私は妹にブラジャーを買ってあげた(いづみside)
「じゃあこれ、会計お願いします」
妹の貴音が気に入ったので、上から被るタイプのブラと念のためキャミソールタイプのブラトップを買ってあげた。
あの後、店員さんにフィット感を確認してもらったのだが「ブラ」と「自信」をつけた妹は、店員さんの前で恥ずかしがるどころか今度は見せたがっているような態度……ったく、現金なヤツだ。
しかも店員さんに「大変お似合いですよ」と言われて舞い上がった妹は「毎日着替えるから」と言う理由で同じ物を五枚も買いやがった。
おいおい、サイズはわかったんだから残りは普通の店で買えよ! ここは下着ブランドの専門店だからそこそこの値段はするんだよ!
――ま、今回は仕方ない……妹の「初めてのブラ」だ。
と言いつつ私も久しぶりに通販以外で買ってしまった。私も採寸してもらえばよかったな……もしかしたら『あの女』みたいにサイズが〝でろ~ん〟と変わってしまったかもしれないし……。
「……円になります。お支払いは?」
「あっ現金で」
隣にいる「現金なヤツ」は自分のブラが入った袋を嬉しそうに抱えている。支払いが終わってレシートを受け取ったとき店員さんが
「あっあの……」
私に話しかけてきた。あぁそういえば、さっきも何か言いたげだったなこの人。
「はい?」
「あ、あの……つかぬことをお聞きしますが、先ほど妹さんっておっしゃってましたけど……その……」
あー、そういうことか! 何を言いたいのかわかったよ。
「あぁ、私たちは親の再婚で一緒になった連れ子同士なんですよ! この子はハーフでして……」
妹は青い目で銀髪……確かにどう見ても日本人に見えない妹と「姉妹」なんて言われてもピンとこないだろう。私がそう言うと、店員さんは胸のつかえが下りたような顔をして
「そうでしたか! でもまるで恋人同士みたいに仲のいい姉妹なんですね!?」
――恋人同士!?
あぁこの店に来てよかったぁ! えぇ私は本気で恋人になりたいんですよ♥
私と妹は、とてもいい気分でお店を後にした。
※※※※※※※
「さて、買い物もしたしそろそろ帰……」
――私の腕をグイっと引っ張る者がいた。
「パフェ食べに行くのです」
しっかり覚えていやがったか……。
「おねえちゃん、さっきニャインで貴音をバカにしたのです。だから罰としておねえちゃんは貴音にワンランク上のパフェをおごるのです!」
「何だよワンランク上って……」
私と妹はレストランゾーンへやって来た。妹は「和食と甘味処」と看板に書かれた店の前に来るとショーウインドウを指差し、
「貴音はこの『王様パフェ』というのが食べたいのです♥」
――それは五人前くらいある巨大パフェだった。
「……他のにしなさい」
「……変えるのです」
それはどう見てもワンランク上じゃない……ラスボスだ。
妹は何の迷いもなく、パフェの種類が多いこのお店に決めた。
※※※※※※※
「いらっしゃいませ」
私と妹は店員さんに案内され席に着いた。
「ご注文がお決まりでしたらこちらのボタンを……」
「貴音は決まっているのです!」
すでに入り口で食べたい物を決めていた妹は、期間限定だというイチゴがどっさり入った豪華なパフェを注文した。
まだ注文する物を決めていなかった私は慌てて、とりあえず和食の店……ということで抹茶パフェを頼んだ。
妹は本当にワンランク上のパフェを頼みやがった。
「おねえちゃん!」
店員さんが去った後、妹が私に話しかけてきた。
「何?」
「あのお着物、とってもカワイイのです!」
ここは和食の店だからなのか、店員さんの制服が袴姿だ。
「貴音は色んなお店のウエイトレスさんが着る制服が好きなのです! 貴音もいつかウエイトレスさんの制服着て『いらっしゃいませ』ってやってみたいのです」
子どもらしいカワイイ夢だなぁ……尊い♥
――あっ、そうだ! そのとき私は「あること」を思い出した。
「ねぇ、貴音ちゃん!」
「何なのですか?」
「そういえばさ、母さんが貴音ちゃんに服作ってあげるから採寸させてほしいって言ってたよ」
その言葉を聞いた妹は胸を手で隠し、
「えっ、ママさんも貴音のおっぱいに興味があるのですか?」
確かに胸囲も測るけど……どうしてその発想になる?
私の通う大学では六月に学園祭が行われる。私はサークルに入ってないが、高校時代からの友人が所属しているサークルで模擬店を出すそうだ。で、そのお店で着るお揃いの服を作ろうという話になったらしいが……。
そいつらは勉強やバイトで忙しい(絶対ウソ)ということで、私の「母」に依頼してきた。私の母・茅乃は家政婦をやっていた経験から家事全般、特に裁縫は得意中の得意なのだ。
生地などの材料をサークル側が用意して作業代も支払う……という条件で、実はその「友人」が専業主婦の茅乃に直接依頼してきたのだ。その友人……いや、『あの女』は茅乃とも仲が良い。
だがサークルメンバーは全員裁縫に疎く、どうやら生地を買い過ぎたらしい。そこで余った生地を使い、妹(と私)にも服を作ってあげると言ってきたのだ……いや、私はあんな服いらないぞ!
妹にその話をすると
「えっ、貴音はその服着てみたいのです」
嫌がるかと思っていたら、意外にも食いついてきた。
「だったら貴音はママさんに測ってもらうのです! 貴音はこの体をママさんに捧げていじくり回されるのです」
……おい誤解されるからその言い方やめろ!
※※※※※※※
〝ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ〟
買い物を終えた私と妹は帰りの電車の中にいた。ドア付近の二人掛けのシートに並んで座った私たちはとても満足していた。
「貴音は今日、とっても楽しかったのです!」
私も……今日は姉らしいことができて良かったよ!
「またあのお店に行きたいのです」
「あの店? パフェ食べた店のこと?」
「そっ、それもなのですが……あっ……あのお店なのです」
ここは他の乗客もいる電車の中……何のお店かは言えないよな。
「そうだね、貴音ちゃんもすぐ大きくなっちゃうからね……また行こうね」
「はいなのです!」
実は今、運転免許を取るため自動車教習所に通っている。私は大量の買い物袋を抱えて思った……やはり郊外で買い物するには電車だとキツい。なので免許取ったら今度は妹を助手席に乗せて車で行こう……と。
そのとき、私の肩に重みが……
「すぅ、すぅ……」
妹が小さく寝息を立てて私の肩に寄り掛かってきたのだ。
色々あって疲れたのだろう……タヌキ寝入りではない。
ま……電車で行くのも悪くないか♥
貴音なのです。おねえちゃん、『あの女』って誰なのですか!?




