私は妹の友だちと友だちになりたい!(いづみside)前編
――私は……ドッペルゲンガーを見てしまったのか?
※※※※※※※
話は二十分ほど前にさかのぼる。学校から帰ってきた私は、帰ってすぐに洗面台で手を洗っていた。すると母がやってきて
「あら、いづみお帰り! さっそく頼みがあるんだけど……」
「えっ、何?」
帰ってきたらいきなり頼みごとかよ……ちょっとは休ませろ。
「貴音ちゃんがね、お友だち連れてきたのよ」
「ふーん」
「で、悪いんだけど貴音ちゃんたちにお茶菓子を出してあげてくれる?」
「お茶菓子? どれを?」
「冷蔵庫に果物があるから、それを適当にカットして出してあげて」
果物? 普段はおせんべいとかなのに……珍しいこと言うなぁ。
そう思いながら母と二人でキッチンに向かうと、カウンターの上に大量のフルーツが置かれていた。
「えっ、何これ? いくらなんでも買いすぎじゃね?」
「違うわよ、頂き物よ」
「えっ」
実は昨日、母の従妹の笛吹さんという方が亡くなられて母は葬儀に出席してきたのだ。よく花輪の中にフルーツを飾ったものがあるが、どうやら香典返しや花と一緒にそれを頂いてきたらしい。
「そういえば母さんの従妹って……年そんなに変わらないんだっけ?」
「そうなのよぉ、幸恵ちゃんは三つ年下よ! 子どものころ一緒に剣道やってたんだけど……まだ若いし、子どもが二人もいるのにねぇ……」
「へぇ……」
「あっ、あの子たちに出す果物は冷蔵庫で冷やしてある方だよ! あと麦茶も……グラスは三人分ね! それじゃ母さん、例の衣装作っているから頼んだわよ」
「はーい」
例の衣装とは……私が通う大学の学園祭で、あるサークルが模擬店を出すことになったのだがそのメンバーの「お揃いの服」を母・茅乃が作ることになった。
実はそのサークルメンバーの中に私の高校時代からの友人がいて、そいつが茅乃に直接依頼したのだ。
「あぁそういえば……和ちゃん、また一段と大きくなったわよねぇ! 採寸表見てビックリしたわよ」
茅乃が言う「和」という女こそが、私の高校時代からの友人で茅乃に衣装作りを依頼した人物だ。ヤツは高校生のときから私の家(前に住んでいたアパート)によく出入りしていて茅乃とは親子同然の付き合いだ。
そして茅乃が言う「一段と大きくなった」モノは皆まで言わなくてもわかる……巨乳、いや「爆乳」のことだ!
和のアンダーバストは名前と同じ「七十五・三センチ」だが……おそらくトップは三桁いってるだろう。
「あいつのだけは型紙もう一枚必要じゃね?」
「アハハ! あっそうだ、あんたの衣装ももうすぐ完成するわよ」
――げっ、いらねーよ!
そう言うと母はそそくさと「作業部屋」へ戻っていった……まぁ和室にミシンを置いただけの部屋だが。
それにしても……葬式で頂いたフルーツを客に出すとは如何にも茅乃らしい。母娘揃って貧乏性だなぁ。
私は冷蔵庫からフルーツを出してカットし、お皿に盛りつけた。そして麦茶を三人分用意してトレイにのせ、二階へ向かった。
――貴音ちゃんのお友だちか……一体どんな子だろう?
中学校に入って一ヶ月ほどしか経ってないのにもう友だち連れて来るとは……妹は社交的だな。あ、でも妹が通う中学って小学校から一貫式だっけ? だったら珍しくもないか。
――カワイイ子だったらいいなぁ……あっ、でも待てよ!?
妹が通う中学校は「共学」だ。ならば家に来ているのは「男の子」ってパターンもありうるのか……だったらイヤだなぁ。
まさか……彼氏? ブラジャー着けたがっていたのはそういう理由か!?
えぇっ、だったらもっとイヤだぞ! 妹がこのままノンケ街道を進んでしまうなんて……あっでも麦茶は三つ……彼氏じゃない? いやでも●Pってことも……
私は色々なことを想像、もとい「妄想」をしながら妹の部屋へ向かった。
※※※※※※※
〝コンコンッ〟
「貴音ちゃーん、入るよー」
私は妹の部屋のドアを恐る恐る開けてみた。
すると部屋の中に……
「うふふっ……あっ、おじゃましてます」
――セーラー服の天使が二人戯れていた……ここは天界か!?
私にとって天使は貴音ちゃんだが「お友だち」だというこの子も負けず劣らずの天使ちゃんだ。黒髪のセミロングで姫カット、体型は妹とほぼ変わらない。目の色と髪型変えたら妹と一緒じゃね? というくらいの美少女だ。
妹を「フランス人形(本当はフィンランド人のハーフだが)」に例えるならこの子はまさに「日本人形」だ! やだーお人形さんが二体に増えたじゃーん♥
「おねえちゃん、紹介するのです! この子は貴音と同じクラスで小学校からのお友だち、『菱山 天』ちゃんなのです」
「あっ、初めまして……天です」
「あっ、どうも……」
うわぁああああっ! テンちゃんっていうんだぁ! 名前もカワイイっ♥
――あれ? でも……
「貴音ちゃん、お姉ちゃんお友だちが二人って聞いてんだけど?」
「それはおかしいのです。天ちゃんひとりだけなのです」
「えっそうなの? じゃあ麦茶ひとつ下げとくね」
「あぁっ! 貴音は今のどが渇いているのです。それも貴音が飲むのです」
「あっそう、わかったよ……」
私は妹に言われた通り、麦茶が入ったグラスを三つとフルーツを置いて出ていこうとした。すると妹が
「あれ、このフルーツってママさんが盛り付けしてくれたのですか? 確か忙しいと聞いていたのですが……」
「あぁそれ? 私がカットして盛り付けたんだよ」
と言うと妹はめちゃくちゃ驚いた表情で
「えっ!? おねえちゃんってフルーツをこんなにキレイにカットして盛り付けられるのですか!?」
「おいおい、私を何だと思ってるんだ」
お姉ちゃんは短大の栄養学科で勉強してるんだぞ! 将来は管理栄養士を目指してる……このくらいの調理はお手の物なんだよ!
「えっ、お姉さんすごーい、美味しそう」
天ちゃんにほめられた! いやいや、天ちゃんの方が美味しそうだよ♥
「それじゃごゆっくり」
「はーい」
天ちゃんを食べたい気持ちを抑え(手を出したら犯罪になる年齢なので)、妹の部屋を後にした。
私はトイレに行きたくなったので階段を下りて一階にあるトイレに向かった。
〝ジャーッ〟
あれ? トイレに誰か入っているな……茅乃か?
ところが……ガチャっとトイレのドアが開いて、中から出てきたセーラー服の少女の顔を見たとき……私は自分の目を疑った。
――えっ? えぇええええっ!?
――私は……ドッペルゲンガーを見てしまったのか?
そこにいたのは……さっき妹の部屋にいた「天ちゃん」だったのだ。
貴音なのです。ドッペルケンタ? 新発売のフライドチキンなのですか?




