【番外編】オレは妹に恋をした(硯都side)5
鈴里が……万引きで捕まった。
高校では真面目な生徒で通っている妹の鈴里が……なぜ? しかも万引きをしたのはオレの同級生・菱山空がバイトしている書店だ。しかもこの店は、オレ自身も配達で定期的に訪れている……何てことをしやがった! 会社で昼休み中だったオレは、事情を説明して午後の配達を遅らせてもらうと店に向かった。
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「あら、今日は配達の日じゃないですよね?」
書店に入ると、レジにいた店員がオレに話し掛けてきた。会社から直接来たので制服を着ている。配達のとき何度も会うので顔見知りだ……とても気まずい。
「いや、実は……」
「えっ?」
事情を説明し、その店員さんの案内で店の奥にある事務所へ通された。事務所の中には会議用のテーブルセットが置かれ、そこに店長さんらしき男性と向かい合うように鈴里が座っていた。そして鈴里の傍らには……店のエプロンを着けた菱山妹が立っていた。
「妹がご迷惑をおかけしてすみません!」
オレは店長の前で土下座をして謝ると、
「あぁいえ……頭を上げてくださいお兄さん」
店長の男性は少しうろたえた様子でオレに話し掛けた。
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「まさかウチの店に配達している運送屋さんだとは思いませんでしたよ」
「すっ、すみません!」
オレは鈴里の隣に座り、店長さんに改めて頭を下げた。
「まぁまぁ! 彼女は初犯ですし、詳しい事情はそちらの菱山に聞いておりますので……今回は警察や学校には連絡いたしませんからこのままお帰りください」
「本当に申し訳ございませんでした!」
オレと鈴里は深々と頭を下げた。
「それにしても鈴里! オマエ、一体何を万引きしたんだ?」
「あぁ、それは……」
と言って店長さんが取り出したのは、一冊の問題集……それは先日、菱山妹に勧められた問題集のひとつだった。あの時、鈴里は大学に行かないからいらない……と言って買うことを拒否したのだ。
でも本音は大学に行きたがっていて、どうやらこの問題集は喉から手が出るほど欲しかったのだろう。と、そこへ菱山妹が話に割って入ってきた。
「ごめん硯都……私がこの問題集勧めなければ……」
「いや、この本を買ってあげられなかったオレが悪いんだよ」
菱山妹とオレがそんな会話をし始めたとき、それまでずっと無言で下を向いたままだった鈴里が
「ご、ごめんなさい……」
かすかな声でしゃべりだすと、
「お兄ちゃんや菱山さんに迷惑掛けちゃってごめんなさい! わっ私、そんなつもりじゃなかったのに……ごめんなさい! ごめ……うっ、うわぁああああん」
事務所の外にまで響き渡りそうな大声で泣き出した。そんな鈴里を菱山妹はそっと抱きしめて落ち着かせようとしていた。
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「鈴里……すまなかったな」
オレは妹の鈴里を会社のトラックの助手席に乗せると、いったん家に寄り妹を送り届けることにした。その車中でオレは妹に謝った。
「えっ、何でお兄ちゃんが謝るの!? 私こそごめん……本当にごめんなさい」
妹は不思議がっていたが、理由は明白だ。今回、妹が万引きという犯行に及んだ理由……それは妹に、この家庭は問題集すら買えない経済状況だと思わせてしまったことだ。妹はゲーム感覚で万引きしたワケではない……これは菱山妹や、書店の店長も理解している。
要するにオレやお袋が無理をして鈴里の受験勉強を応援していると「勘違い」させているということ……これは兄であるオレの責任だ! 確かに生活は苦しい……でも決して妹に、普通の人と同じような勉強をさせられないワケではない。
「ウチは決して貧乏じゃないぞ! あの時だって素直に言ってくれりゃ買ってやったのに……」
「ウソよ! お母さんもお兄ちゃんも、私のためにムリしてるでしょ!?」
やっぱり、そう思っていたか。
「確かに仕事はキツイ時もあるけどさ……別にそんな仕事、他にもいっぱいあるし普通だよ! 会社の人の中には『天職だ』って言ってるヤツもいる……なのに何で兄ちゃんがムリしてるって思うんだよ?」
オレは妹に「そもそも」の質問をしてみた。何が「ムリしている」と思わせているのだろう? 休みが少なく帰りが遅いことか? それとも疲れて帰ってきて、すぐに寝てしまうことか? すると妹から予想外の答えが返ってきた。
「だってお兄ちゃん、自分の人生を全然楽しんでないじゃない!」
――!?
そういうことか! どうやらオレは就職してからというもの、ほぼ毎日働き詰めでプライベートがないと妹から思われているようだ。
だがそうじゃない、元々オレは中学時代に剣道をやっていたリして鈴里よりは充実した学校生活を送っていた。それに今だって中学や高校時代の友だちと連絡を取り合ったり、野牛島樹李が家に遊びに来たりしている……人生を楽しんでないなんてことはない!
「別に……楽しんでるぞ」
「だったらお兄ちゃん! 彼女は作らないの?」
うわ……妹からまさかのカウンターパンチが飛んできた。それは作りたくてできるモンじゃない! 会社では出会いがほぼ絶望的だし、友人から合コンとかの誘いはあってもスケジュールが合わないし、合コンに費やすお金は……さすがにムリ。
「い、いやぁ……兄ちゃんモテないから」
「ウソ! お兄ちゃんカッコいいし、昔はモテてたじゃん! バレンタインデーのとき、両手に袋を吊るして帰って来たことだってあったよね?」
そ、そういえばそんなことあったな……
「でも中二のときからぱったりと無くなったよね? 学校で禁止されたの?」
その理由は……口が裂けても言えねぇ!
「お兄ちゃん、彼女作りなよ……そうすれば私も安心して受験勉強できるのに」
……え? 結局オレのせいかよ!?
「この間、樹李お姉ちゃんにフラれちゃったじゃん! あーあ、お兄ちゃん樹李お姉ちゃんと付き合うとばっかり思ってたんだけどなぁ」
それはない! 確かに樹李はいいヤツだが、彼女とかいう話は別問題だ!
「あと……菱山さんもいい人なんだけどなぁ。今回も本当に助けられたし……菱山さんがいなかったら私、停学になっていた」
ここで言う「菱山さん」とは間違いなく「空」の方だ。そうか、アイツが店長に掛け合っていたのか。
でも、菱山妹とは相性が悪そうだ。それは絶対にないだろう。
そして数日後……それを決定づけることが起こった。
※※※※※※※
この日、オレは休日だったので家でゴロゴロしていた。と、そこへ
「ただい……ま」
鈴里が学校から帰って来たのだが……何か浮かない顔をしている。よく見ると大きな紙袋が……
「どうしたんだ? それ」
「実は、菱山さんが……」
妹が困惑した表情でその紙袋をテーブルの上に置くと、中から出てきたのは大量の参考書や問題集……先日、妹が万引きした問題集まで入っていた。
「おっ、おいこれって……まさか?」
「こ……断ったんだけど」
どうやら菱山妹が鈴里に買い与えたようだ。本人は好意でやったと思うが……
これはプライドを傷つける行為だ……バカにすんな!
貴音なのです。硯都がモテなくなった理由は【番外編】2話でわかるのです!




