貴音は「母の日」をお祝いするのです(貴音side)
五月も二週間がたったのです!
今日は第二日曜日……そう、母の日なのです!
貴音は今まで、お星さまになったママのために母の日を祝っていたのです。あ、わからない人のために説明すると「ママ」と「母」は同じなのです(※ほぼ全ての日本人は知っています)。
でも、今年の四月から茅乃さんという新しいママさんが来たのです! なので今年から貴音を生んでくれたママと、新しく家族になったママさんの二人を祝うことにしたのです。
茅乃ママさんは去年まで「武川 茅乃」さんといって、この家で家政婦さんをしていたのです。家政婦さんといえばママと同じようなことをしてくれるので、貴音は去年も母の日のお祝いをしようと思っていたのです。
ところが当時の武川さんは「私は家政婦だから」と言って一切受け付けてくれなかったのです。でも今は「尾白 茅乃」さんなのです! つまり貴音のママさんなのです。なので今年から茅乃ママさんも正式にお祝いできるのです。
この日のために貴音はお小遣いを少しずつ貯めていたのです。来月は「父の日」なのでパパのお祝いもしなければいけないのです。あ、わからない人のために説明すると「パパ」と「父」は同……(※以下略)。
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今日、貴音は貯めたお小遣いで大通りにあるお花屋さんへカーネーションを買いに行ってきたのです。
「……こっそり」
貴音はいつもなら「ただいまなのです」と言って帰ってくるのです。でも今日はこっそり帰ってきたのです。
なぜならママさんに知られないようにするためなのです。夕ご飯のとき、いきなりプレゼントしてママさんをびっくらさせる作戦なのです! こういうのをサンライズというのです(※サプライズです)。
貴音は一週間前からおねえちゃんと作戦会議をしていたのです。そして貴音がお花、おねえちゃんがプレゼントを買ってくるという「お約束」をしたのです。
……ここで「お」は付けなくていいのです。違う意味になってしまうのです。
なので貴音が買い物に行ってきたことはもちろんママさんに内緒なのです。ところが……この一週間、ママさんは口ぐせのようにこう言っていたのです。
「アンタたち! 来週の日曜日はどっか出かけるのかぃ!? 私はその日、家にいるからね! 家にいるからって何も気を遣うことなんてないからね!」
サンライズをやる意味があるのかわからなくなってきたのです。世の中には「押すなよ押すなよ!」と言っているのにもかかわらず押す人がいるのです。あ、これが「お約束」なのです。
貴音は、ママさんの喜ぶプレゼントがまだわからないのです。そこでママさんのことをよく知るおねえちゃんがプレゼントを買う担当なのです。貴音は買ってきた花束を自分の部屋に隠したのです。ちょうどそのとき、
「ただい……!?」
おねえちゃんは慌てて口をふさいだのです。
「しぃー」
おねえちゃんもプレゼントを買いに行ったことは内緒なのです! おねえちゃんは貴音に「わりぃ」と言って自分の部屋に入ったのです。しばらくして貴音はおねえちゃんの部屋に入ろうとしたのです。
「……」
〝ガチャッ〟
「おい、そこは普通にノックしていいから……」
貴音がドアの前で「こっそり」していると、おねえちゃんがドアを開けてくれたのです。貴音が部屋に入ると作戦会議が始まったのです。
「準備はいい?」
「オッケーなのです! ところで、プレゼントは何を買ってきたのです?」
おねえちゃんが用意したプレゼント……何か小さそうなのです。
「商品券だよ」
「えっ、何か夢がないのです!」
「しょーがねーじゃん! 茅乃の一番欲しいのは現金なんだけどさ、まさか現金渡すわけにはいかねーからスーパーで商品券買ってきた」
貴音は……ママさんのことがまだよくわからないのです。
※※※※※※※
「いただきまーす」
「いただきますのです」
貴音はいつものように夕ご飯を食べていたのです。でも食べている途中で貴音とおねえちゃんは目を合わせ合図を送ったのです。そして箸を止めると、おねえちゃんがママさんに話しかけたのです。
「母さん!」
「ん?」
「いつもありがと! 今日、母の日だよね!?」
「ん、あぁ……そうだっけ?」
「はぃ、これは私から」
と言ってママさんにプレゼントを手渡したのです。
「うわーびっくりーありがとー」
ママさん、全然驚いていないのです。リアクションが下手なのです。
「お、何だ商品券か……現金がよかったんだけどなー、まぁでもありがとよ」
本当に現金を要求したのです……怖いのです! 今からでも遅くない……貴音のお花も現金化したいのです!
「たっ、貴音はお花……なのですが……」
「おっうれしいねぇ! あっそういえばココに空の花瓶あるなぁ」
ママさんが喜んでくれて安心したのですが……わざとらしいのです! 貴音はソファーのウラに隠しておいた花束を取り出すと、
「じゃーん! ママさん、いつもありがとうなのです!」
ママさんにプレゼントしたのです。ところが……
「……」
みんなの動きが止まったのです……場の空気が凍りついたのです。ママさんとおねえちゃんは目が点になり、パパは顔を背けて右手で頭を押さえたのです。えっ何か間違えたのですか!?
すると、おねえちゃんが小声で話しかけてきたのです。
「貴音ちゃん、白いカーネーションは亡くなったお母さんにあげるヤツだよ」
――へっ!?
――そうなのですかぁああああああああっ!?
貴音は今まで、お星さまになったママのために「白いカーネーション」をプレゼントしていたのです。だから母の日は白いカーネーションをプレゼントする日だと思っていたのです……ていうかそもそも色によって使い分けるなんて知らなかったのです!
貴音は……お星さまになったママにあげる白いカーネーションをママさんにプレゼントしたのです。つまり……
――ママさんを殺してしまったのです(※飛躍しすぎです)!
「ごごっ、ごめんなさい! ごめんなさいなのです!」
でもママさんはニコッとして、
「謝らなくていいよ、貴音ちゃんは今まで白いカーネーションしか知らなかったんだろ!? まだまだ私も貴音ちゃんのママになりきれていないってことだね」
「そっそんなことないのです!」
「ま、まだまだ一ヶ月ちょっとだし……これからこのカーネーションが赤くなれるように頑張るよ」
と言って貴音を許してくれたのです。でも……
「いづみ!」
「はいっ!?」
「まだ花屋さん開いてたよな? 今からピンクのカーネーション買ってこい!」
「えっ、何で私が!?」
「オマエの監督不行き届きだよ! 行けー!」
「えぇええええっ!?」
おねえちゃんが「とばっちり」を受けたのです……おねえちゃん、ごめんなさいなのです!
こうして……
花瓶に白とピンクが混ざったカーネーションが飾られたのです。ママさんは、これからも二色のカーネーションを買うように……と言ったのです。
なぜなら……貴音には二人の「ママ」がいるからなのです!
貴音なのです。ちなみに「姉の日」「妹の日」というのもあるそうなのです。




