【番外編】貴音たちはあの女が嫌いなのです(貴音side)4
「貴音っちの弱点見つけたっす! 貴音っちには母ちゃんがいないっす!」
小学校三年生の授業参観の後、樹李ちゃんが得意気にそう言ってきたのです。
「貴音は母ちゃんという人を知らないのです」
「ママのことっす! いちいち変換しなきゃ理解できないっすか!?」
貴音にママはいないのです。貴音が三歳のとき、お星さまになってしまったのです。でも貴音はママのいない生活が当たり前だったので、このとき樹李ちゃんに言われるまで気にしていなかったのです。
「ちょっと樹李! やめなさい!」
天ちゃんは貴音にママがいないことを知っているのです。天ちゃんは今まで見たことがないくらい怖い顔で、樹李ちゃんをにらみつけたのです。
「やめないっす! こんなチャンス、二度とないっす」
「何がチャンスよ!? もう……意味わかんない!」
「母ちゃんがいれば母娘コーデでお出掛けできるっす! 街でカワイイって言われるっす! 貴音っちはそれができないっす」
「アンタねぇ、いい加減にしなさい!」
貴音と樹李ちゃんの話だったのが、いつの間にか樹李ちゃんと天ちゃんのケンカになってしまったのです。さっきも言ったように、貴音は全く気にしていなかったのです。でも……
「ほらぁ樹李! 貴音ちゃん泣いちゃったじゃない」
貴音はなぜか涙が出てきたのです。でも理由がわからないのです。
「やったっす! 尾白貴音に勝ったっす」
「アンタ見損なったわ……もう絶交よ!」
「ふんっ! 樹李タソはオマエらに勝てば満足っす! 今度は菱山の双子、オマエたちを倒すっす」
天ちゃんは絶交と言った瞬間、樹李ちゃんを無視して貴音に寄り添ってきたのです。そして自分のハンカチで貴音の涙をぬぐってくれたのです。
天ちゃんは直情型の人なのです。感情がストレートに出るので「暴走機関車」と呼ばれているのです。
でもその分、とっても情に厚い子なのです。だから貴音は、天ちゃんとお友だちになれて良かったと今でも思っているのです。
樹李ちゃんは貴音に勝った……と満足気だったのです。でも数日後、事態は思わぬ方向に進んだのです。
※※※※※※※
「えー、今日は皆さんにお知らせがあります」
ある日の朝の会、担任の先生が黒板の前でいつものようにお話をしたのです。でもいつもより暗い感じの話し方なのです。そして先生のおとなりには……樹李ちゃんも立っていたのです。
「今までみなさんと一緒に過ごしてきた野牛島樹李さんですが、ご家庭の事情で転校することになりました」
何と! 樹李ちゃんが転校してしまうのです。これはセイレーンの性癖(※青天の霹靂)なのです。
次の休み時間……
「樹李タソー、超寂しーじゃん」
「えっ何で何で?」
樹李ちゃんと同じ、ギャルっぽい格好に憧れているお友だちが樹李ちゃんの席に集まっていたのです。でも天ちゃんは完全無視を決め込んでいたのです。
貴音も最後に樹李ちゃんとお話したかったのですが、近付くと天ちゃんが怖い顔をするので止めたのです。
「両親が離婚したっす! 樹李タソは母ちゃんについていくっす」
樹李ちゃんはあっけらかんとお話してたのです。どうやら樹李ちゃんのパパママが離婚して、ママさんが市外に引っ越すらしいのです。
樹李ちゃんはママさんについていくけど、パパさんとも月に何回か会えるので全然寂しくない……と言っていたのです。
「じゃあクラスのみんなで寄書き書くねー」
「サンキューっす! 大事にするっす」
この後、クラスのみんなが寄書きを書いたのです。席がすみっこの貴音は最後に回ってきたのです。でもその寄書きに……天ちゃんの名前はなかったのです。
こうして……樹李ちゃんは引っ越していったのです。
と・こ・ろ・が……なのです。
――あれ?
ある日の朝、貴音たちが教室に入ると……
なぜか樹李ちゃんが席に座っていたのです。そこへ絶交したハズの天ちゃんが、樹李ちゃんに声を掛けたのです。
「あら、学校間違えてる人がいるわね? ここは○○市じゃないんですけど」
「……」
天ちゃんのイヤミに、樹李ちゃんは黙りこくったのです。顔は少し赤く、暗い表情をしていたのです。
クラスの他の子も、不思議そうな顔で樹李ちゃんを見ていたのです。そして「何があったの?」と聞かれても何も答えなかったのです。貴音も樹李ちゃんに質問したのです。
「どうしたのですか? ママさんと一緒に母娘コーデでお出掛けするのではなかったのですか?」
すると貴音の「ママさん」という言葉に、樹李ちゃんが反応したのです。
「あんなの……父ちゃんじゃないっす」
「?」
貴音たちクラスのみんなは意味がわからず目が点になったのです。樹李ちゃんはやっと話す気になったらしく、ポツリポツリと話し始めたのです。
樹李ちゃんはママさんが大好きだったのです。パパママが離婚したとき、迷うことなく「母ちゃんについてくっす」と言って引っ越したのです。
ところが! 新しい家には樹李ちゃんの全く知らない「男の人」がいたのです。そしてママさんは樹李ちゃんに、
「この人は樹李の新しいお父さんよ」
と言って紹介したそうなのです。てっきりママさんと二人暮らしだとばかり思っていた樹李ちゃんは、ショックで新しい家を飛び出してしまったそうなのです。
結局……樹李ちゃんはパパさんの家(今まで住んでいた家)に戻り、話し合いの結果今度はパパさん(とお兄ちゃん)と一緒に住むことになったそうなのです。
「樹李タソの父ちゃんは一人だけっす! 樹李タソは……父ちゃんも母ちゃんも大好きっす! 離れていても父ちゃんと母ちゃんとはいつでも会えると思っていたっす! なのに……なのに! あんなオッサン知らないっす! 樹李タソは一緒に住みたくないっす!! う゛……う゛ぁああああん!」
樹李ちゃんは自分の席で大泣きしてしまったのです。貴音たちはしばらく声を掛けることができなかったのです。やがて樹李ちゃんが泣きやんだとき、貴音は樹李ちゃんに声を掛けたのです。
「樹李ちゃん」
「グスッ……何すか?」
「とりあえず、寄書きは返すのです」
おい今そこかよ!? というツッコミが聞こえてきたのです。
「いらないっすよ! こんなもん」
「これで今まで通りなのです! それと……」
「な……何っすか?」
「貴音も樹李ちゃんもママがいないのです……これでおあいこなのです」
貴音の言葉を聞いた樹李ちゃんは
「わ、わかったっす……今回は引き分けっす! でも貴音っち! 樹李タソはこれからもずっとライバルでい続けるっす! だからいつでも勝負するっす」
貴音は……樹李の言ってることが今でもわからないのです。
※※※※※※※
「貴音っち! 天タソ空タソ! 今度はカードゲームで勝負っす」
「はいはい返り討ちにしてやるわ……それと天タソやめろ」
「空タソもやめろ」
それ以来、天ちゃんと仲直りした樹李ちゃんとは勝負という名目で一緒に遊んだのです。でも五年生になったとき……
野牛島樹李は「あること」で再びマウントを取り始めたのです!
貴音なのです。本編を読んだ人なら何のことかわかるのです!




