【番外編】オレは妹に恋をした(硯都side)7
妹の鈴里が突然、菱山姉妹の妹・空と付き合えと迫ってきた。いや……そればかりは妹が何言おうとオレの意思が優先されるし、そもそも菱山妹がオレに気があるなんて昨日初めて知ったばかりだ! すると鈴里は、
「じゃあお兄ちゃん、これを聞いてもまだ空さんのこと『何とも思ってない』って言える?」
何やらとんでもない「秘密兵器」を取り出そうとしていた。
「何だよ?」
「お兄ちゃん、中一のとき……バレンタインのチョコいくつもらった?」
何でそんな昔のことを!? 中一のときはオレにとって一番の「モテ期」、クラスの女子からはほぼ全員、他のクラスや上級生からもチョコをもらっていた。
「確か両手に紙袋持って帰った気が……」
「あっそ! じゃあ中二のときは?」
イヤなこと聞くなぁ……忘れもしない中一の三月! オレが尾白貴音のお姉さんにフラれたことがキッカケで巨乳好きのウワサが広まったのだ。
この日を境に学校中の女子から反感を買ってしまい、以来ずっとバレンタインのチョコをもらうことはなかった。
「……ゼロだよ!」
今さらオレの黒歴史をえぐり出してどうするんだよ!? すると鈴里は意外な言葉を口にする。
「本当に?」
「えっ?」
「本当に……ゼロ個だった?」
鈴里が変なことを聞いてきた。いや、確かにそうだったハ……あれ、待てよ?
「机の中に一個だけ入ってなかった?」
そういえば……二年そして三年のときは教室の机の中に、バレンタインのチョコが一個だけ入っていた!
ただ、誰からのチョコなのか全くわからず、気味が悪かったので持って帰って妹にあげた気がする……って、何で鈴里がそのことを知ってるんだよ!?
「それ……空さんからのチョコだったのよ」
マジかよ!? アイツって姉(天)と違い、全然目立たない存在だったから全然気づかなかった。
「空さんの話だとね……三年のときはクラスが別だったから、お兄ちゃん(のクラス)が移動教室のときにトイレへ行く振りをして教室に忍び込んだんだって!」
それってほぼストーカーじゃねぇか!? そういや空、二年のときは同じクラスだったっけ? 地味なヤツだったからあまり印象ねーや。
「お兄ちゃん! そんな昔から空さんに好かれていたっていうのに何で振り向いてあげなかったのよ!? 私が空さんの立場だったら悲しくて死んじゃうよ!」
「えっ何かオレ、すっかり悪者にされてねーか?」
「悪者よ! だってお兄ちゃんが空さんを好きになれない本当の理由が……実はあるんでしょ?」
えっ、何だよそれ? 菱山妹を好きになれない本当の理由……いや、オレもよくわからないが。鈴里はそう言うと突然、ニンマリとほくそ笑んだ。
「知ってるんだよ~お兄ちゃん、巨乳が好きなんでしょ?」
「……なっ!?」
「空さん、胸が大きくないから気に入らないんでしょ? だとしたら最っ低!」
オマエ、何でそれを知ってるんだよぉおおおおっ!?
「私も大きい方だからな―、うわー怖い怖い! お兄ちゃん! 今度から私の半径三メートル以内接近禁止ね!」
「妹に手を出すワケねーだろ! つーかそれってオレが中学のときの話だ! 今はそんなこと全然思ってねーよ」
「だったら! 空さんを気に入らない理由ないじゃん」
「そっ……」
そう言われてみればそうだが、好きになる理由もない。
「付き合ってから知ってもいいんじゃない? お互いのこと……私だって、志望大学が本当に合っているかだなんて入ってみないとわからないもん」
そっそれは……妹の正論にぐうの音も出なかった。
「それよりも! 今は空さんの思いに応えてあげて! 実は私が今日、お兄ちゃんのご飯作らなかった理由はね……」
何だって!? 鈴里の話では、一緒に食事をしながらオレからの返事を聞かせてほしい……と菱山空が近くのファミレスで待っているらしい。
「おまっ……そういうのは早く言えよ!」
「だって、さっきまでのお兄ちゃんなら秒で断りそうだったんだもん!」
確かにそうしていたかも!? でも今のオレは正直混乱している。オレは玄関に行くと、もう一つ混乱している事があったので妹に聞いてみた。
「ところで鈴里!」
「何?」
「そっ、その……巨乳の話、誰から聞いた? 菱山の姉か?」
「ううん、樹李お姉ちゃん! もうずっと前だよ」
樹李めぇええええっ! 今度会ったら説教だ! オレは家を飛び出し、菱山空が待つファミレスへ向かった。
※※※※※※※
待ち合わせ場所のファミレスに入ると……いた! 菱山空だ。
「遅れてごめん!」
「ううん、いいよ」
オレは菱山空の向かいに座った。
「で、硯都……返事は?」
……あれ? オレは違和感を覚えた。
普通ファミレスに来たら、話をする前にまず「何食べる(飲む)?」とか聞いてくるだろ? 菱山空はもっと常識的な人間だ。しかもいきなり本題に持って行くようながっついた性格ではない。
そういやよく見るとこの女……説明が難しいけど容姿が微妙に空と違う。まっまさかコイツ……?
「オマエ……菱山姉だな?」
すると目の前にいた女はニヤッとほくそ笑むと、
「正っ解―!」
その声に連動して、野牛島樹李に背中を押された菱山空が柱の陰から現れた……オマエら「千と千尋の神隠し」か!?
「さぁさぁ空! ここに座りな」
樹李はさっきまで菱山姉の天が座っていた場所に空を座らせた。つーか天と樹李も一緒なのかよ!? やりづれーな!
「あ、あの……」
空は居心地が悪そうな顔をしながらモジモジしていた。そりゃそうだ、実質的に昨日フッた相手が目の前にいるんだからな。なのでオレの方から先に話した。
「鈴里から話は聞いたよ……気付いてあげられなくてごめん」
空は無言で、小さく首を横に振った。
「ウチは親父がいなくて……ある意味オレが妹の鈴里の父親代わり。だから妹のことを気に入って、妹が気に入っている相手を嫌いになることはない」
「……」
「その妹から言われたんだよ! 付き合ってから(相手のことを)知ってもいいだろって……だからオレは中学校のとき、よく知らなかった空のことをもっと知りたくなった」
「……!?」
「だから空! オマエのことをもっと教えてくれ! オレも空に……もっとオレのことを知ってほしい! だから……」
「やったじゃん空! じゃあ今日は樹李のおごりでパーッとやろー!」
「何でアタシだよ!? でも空タソおめー!」
ちょっと待て! オレが「付き合ってくれ」と言う前に暴走姉がフライングしやがった。ま、空の表情見ていりゃ返事は聞くまでもないが。
「じゃあ私はチーズインハンバーグ! 硯都はドリンクバーでいいね?」
「何でだよ! それより空は何食べる?」
「えっあっ、私は……」
「うわー何それー? さっそく彼氏ヅラー!?」
「うるせぇよ! つーか天と樹李、オマエら後で説教な!」
「えっ何でよー!?」
「あははっ、鈴ちんに言ったのバレちゃったかー!」
「あっそうだ! 妹さんもここに呼ぼうよ! いいよね空?」
「うん」
「いやオレに聞け!」
こうして……オレは菱山姉妹の妹・菱山空に恋をした。
貴音なのです。めでたしめでたしなのです!




