貴音はおねえちゃんの料理が不安なのです(貴音side)
貴音は……不安なのです。
パパとママさんが新婚旅行に出かけたのです。再婚同士の二人は理由あって結婚式を挙げないのですが、新婚旅行には行こうという話になったのです。
パパは貴音が生まれたときから、ママさんもこの家の家政婦さんだったときからずっと貴音が一緒にいたのです。だから新婚さんになったパパとママさんは二人っきりになってもいいのです!
でも……貴音は不安なのです。
貴音はこの家でずっとパパと一緒に過ごしてきたのです。パパがいないときは家政婦の武川さん……今のママさんが泊ってくれたのです。貴音は、ひとりで夜を過ごしたことがないのです。
だけど今夜はおねえちゃんがいるのです! おねえちゃんは王子様なので貴音を守ってくれるのです。頼りがいがあるのです!
と言いたいところなのですが……
貴音が一番不安なのはこの「おねえちゃん」なのです。
おねえちゃんはえっちなヘンタイさんなのです。二人っきりになったら、おねえちゃんは貴音のおっぱいを狙ってくるに違いないのです。
でもそれは問題ないのです。最近は貴音の方がおねえちゃんの大きなおっぱいを狙っているのです♥
貴音の不安はそこではないのです。実は……
今日の夕ご飯……おねえちゃんが作ると言い出してきたのです。
※※※※※※※
今、貴音はリビングで宿題をしているのです。おねえちゃんはキッチンに立って夕ご飯の準備をしているのですが、気になって宿題に手がつかないのです。
ママさんが家政婦さんをしていたときから、いつも貴音の朝ご飯と夕ご飯はママさんが作っているのです。とってもおいしいのです!
でもおねえちゃんがこの家に来てから、一度も料理しているところを見たことがないのです。おねえちゃんはママさんの娘さんなので、当然ご飯はママさんに作ってもらっていたハズなのです。
なので……不安なのです。
見た目も性格も男っぽいおねえちゃんなのです。きっと「あー砂糖と塩まちがえたー」みたいな大ざっぱな味付けをするに違いないのです。
ただ……ひとつだけ気になることがあるのです。
前に天ちゃん空ちゃんが遊びに来たときのことなのです。おねえちゃんはフルーツを切り分けて、とてもオシャレに盛り付けてきたのです。
もしかしたら包丁さばき「だけ」は上手なのかもしれないのです! 男の包丁さばき……味付け不要な刺身の盛り合わせだったら期待できそうなのです。
「おねえちゃん……今日の夕ご飯は何を作るのですか?」
貴音は、刺身の盛り合わせを期待しておねえちゃんに聞いてみたのです。
「夕飯? それはだな……じゃーん!」
と言うとおねえちゃんは丸く形を整えたひき肉を見せながら
「ハンバーグだよ! しかもお姉ちゃんの愛情こもった手作り♥」
――最悪なのですぅううううっ!
貴音はハンバーグが大好きなのです。でもおねえちゃんがひと手間加えた「手作り」は不安しか感じられないのです!
このままではマズいのです! おねえちゃんの料理もきっとマズいのです! この日のお昼ご飯は、ママさんが出かける前に作り置きしてくれたので何とか食いつなげたのです。でも夕ご飯は作り置きがないのです!
貴音はおねえちゃんの機嫌を損ねないように、料理をやめさせる作戦を考えたのです。リビングテーブルにチラシが置かれていたのです……これなのです!
「おねえちゃん、今度駅前に宅配ピザのお店ができたのです」
「あぁ、そーらしいね」
「どんなピザなのか……貴音は興味があるのです」
「そうなの? じゃあ今度頼んでみようか」
「あっいえ……できるだけ早く食べてみたいのです」
「えっ? そんなに慌てなくたっていいじゃん」
「いえ、できれば今夜……」
その言葉を聞いたおねえちゃんはピタッと動きが止まったのです。
「ちょい待て! それってアレか? 私が作った料理など食べたくないと……」
――作戦失敗なのですぅううううっ!
「よーし、そういう悪い子には刻んだピーマンをたっぷり入れたハンバーグに作り直して食べさせてやろう」
ひぇええええっ! たっ、貴音はピーマンが大嫌いなのです!
「だったら貴音は家出するのです。おねえちゃん、長い間お世話になったのです」
「まだ二ヶ月たってねーよ! まぁピーマンは冗談だけど……おいしいからだまされたと思って食ってみな」
と言うとおねえちゃんはフライパンでハンバーグを焼き始めたのです。しばらくするとキッチンからとてもおいしそうな香りがしてきたのです。
※※※※※※※
「貴音ちゃん! そろそろ出来上がるからお水を用意して」
おねえちゃんのハンバーグが焼き上がったようなのです。キッチンはおいしそうな香りでいっぱいなのです。貴音がお水を用意すると、おねえちゃんがテーブルにお皿を置いたのです。
とってもいい匂いなのです。でも「あの」おねえちゃんが作るのです。きっとお皿には暗黒物質が……
……あれ?
メチャクチャおいしそうなハンバーグなのです! 盛りつけもキレイで、見た目はまるでレストランのハンバーグステーキみたいなのです。
――でもっ、でもっ!
味まではわからないのです! もしかしたらコレは食品サンプルなのかもしれないのです! きっと食べたらプラスチックの味がするのです!
「いただきまーす」
「い……いただきます……なのです」
貴音は「だまされたと思う」のです。覚悟を決めたのです。もしかしたらこのまま救急車で運ばれるのです。
貴音はハンバーグを一口切り分けると、恐る恐る恐る恐る恐る恐る……くっ……口に入れたのです。
――えっ?
――ええっ!?
――えぇええええええええっ!?
「お……おいしいのです♥」
その言葉を聞いたおねえちゃんはドヤ顔で貴音を見たのです。
「うっうそっ!? メチャクチャおいしいのです!」
「オマエそんなに信用してなかったのか……」
これは……この間旅行に行ったとき食べたレストランのハンバーグに味がそっくりなのです。ハンバーグだけじゃなくてソースもそっくりなのです。
「この前、レストランで一口もらっただろ? あのときの記憶で再現してみたんだよ……ま、完コピはムリだけどさぁ」
「おっ、おねえちゃん……料理作れるのですね?」
「おいっ、そのレベルだと思っていたのかよ! 実はお姉ちゃん、大学で料理の勉強もしてんだよ! しかも家政婦だった母さんが貴音ちゃんたちのご飯作っていたとき、私が家の夕飯を作ってたんだよ」
「そ……それは大変ご迷惑とお手数をおかけしたのです」
「いやいや(茅乃の)仕事だからいいんだけど……それより、冷めちゃうから早く食べな」
「……うんっ♥」
おねえちゃんのハンバーグはとってもおいしく、貴音はあっという間に完食したのです!
「おねえちゃん、他には何が作れるのですか?」
「まぁ和洋中……何でも作れるぞ」
――ほわぁああああっ♥
――決めたのです!
ママさんの料理もおいしいけど、お姉ちゃんの料理はとってもとってもおいしいのです! なので……
貴音は大人になったら、おねえちゃんを「お嫁さん」にするのです♥
貴音なのです。今回は貴音とおねえちゃんで一話ごとに視点を入れ替えるのです。




