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貴音は王子様の妹になったのです(貴音side)前編

 



 ――貴音(たかね)にはママがいたのです。




 でも貴音は、ママがいたことを覚えていないのです。


 パパは絵本作家なのです。パパは「あの妖精さん(ムー●ン)」の本が大好きで、フィンランドという国に行って勉強していたのです。


 そこでパパはママと知り合い、日本に戻って結婚し、貴音が生まれたのです!


 でもママは、貴音が三歳のときに病気になって……お星さまになってしまったのです。なので貴音には、ママと過ごした記憶がほとんどないのです。


 パパはそんな貴音のために一冊の絵本を書いたのです。「マグナちゃん」という絵本なのです。


 オーロラの中でママと楽しく過ごしていた「マグナちゃん」という女の子の妖精さんはある日、地上にある大きな溝に落ちてしまったのです。

 ママと離ればなれになってしまったマグナちゃんは悲しくて毎日泣いていたのです。でも「良い子にしていたら大きくなったときママが迎えに来てくれるよ」という神様の言葉を信じて、マグナちゃんはとても良い子にしていたのです。


 そしてマグナちゃんが大きくなったとき、オーロラからひとりの『王子様』がマグナちゃんを迎えにやって来たのです。そう、この王子様はママが生まれ変わった姿だったのです。


 貴音は「マグナちゃん」が大好きだったのです。貴音のこのしゃべり方は、マグナちゃんのしゃべり方をマネしていたのです。

 貴音は毎日この絵本を読んで、王子様に生まれ変わったママがやって来ると信じて良い子にしていたのです。



 ――でも、これはウソだったのです。



 貴音も小学校に入りだんだん大きくなってくると、現実を知ってきたのです。


 ――ママは王子様に生まれ変わらないし、迎えにも来ないのです。


 これはパパがついたウソなのです。パパは貴音が悲しまないようにこの本を書いたのです。きっとこれは大きくなって王子様、つまり結婚して幸せになればママがいなくても悲しまないよ……というパパの「思いやり」なのです。


 貴音はパパも大好きなのです。パパはママの分も貴音を好きになって、貴音もママと同じくらいパパのことを好きになっていたのです。



 でも、貴音が小学六年生になったある日のこと……


 パパが突然「再婚する」って言い出したのです。相手は、ずっと家政婦として働いていた「武川(たけかわ) 茅乃(かやの)」さんという人なのです。貴音はパパが大好きなので、パパが好きだというのなら反対はしないのです。

 それに武川さんはとてもいい人なのです。料理も上手で、何でもテキパキとこなすステキな人なのです。貴音も、今まで家にやって来た家政婦さんの中で武川さんが一番好きなのです。


 だけど……


 貴音のママはひとり……たとえ記憶がほとんどなくても、写真でしか会うことができなくてもママは「ママ」だけなのです。

 貴音は武川さんも好き……でも武川さんは「武川さん」、決して「ママ」にはなれないのです。



 ※※※※※※※



 中学校入学前、小学生として最後の春休み中だったある日……


 この日は武川さんのご家族と「顔合わせ」する日なのです。貴音は失礼の無いようにドレスを着て、ホテルのレストランでパパと一緒に武川さんのご家族を待っていたのです。


 もうすぐ貴音の「ママ()()」になる武川さんには、四月から大学生になる娘さんがいるそうなのです。つまり貴音の「おねえちゃん」になる人なのです。


 どんな人なのかとても気になるのです。大学生なのだから勉強を教えて欲しいのです。でもシンデレラのお姉さんみたいにイジワルな人だったらイヤなのです。


「あぁいづみさん、お久しぶりです」

「あぁ、どうも……」


 パパが立ち上がってあいさつをしました……どうやら武川さんのご家族がやって来たようなのです。


「紹介しますよ、娘の貴音です。貴音、立ってご挨拶しなさい」


 貴音は席から立ち上がって振り向いたのです。そして、初めて会う「おねえちゃんになる人」を見たとき……


 貴音は雷に打たれたような衝撃を受けたのです。



 ――えっ!?



 ――えぇっ!?



 ――えぇええええええええっ!?



 何、この人……




 とてもとても……とてもカッコイイイイイイイイッ!! のです。



 えっ!? この人……どこからどう見ても「王子様」なのです! 貴音がずっと夢見ていた「理想の王子様」がやって来たのです!


 目の前にいたのは、背が高くてショートカットの髪型に切れ長な目をした、まるで宝塚の男役のような雰囲気のイケメンだったのです。


「あっ……はっ、初めまして……なのです。尾白……貴音……なのです」


 ――言葉がうまく出てこないのですぅううううううううっ!


 理想の王子様の前なので緊張しているのですぅううううううううっ!



「あ……『()()()』です。よろしく」



 ()()()さんって言うのですね? 名前や、ちょっとハスキーボイスなところが中性的でカッコイイのですぅううううううううっ!


 ――あっ……きゃぁああああああああっ!


 王子様が貴音の目を見つめてきたので、恥ずかしくなって貴音は思わずパパの後ろに隠れてしまったのです。

 もしかしたら「マグナちゃん」のお話は本当なのかもしれないのです。この人はきっと……ママの生まれ変わりの王子様なのです!



 ――あれ? でも何かヘンなのです。



 確か……パパから「お姉さん」と聞かされていたのです。でも貴音の目の前にいるのは、()()()()()カッコイイ王子様のような『お兄さん』なのです。

 でもこれは貴音の聞き間違いだったかもしれないのです。いずれにしても貴音は今この瞬間、このカッコイイ……



 ……()()()()()()に『一目惚れ』してしまったのです。



貴音なのです。後編に続くのです。

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