私の家に妹の友だちが転がり込んできた(いづみside)前編
姉妹って……やっぱりいいよなぁ。
……私は改めてそう思った。
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数時間前……
「ただいまー」
学校から帰って来た私は、見慣れない靴があることに気づいた。大きさからして持ち主は妹・貴音の友だちだと思うが……。
「あっ、おかえりいづみ! あのさぁ、今夜のおかずはハンバーグにしようと思ってるんだけど……」
キッチンから出てきた母・茅乃が唐突に言ってきた。コイツの「しようと思っている」は基本的に「する」……つまり決定事項だ。
「えっ、ちょっと待って! ハンバーグはこの間、私が貴音ちゃんに作ってあげたばかりだよ! こんな短いスパンでハンバーグはさすがにキツイわ」
「えぇっそうなの? だったら相談すればいいのに……」
「相談するのはそっちだろ! ってか何でハンバーグを作ろうと……」
「だって、ここになぜかナツメグが買ってあったからさぁー、ナツメグと言ったらハンバーグじゃん!」
いや、そのナツメグはつい先日、妹にハンバーグを作ってあげるために私が買ったヤツなんだが……。
「とにかく、私と貴音ちゃんはこの間食べたばかりだから他のにして」
「えぇー、でも割引シールの貼ってある挽肉買っちゃったのよー、今日が賞味期限なんだからそれはムリ!」
えぇっ!? と思いながら冷蔵庫を開けてみた。すると確かに「半額」と書かれた挽肉があった……しかも大量に!
「これ……いくらなんでも量が多くね?」
母子家庭だった私の家はとても貧しく、スーパーの半額シールが貼られた商品には母も私もつい反応してしまう。だがいくらなんでもこれは買い過ぎ……賞味期限切れにしてしまい逆に損するパターンだ。
「いいじゃん、アンタたち育ち盛りなんだから」
「いや貴音ちゃんはいいとして私はもうそんな年じゃないぞ!」
「えっ、アンタもナゴ(和)みたいにもっとおっぱい大きくすればいいじゃん!」
「イヤだわ! あんなバケモノ乳になりたくねぇよ!」
――うわー、せめて餃子とかキーマカレーとか……別の物にしてくれよぉ!
すると茅乃が、
「あぁそうだいづみ! 貴音ちゃんの部屋にお茶菓子持って行ってくれる?」
「えっ、誰か来てるの?」
「天が来てるよ」
「えっ、天ちゃんだけ? 空ちゃんは?」
「ひとりだけだよ、それに……何か様子が変だったんだよねぇ」
そういえば、玄関にあった見慣れない靴は一足だけだった。
菱山 天ちゃん……妹の友だちで、美しい黒髪が特徴的な美少女だ。
天ちゃんは双子の「姉」で、いつもは妹の空ちゃんと一緒にいる。ひとりなんて珍しいなぁ……と思いながらジュースとお茶菓子を持って妹の部屋をノックした。
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「貴音ちゃーん、飲み物持ってきたけど……入るよー」
私が妹の部屋に入るとそこには……ひとりでTVゲームをして遊んでいる天ちゃんと、スマホをいじっている妹の姿があった。
茅乃の言う通り、確かに様子が変だ。二人は一緒にいるというのに、お互いが別のことをしていてまるで熟年夫婦のように会話がなかった。
「あっ、お姉さん! おじゃましてます」
天ちゃんが私にあいさつをした。正直どっちがどっちだか見た目では判断できないが……茅乃が「天」と呼んでたし、ハキハキとした話し方なので多分この子は天ちゃんだろう……だがいつもより機嫌が悪そうだ。
「あぁごゆっくり! ところで……空ちゃんは?」
するとその言葉を聞いた妹は「あっ」と声を上げてスマホを落とした。天ちゃんは私の顔をキッと睨むとなぜかキレだした。
「なっ、何ですかお姉さんまで! 何で私が空と一緒にいる前提でそういうことを言うんですか!?」
「えっ! えぇ……あぁ、ごめん」
私はワケがわからなくて思わず天ちゃんに謝ってしまった。妹は慌てて私の近くへやってくると耳元でささやいた。
「おっ、おねえちゃん! 今、空ちゃんの名前は地雷ワードなのです」
「えっ地雷? 何で?」
「実は天ちゃん……空ちゃんとケンカしたのです! 家出してきたのです!」
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家出? そりゃ穏やかな話じゃないな。
「えっ、どういうこと? 詳しく聞かせてもらえないかな?」
この双子はとても仲がいい。そりゃ「きょうだい」だからたまにはケンカすることもあろうが、家出までするとはよほどの理由があるのだろう。
だがこういう場合、第三者の立場からしてみれば実にくだらない理由だったりするものだ。そこで私は、天ちゃんにケンカの理由を聞いてみた。
「そっそれは……お姉さんには関係のない話です!」
まぁそうくるわな……すると妹が
「それは貴音が説明するのです」
「ちょっ貴音ちゃん! 言わないでよそんなこと」
「ダメなのです! 貴音に言わせないとゲーム使用禁止なのです」
「うぅっ……」
妹は友人に対してもドSっぷりを発揮する。
「実はこの前の中間テスト……天ちゃんは空ちゃんより順位が下だったのです」
「えっ、どのくらい?」
「空ちゃんが十六位、天ちゃんが五十九位……四十位以上差が開いたのです」
「ふーん……で、貴音ちゃんは何位?」
「その話は今、関係ないのです」
――くそっ! 誘導尋問に引っかからなかったか!?
妹が話し始めると天ちゃんはうなだれてしまった。まぁ本人にとっては切実な問題だろうが……やはりくだらない理由だったな。
「ま、まぁそんなのは仕方ないじゃん! いくら双子だからって、生まれてから身につける学力とかはそりゃ差がついちゃうでしょ?」
「そんなことないです! きっと私は生まれる前、空にそういう才能とか全部持っていかれたんですよ! あの子はいつもそうなんです……昔から私が全部お膳立てをして、あの子がいつもおいしい所だけ持っていくんですよ! もうっ、空なんか大っ嫌い!」
すると妹が、
「おねえちゃん、貴音は本当の理由が何となくわかるのです……ちょっと耳を貸してほしいのです」
と言うと私に耳打ちしてきた。
「ごにょごにょ……」
「いや『ごにょごにょ』じゃわからん……ちゃんと説明しろ」
妹は、天ちゃんの成績が悪かった理由を推測して私に説明した……うん、私も妹と同意見だ。
天ちゃんと空ちゃん……この二人は見た目が一緒だが性格が全然違う。天ちゃんは一度こうだと決めたら周りの声に全く耳を傾けないで真っすぐ突き進む「猪突猛進」タイプの子だ。
初めてこの子たちに会ったときも「おっぱい小さくても気にしないで」という私の話に全く耳を貸さず、いきなり服を脱ぎだしておっぱいを見せるような……ある意味「ヤバい子」だ。まぁおかげで私はラッキースケベを体験できたが♥
私はいったん呼吸を整えてから天ちゃんを諭した。
「ねぇ天ちゃん、定期テストはあと四回あるんだから次のテストで挽回すりゃいいじゃん! だから空ちゃんのこと嫌い……とか言わないで仲よくしな! まぁ今日は早く帰って……」
と言うと天ちゃんはなぜか突然、私に抱きついてきた!
「嫌です! 私を今日からこの家の娘に……お姉さんの妹にしてください!」
――えっ!?
――えぇええええええええっ何で?
……うれしいけど♥
貴音なのです。「ごにょごにょ」の内容は貴音視点で明らかにするのです。




