私は妹と苦手なゲームをする(いづみside)
「おねえちゃん! 貴音と一緒にゲームするのです♥」
私が作ったハンバーグを食べて上機嫌になった妹がそう誘ってきた。
「あっ、ちょっと待ってな! もうすぐ洗い物終わるから」
「はいなのです♥」
私はキッチンで食べ終わった後の食器を洗っていた、「料理上手は片付け上手」が私のモットーだ。まぁ料理以外でも「上手」と言われたら悪い気はしない。私は今まであらゆることに対して「上手」になるべく努力をしてきたのだが……
――どうもこの「ゲーム」というものだけは苦手だ。
この家には据え置きと携帯のどちらでも使えるゲーム機があるのだが、これは妹がほぼ独占して遊んでいる。なので妹が私をゲームに誘うなんて珍しい。
だが私は昔からテレビゲームに興味がない……ていうか家が貧乏だったのでゲーム機を買ってもらえず、そのままゲームに接することがない子に育ってしまった。
私と妹は連れ子同士……姉妹とはいっても育った環境が全然違うのだ。
※※※※※※※
「お待たせー貴音ちゃん」
私はリビングのソファーに座ると隣にいる妹からコントローラーを渡された。
家に機械がなかったからゲーム未経験……というワケではない。高校時代にゲーセン行ったり、友だちの家でゲームしたことくらいはたまにあった。ただ、最近のロールプレイングゲームというヤツは……複雑すぎて理解できないのだ。
「それじゃおねえちゃん! 貴音が教えながら協力プレイするのです」
「はーい、よろしく」
最初に私が使うキャラクターの設定をするらしい。これも面倒だ。
「おねえちゃん、アバターの名前は何にするのですか?」
「アバターって? 別に何でもいいよ」
「じゃあ『王子』と『おっぱい』どちらがいいのです?」
「何だその二択は!? 『王子』でいいよ」
……ゲームスタート。
舞台は何にもない平原だ。どっちに進んでいいのかもわからない。
「まずはおねえちゃん、周囲をあちこち見回すのです」
「ふんふん……」
「よく見るとあちこちに穴があるのです」
「うん確かに……穴があるね」
「この穴にはアイテムがあったりモンスターが隠れていたりするのです」
「えっ、じゃあどうすれば?」
「穴を見つけたら……攻めるのです!」
――穴を攻める!?
マズい! 一瞬ヘンなことを想像してしまった。だがこれはゲーム……余計なことは考えるな!
「センセイ! 穴は空っぽなんですが……」
「ダメなのです。直接穴を攻めると逃げられることもあるのです! なので穴の周辺からそぉっと攻めていくのもテクニックなのです」
――何か……ますます「アレ」を想像してしまうじゃねーか!
穴と言ったら「アレ」しか思い浮かばない……私って汚れているなぁ。と、そこへ何やら可愛らしいキャラが穴から飛び出してきた。
「うわっ、何か出てきた! えっカワイイじゃん」
よく見ると穴から出てきたのはリスのようなキャラだ。
「おねえちゃん、これはリスのように見えるけど気をつけるのです」
「えっ」
「敵なのです! クリを投げつけて攻撃してくるのです! クリ自体も攻撃してくるから気をつけるのです! このクリとリスは徹底的に攻めるのです」
――クリ●リスは徹底的に攻めるのかよー!!
「えっでもどうやって!?」
「スティックを使うのです!」
「スティック?」
「ポチっと出ている大きなヤツなのです! それを指で小刻みに動かすのです! その攻撃でクリとリスは耐えられずどこかに行ってしまうのです」
――ポチっと出ているヤツ攻めたらイッてしまうのかよー! すると……
〝ブウウウウンッ〟
「うわっ、何かブルッて震えたんだけど」
「バイブなのです! 失敗するとお仕置きとしてバイブでやられるのです」
――えっ、バイブがお仕置き? ご褒美じゃないのか?
やっべぇな……ゲームって完全に「アレ」じゃん(※違います)!
いきなりクリ攻撃とは……なかなかハードなプレイだ(※だから違います)。
結局このフィールドで私は思ったように狩りができず……妹の活躍で何とか次のフィールドに進むことができた。
「ごめんね貴音ちゃん、お姉ちゃんまだ慣れてないから……」
「大丈夫なのです! おねえちゃんは貴音がリードしてあげるのです。貴音がおねえちゃんを最後(のフィールド)まで行かせてあげるのです♥」
以前友人の和から言われたが……やっぱ私って「ネコ」? 妹が「タチ」? ていうかまた妹の無自覚爆弾がさく裂したわ! どう考えても言い方がおかしい……そこは「連れてって」であって「イかせて」ではないだろ!?
次のフィールドは……ん、何だこれ?
目の前に何やら不気味な城のような建物が現れた……廃城か?
「これは……ダンジョンなのです」
ダンジョンの入り口で妹が説明してきた。
「このダンジョンは地下に何層も分かれているのです! おねえちゃん! 貴音にピッタリくっついてくるのです」
「えっ……意味がよくわからないんだけど」
まぁ妹にピッタリくっつきたいのは山々だが……どういうことだ?
「この中にいるラスボスは強力なのでひとりでは倒せないのです。ちょっとでも単独行動するとすぐ別々の階に分かれてしまうのです! なので一緒に行動して同じ階に居るのです! そう、階を合わせるのが最終手段なのです!」
――貝を合わせるのかよぉおおおおおおおおっ!? そりゃ最終手段だわ♥
「おねえちゃん! 貴音と階を合わせるのです」
「うん、望むなら貴音ちゃんと貝を合わせてあげよう♥」
私と妹は「かい」を合わせながらダンジョンの地下に潜っていった。地下には水が張っていて、海底都市になっているようだ。
途中で敵キャラを倒しながら進んでいくと……目の前に巨大な……魚?
「ラスボスの『マグロ』なのです! これは攻めるのが大変なのです」
「うん、確かにマグロは攻めても反応が悪いから大変だ」
私と妹は、話が噛み合っているようで実は噛み合っていない。
「おねえちゃん! マグロを最後まで攻め続けるのです」
「えぇっ、でもどうやって?」
「アイテムのリストを出すのです」
「えっ、こっこれか?」
「その中に『ベーロ』という武器があるのです! そのベーロを使うのです!」
――そうか! ベロ……つまり舌を使うんだな(※もちろん違います)!?
「でもベーロは使うのが難しいのです! テクニックがいるのです」
――うん確かに……舌使いにはテクが必要だ!
しかしこのラスボス……マグロなのにめっちゃ攻撃してくる! 防戦一方だ!
「うわぁ! こりゃダメだ」
HPもなくなってきた私はその場から逃げ出した。すると妹が
「あぁっ、おねえちゃん! 先に行っちゃダメなのです! 行くときは一緒なのですぅううううっ!」
……ゲームオーバー。そして妹から衝撃的な一言が。
「もうっ、おねえちゃんは下手くそなのです!」
――がーん!
「そっ、そうだね……お姉ちゃん……下手くそだよね。ごめんね……いつか必ず貴音ちゃんが気持ちよくなれるように頑張るから……」
「お……おねえちゃん、泣かなくてもいいのです。それと、気持ちよく……って意味がわからないのです」
貴音なのです。こんなゲーム実在しないのです……当たり前なのです。




