々ありがとね~」
「ん? あぁ、この間の衣装のことか?」
ううん! まぁそれもあるけど……それだけじゃない。
私は……茅乃ちゃんには足を向けて寝られないほど感謝しているんです!
だってこの人は……私に「居場所」をくれた人だから……。
茅乃ちゃんに出会う前、私には……
私の人生には……居場所なんてありませんでした!
貴音なのです。今回からお漏ら……和おねえちゃん視点のお話なのです。




