GWなので私は妹ともっと遊びたい(いづみside)
我慢できずにアイスクリーム食っちまった……ま、いいか。
私は妹の貴音、母の茅乃そして愛犬のクララと、隣県にある観光牧場へとやって来た。大きな山の麓にあるこの牧場では牛はもちろん、馬やヤギ、ウサギといった動物と触れ合うことができる。
別の店でソフトクリームを食べる予定だったのに我慢できずここでアイスクリームを食べてしまった私たちがクララをドッグランで遊ばせていると、近くを馬が通り過ぎていった……引き馬の体験のようだ。
「いいなぁ、乗馬って楽しそう。私もやってみたい……」
と呟くとすかさず茅乃がやってきて一言、
「……垂れるぞ」
私の胸を見ながら耳打ちしてきた。
好きでこうなったワケじゃねーぞ! てか茅乃の遺伝子を受け継いでしまったのも原因のひとつなんだよ! それに……やるとしたらスポブラくらい着けるし!
はぁ……おっぱい大きいと色々不便だわ。
※※※※※※※
クララがどうやら飽きてしまったようなので、私たちはドッグランを出て牧場内を散策していた。すると牛舎の近くに人が集まっているのが見えた。
「おねえちゃん、あれは何をやっているのですか?」
「ん……あれは牛の乳しぼりじゃね?」
放牧地と離れた小屋のようなところに一頭だけ牛がいて、その周りを数人の大人が囲んでいた。よく見ると牛のそばで、子どもがスタッフと思われる人に指導されながらおぼつかない手つきで牛の乳をしぼっているのが見えた。
それを見ていた妹は
「あ……女の子が手で握ったら白いモノがピュッて飛び出してきたのです」
「牛乳な……見りゃわかるだろ」
――出会って一ヶ月……妹の『無自覚爆弾』に弾切れの兆候は見当たらない。
「何か面白そうなのです。貴音もやってみたいのです」
「あーでも予約制みたいだぞ」
「それは残念なのです……だったらおねえちゃん!」
「ん? 何だよ」
「代わりにおねえちゃんで乳しぼり体験するのです♥」
「私を牛と一緒にすな! つーか出ねーぞ」
「えっ、出ないのですか……それは残念なのです」
「出ると思ったのかよ」
すると妹は目をキラキラと輝かせながら
「もし出たら飲んでみたいのです♥」
――出会って一ヶ月……日に日に変態化していく妹に対し恐怖を感じている。
当初は純真無垢な子どもだと思っていたのに……どうしてこうなった。
原因は……やっぱり私か?
※※※※※※※
「そろそろお腹空かない? お昼食べに行こうよ」
マイペースな茅乃が提案してきた。そういや朝食が遅かったせいか、出かけてからアイスクリームしか食べていないことに今ごろ気づいた。
私たちは牧場を後に来た道を戻ると、ある観光施設に立ち寄った。この施設の一角にレストランがある……オリジナルのカレーで有名な店だ。
犬がいるので店内には入れないが、外にあるテラス席ならOKとのことなのでそちらを利用することにした。
「ねぇ、いづみは何にする?」
茅乃が聞いてきた。他にもメニューはあるがここはカレーの一択だろ……トッピングの違いだけだ。
「じゃあベーコンカレーで……」
「貴音ちゃんは?」
「貴音はハンバーグステーキが食べたいのです!」
――出会って一ヶ月……妹はブレない性格だとわかった。
注文してから料理が来るまでの間、茅乃のおしゃべりが止まらない。
「母さんが最初にこのお店に来たときはねぇ、二階建ての小さな建物で当時はレストランじゃなくて喫茶店だったんだよぉ。でねぇ、当時はカレー以外にホットサンドが有名で……」
「あっ昭和の話はもういいです」
「おい何だとコラ」
「貴音はママさんの話を聞きたいのです」
「良い子ねー貴音ちゃんは! あのね母さ……ママはそこでねぇ、当時付き合っていたツッパリ兄ちゃんと……」
「おい、実の娘の前で過去の男性遍歴を語るな!」
茅乃は私からは「母さん」、妹からは「ママさん」と呼ばれている。なので一人称の使い分けに苦労しているようだ。
一方、妹も茅乃のことを「ママ」ではなく「ママさん」と呼んでいる。これはたぶん、亡くなった実の母親と使い分けているのだろう……。
――出会って一ヶ月……本当の母娘のように見えてもまだギクシャクする部分は残っている。
でもまだ一ヶ月……私だって継父、つまり妹・貴音の実父とはギクシャクした関係が続いている。元々私は男性恐怖症……しかも父親という存在が苦手だからだ。
人と人とが本当の信頼関係を築き上げるには時間がかかりそうだが……まぁどうにかなるだろう。
※※※※※※※
「お待たせしました。ベーコンカレーがお二つとハンバーグステーキです」
しばらくして店員さんが料理を持ってきた。
「いただきまーす」
ひとつの皿にサラダまで盛られているオリジナルのカレー……ドレッシングがカレーに混ざっても美味しく感じられるから不思議だ。
「う゛っ……」
ハンバーグステーキを食べようとした妹の動きが止まった。どうやら付け合わせに「アレ」が入っていたようだ。
「どうしたの貴音ちゃん、食べないの?」
「……」
「あれ? 貴音ちゃん、ピーマン大好物じゃなかったっけ?」
すると私の言葉を聞いた妹は顔が真っ青になり
「なななっ、何で貴音がピーマン嫌いなこと知っているのですかっ!?」
「あのなぁ……肉詰めと青椒肉絲が食べられないってことはフツーに考えてピーマンが嫌いなんだろ」
「あっ!」
「今ごろ自分の失言に気がついたのかよ……おバカさん」
「……うぅ」
やっと理解した妹は顔が真っ赤になった……。
――出会って一ヶ月……妹は天然でとてもカワイイ♥
「ていうかそれたぶん『ししとう』なんだけど……」
「一緒なのです! 細いピーマンなのです」
「わーったよ、お姉ちゃんが食べてあげるよ! 代わりに……ほれ、せっかくだからカレーも食べてみな」
私と妹はお皿を交換した。
「ホントだ! 美味しいのです」
「だろ!? あっ、このハンバーグも美味いな」
「あーっ、貴音のハンバーグを食べたのです! ズルいのです」
すると茅乃が、
「あれ、貴音ちゃん! ピーマンだったらだいぶ前から食べているわよ」
「えっ!?」
茅乃の突然の告白に妹は目を丸くしていた。
「貴音ちゃんがピーマン嫌いなこと……家政婦やってたときから気づいていたからさ、切り方変えたり調理法を工夫したりして苦みをできるだけ抑えてたんだよ。今日買ったピーマンだって、できるだけ苦みの少なそうな物を選んできたよ♥」
――出会って一ヶ月……以上前から、母は妹のことを熟知していた。
「にしても貴音ちゃん、何でそんなにピーマン嫌いなの?」
「だって……ピーマンは苦いのです」
「えっ?」
私と茅乃はお互い目を見合わせた。妹の席には飲み物も置かれていたのだが……
ホットコーヒー……しかもエスプレッソだった。
――出会って一ヶ月……妹はまだ謎だらけだ。
貴音なのです。次回は再び貴音視点に戻るのです。
……コロコロ変わってごめんなさいなのです。




