【番外編】貴音たちはあの女が嫌いなのです(貴音side)1
これは貴音と天ちゃん空ちゃんが「あの女」から「あのこと」でイジられるようになるずっとずう~っと前のお話なのです。
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このお話に出てくる尾白貴音は小学校二年生なのです。この物語の本編は貴音が中学一年生のお話なので、今から一年、二年……結構前のエピソードなのです。
「三×二が六、三×三がオールスターズ、三×四が文枝になった……よし、三の段は完璧なのです」
ここは二年生の教室なのです。貴音は必死こいて九九を覚えていたのです。
「貴音ちゃん、全然言えてないわよ! 確かに新婚さんの人、三枝から文枝に名前変わったけど」
「変わったけど」
貴音に声を掛けてきたのは菱山天ちゃんと空ちゃんの双子姉妹なのです。
「天ちゃん空ちゃん、いらっしゃ~いなのです」
「もしかして……それ言いたかっただけ?」
「だけ?」
貴音が小学校に入学して初めてできたお友だちが天ちゃん空ちゃんなのです。この二人とはすぐに仲良くなったのです。特に姉の天ちゃんは、貴音がボケるとすぐにツッコミを入れてくるのです。
「よし、これで次の算数のテストはバッチグーなのです」
「あーあ、貴音ちゃんはまた零点が決定だね! それに引き換え、私は九九を完璧に覚えているから百点満点は確実よ!」
「でも……ちゃんと自分の名前を書かないとまた零点だよ」
「うぐぅっ!」
その天ちゃんに、絶妙なタイミングでツッコミを入れるのが妹の空ちゃんなのです。貴音たちの学年はA組とB組のニクラスだけなのですが、三人とも同じA組なのです。貴音は小学校に入ってから、毎日のようにこの双子と遊んでいるのです。
「貴音ちゃん、せっさんやろうよ!」
「やろうよ」
そんなある日の休み時間のお話なのです。貴音はいつものように天ちゃん空ちゃんと教室で遊んでいたのです。ちなみに「せっさん」とは山梨独特の呼び名で、いわゆる「いっせーのせ」や「指スマ」という遊びのことなのです。
「いっせーの三!」
「いっせーのゼロ! うーん、失敗なのです」
「貴音ちゃん、ゼロなのに何で指上げてるの?」
二人より三人でやった方が難しくなるのです。でも、盛り上がるのです……と、その時なのです。
〝ガラガラッ〟
「ちょっと! このクラスに尾白貴音って子いるっすか!? あと、菱山っていう双子もっす!」
誰かが貴音たちの名前を呼んだのです。
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それまで騒がしかったA組の教室が一瞬シンと静まり返ったのです。そして教室中がザワザワし始めたのです。
「アンタたちっすね、尾白と菱山の双子って」
「では問題なのです! この中で尾白貴音は誰なのですか?」
「どう見ても双子じゃないアンタっす!」
「正解なのです」
「ナメてるっすか!? ちょっとそこ退くっす!」
よく知らない子が貴音たちの輪に入り込んできたのです。
「いっせーの七! なのです」
「えっ貴音ちゃん! 三人しかいないのに七はないでしょ!?」
「だって、この子も一緒に遊びたがっているのです! 四人なのです」
「じゅ、樹李ちゃんはアンタたちと遊ぶつもりないっす!」
せっさんに参加してきた子はどうやら隣のB組の子らしいのですが、貴音たちは休み時間もあまり教室を出ないのでB組の子はほとんど知らないのです。
「B組は隣なのです! 道に迷ったのなら案内するのです」
「いいっす! わかってるっす! アンタたちに用があって来たっすよ!」
「で、すっすさんは何の用?」
「すっすさん何の用?」
「すっすなんて名前じゃないっす! これは口ぐせっす! アタシはB組の野牛島樹李ちゃんっす」
「えっ……白くま食べたいのです」
「いいねぇ、私も」
「空も」
「鹿児島じゃねぇっす!」
この子の名前は野牛島樹李……そう、今では貴音たちの親友になっている野牛島樹李ちゃんと初めてお話したのがこのときだったのです。
「てゆーかアンタたち! 樹李ちゃんの名前聞いたことないっすか!?」
「あぁ、そういえば……」
ウワサで聞いた事があるのです。確か二ヶ月ほど前、B組に東京から転校生が来たのです。こんな田舎の小学校だと、転校生は「東京から来た」というだけで人気者になれるのです。
この子も最初はクラスの子が大勢寄ってきたらしいのです……が、あることが原因で今ではB組の子たちから全く相手にされなくなってしまったそうなのです。
「B組のつまはじきって呼ばれているのです」
「違うわよ、B組のハブられちゃんでしょ?」
「……B組の腫れ物」
〝グサッグサッグサーッ!〟
貴音たちの口撃を受けた樹李ちゃんはヤムチ●のように倒れ込んだのです。
「それもこれもアンタたちが原因っすよ!」
――へ? 貴音は小さいオーボエ(←※身に覚え)がないのです。
「アンタたち、生意気っす!」
「貴音たちはまだ七年しか生きてないのです」
「私は八年だけど」
「空も」
「長生きじゃないっす! そういうとこがムカつくっす!」
「?」
「樹李ちゃんは東京から引っ越してきてお姫様になる予定だったっす! どうせ田舎は鼻を垂らしてほっぺが赤いクッソガキばかりっす」
なるほど、この子がB組で浮いた理由がわかったのです。
「なのにアンタたち! 田舎モンのくせに可愛すぎるっす! アンタたちのせいで樹李ちゃんはお姫様になれないっす」
これは完全にいきものがかり(←※いいがかりの間違い)なのです。
「で、貴音たちにどうしろというのです?」
「これはセンセンフコクっす! 尾白貴音! この樹李ちゃんと勝負するっす」
……? 当時の貴音は「宣戦布告」の意味がわからなかったのです。
「先生おしっこ! は授業中に言うのです。休み時間は自由に行っていいのです」
「誰もそんな話してないっす!」
「はーいトイレは廊下の突き当りだよー! じゃあねバイバーイ!」
「バイバーイ!」
貴音たちは樹李ちゃんを相手にしなかったのです。何か面倒くさそうだったからなのです。
「ちょっと待つっす! 樹李ちゃんと勝負がまだっす」
「じゃあ九九の三の段言って」
「三×一が三、三×二が五っす!」
「おぉスゴいのです! ちゃんと言えてるのです」
「言えてねーし! 貴音ちゃんと同レベルのバカだわ」
天ちゃん、それは貴音にも失礼なのです。
「うっ、うるさいっす! とにかく、樹李ちゃんがこんな田舎モンに負けるワケないっす! 絶対オマエたちを倒すっす」
「おい、チャイムが鳴ったぞ! 帰れ!」
すると今度は話を聞いていたA組の子たちが樹李ちゃんを追い出そうとしたのです。どうやら「田舎モン」という言葉にカチンときたみたいなのです。と、そこへ天ちゃんが樹李ちゃんにこんな質問をしたのです。
「ねぇアンタ、ほっぺちゃん好き?」
「好きっす♥」
「シャトレーゼは?」
「それも好きっす♥ アイスが超うめ―っす!」
樹李ちゃんの表情が土砂崩れのように緩んだのです。すかさず天ちゃんは、
「それ作ってる会社、どっちも山梨だから! バカにするなら東京に帰れ!」
「……へ?」
次の授業が始まっても、樹李ちゃんはA組の教室で固まっていたのです。
貴音なのです。このお話は2012年の設定なのです……続くのです。




