GWなので私は妹と遊びに出かけた(いづみside)
(ここからの話はいづみ視点になります)
ゴールデンウイークなんだけど……
昨夜は帰りが遅かったので今日はずっと寝ているつもりでいたが、母・茅乃が突然「高原に行きたい」と言い出すと妹の貴音まで乗り気になったので、仕方なくドライブに付き合っている。
途中「道の駅」に立ち寄り、茅乃が農産物直売所で買い物を始めた……こりゃ長くなりそうだ。
私も妹も……愛犬のクララも、道の駅と鯉のぼりが泳ぐ公園を十分満喫したので先に駐車場へ戻り車内で待つことにした。戻る途中自販機で私と妹……そしておそらく両手がふさがって買えないであろう茅乃と三人分のお茶を買っておいた。
「ママさん、お店に入るとき目が輝いていたのです」
「直売所とか好きだからなぁアイツ……」
――妹と出会って……もう一ヶ月以上が経つ。
助手席に座った私は、改めて後部座席に座る妹の顔をまじまじと見つめた。
妹は日本人とフィンランド人のハーフで青い目をした銀髪の美少女……道の駅でも通り過ぎる人が何人も振り返っていた。こんな美少女が今、私の「妹」になっているとは……つい二ヶ月前までは想像だにしていなかった。
「ねぇ貴音ちゃん、貴音ちゃんは嫌いな野菜とかあるの?」
「……あっても絶対に言わないのです!」
「えぇっ、何でー!?」
「おねえちゃんはイジワルなのです! 貴音がそれを言うとおねえちゃんは絶対ママさんに『肉詰めが食べたーい』とか『青椒肉絲が食べたーい』とかリクエストするのです!」
――出会って一ヶ月……妹は私の性格をだいぶ理解してきたようだ。
それと妹よ……オマエはピーマンが嫌いだということもわかった。ま、茅乃にリクエストなんかしなくたって、肉詰めピーマンも青椒肉絲も私が作ってやるよ!
あっ……。
――出会って一ヶ月……そういやまだ妹に料理を作ってやったことがない。
「ちなみに好きな食べ物は何?」
「ハンバーグ♥」
それは即答かよ……わかった、今度作る機会があったら考えといてやろう♥
「そういうおねえちゃんはキライな野菜とかあるのですか?」
「うーん、そうだなぁ……ま、強いて挙げれば『タケノコ』かな?」
「タケノコは貴音も食べられるのです……おねえちゃん子どもなのです!」
……ピーマン嫌いなお子ちゃまに言われたくないわ!
「いや、食べるのは全然平気! ってかお姉ちゃん、基本的に食べ物の好き嫌いはないんだけどな……」
「えっ?」
「タケノコって下ごしらえが大変なんよ! アク抜きとか皮むきとか……で、茅乃は春になるといつもご近所さんから皮付きのでっかいタケノコをもらってたんだけどさぁ、下ごしらえを全部私に丸投げするんだよ!」
「……?」
「毎回毎回めんどくせぇ……アク抜きは吹きこぼれやすいから目が離せないわ茹で終わった後の大鍋洗うのメッチャ大変だわ……あぁ~もう茹でてあるパック品でいいじゃん! 私はなぁ、皮の付いたタケノコなんて見るのも嫌なんだよぉ~」
「おっ、おねえちゃん……顔が怖いのです」
「とりあえず……青椒肉絲だけは食いたくねーな」
「なのです」
すると向こうから、両手に大きな袋をぶら下げた茅乃が戻ってきた。
「お待たせ! いや~ピーマンとタケノコが安かったから思わず大量買いしちまったよ! 帰ったら青椒肉絲作るよ! いづみ、下ごしらえよろしく!!」
「「うわぁああああっ!」」
死亡フラグだったぁああああああああっ! 私と妹は頭を抱えた。
――出会って一ヶ月……私と妹はリアクションまで似てきたようだ。
※※※※※※※
「母さん、お茶」
「あぁサンキュー、気が利くじゃん」
運転席に座った茅乃へ先ほど買ったペットボトルのお茶を手渡した。この日は天気も良く喉も乾きやすい。
「貴音ちゃん、鯉のぼりすごかったねー」
茅乃が妹に話し掛けた。この三人の中で妹だけが血縁関係ではない。だが、
――出会って一ヶ月……私たちは何の違和感もなく、本当の親子のように接している。よく考えたら不思議な光景だ。
「すごかったのですママさん! そう言えば今日は子どもの日なのです」
ここで私は、子ども相手にちょっと大人げない質問をしてみた。
「ねぇねぇ貴音ちゃん! 子どもの日って他にも呼び方があるの知ってる?」
だが、これは大失敗だった。いや……妹の今後を考えると、この時点で修正できたことは正解だったのかもしれない。
「知ってるのです! おねえちゃん、貴音をバカにし過ぎなのです」
「あっそう、じゃあ答えは?」
「端午のせっくすなのです!」
「ブブーッ!」
私と茅乃は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「えっ、今何て……」
「子どもの日は端午のせっくすともいうのです……それとひな祭りは桃のせっくすというのです! 端午のせっくすは男の子のせっくすなのです! 桃のせっくすは女の子のせっくすなのです!」
「お……おいおいちょっと待て!」
――出会って一ヶ月……妹の『無自覚爆弾』は未だ全貌が解明されず。
「たっ貴音ちゃん……それはね、『節句』って言うのよ! 『す』は付けなくていいの……ていうか絶対に付けちゃダメ」
茅乃は声を震わせながら妹を諭した。
「え……じゃあ貴音はずっと言い間違えをしていたのですか? ほわわっ、はっ恥ずかしいのです」
いやもはや「言い間違えて恥ずかしい」というレベルではない。
「はぁー車の中でよかったわぁー……いづみ、貴音ちゃんにヘンなこと聞くな!」
「いや想定外だわこんなの……」
もし道の駅で同じこと聞いたら大惨事になっていた……私たちはほっと胸をなでおろしながら目的地に向かった。
それにしても……妹の「女の子のせっくす」発言には思わずドキッとしたわ。
※※※※※※※
県境を越え、隣の県にある観光牧場にやって来た。
「わぁ、牛さんがいるのです! こっちにはお馬さんも……」
妹は牧場の動物たちを見て大喜びしていたのだが……その手には
「おい、ダメじゃん! 帰りに(別の店で)ソフトクリーム食べるって言ったのにさぁ……何で買ってんだよ」
「えっ、これはアイスクリームなのです。ソフトクリームじゃないのです」
「へ理屈じゃねーかよ! それもダメ!」
「おねえちゃん、細かすぎるのです」
するとドッグランの申込みをして戻ってきた茅乃が、
「そぉそぉ! 細かいこと気にしちゃダメだよ」
「ってか、オメーも食ってんじゃねーか!」
私にクララのリード持たせておいて……何やってんだこの母娘は!
「だったら……私も食べるぞ!」
結局、忍耐力のない母娘三人は「アイスクリームとソフトクリームは別物」というへ理屈をこね、仲よくアイスクリームを食べてしまうのであった。
貴音なのです。次回もおねえちゃん視点のお話なのです。




