【番外編】オレは妹に恋をした(硯都side)1
「こちらにサインをお願いします……ありがとうございました!」
あれから十年、オレは地元で何の変哲もない人生を送っている。
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オレの名前は「雨畑 硯都」、市内の宅配便会社で働く二十二歳だ。
高校を卒業後、家計を助けるため大学に進学せず就職した。まぁ進学を希望したところで、就職に有利なレベルの大学は実力的に無理だとわかっていたのでこの選択に後悔はない。
宅配便の配達員は体力勝負! 大変な仕事だが、学歴不問なのでオレのような高卒でも稼ぐことができる。
ただ……出会いは少ない。一日の大半をひとり車の中で過ごすのだから仕方ないと言えば仕方ない。でもまぁ時々、彼女欲しいなって思うことはある。
これでもオレは中学から高校までモテていた。剣道部に所属し、県大会で優勝もしたことのあるオレは常に女子から囲まれ、何度も告られていた。でも就職してからは事務所のおばちゃんやヤンママ風女性ドライバーの先輩くらいしか異性との出会いがなく、完全に非モテ人生を歩んでいる。
だがそんな人生に悲観などしていない。オレには目標がある。
「ただいまー」
今日の仕事を終え、ボロボロになったオレを迎えてくれたのは、
「あっお兄ちゃんお帰り! 夕飯作っといたよ」
妹の鈴里だ。鈴里は現在高校二年生、来年は受験生になる。オレと違って成績は優秀、何とか大学に行って欲しいと願っている。と、言うのも……
五年前……オレたち家族を不幸が襲った。親父が病気で亡くなったのだ。
オレが小学校で剣道をやりたいと言ったとき、親父は反対をせずオレに竹刀や防具一式などを買ってくれた。そして試合にも駆けつけ応援してくれた。
防具なんて全部買いそろえると結構な値段がしたはず……生きていた当時は考えたこともなかったが亡くなった今、改めて親父のありがたさを実感した。
今はお袋と妹の三人暮らし……典型的な母子家庭で、生活費を稼ぐためお袋は毎日働いてる。だが妹を大学に通わせられるレベルではない。
奨学金という考えもあるが、妹には同世代の女子と同じ生活……奨学金の返還がない生活を送ってもらいたい。そこでオレが親父やお袋の代わりに働いて、妹が大学に行けるよう頑張っている。
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「よぉ硯都! 久しぶりじゃん」
「おぉ久しぶり! つーか変わってねぇなココも」
ある日のこと、オレは母校である中学校の体育館にいた。今日は同学年だった連中が集まり同窓会が行われていた。
「硯都! この前は悪かったな」
「オメ―よぉ! 時間指定したのに不在ってマジないわ」
地元に就職、そして配達していると自ずと同級生や知り合いとよく会う。だが仕事中は長時間話しているヒマがないので、こうやってゆっくり友だちと話せるのはとても楽しい。
だがここは田舎、進学や就職で県外に出ていく者も多い。クラスではなく学年全体の同窓会なので、もっと大勢来るだろうと思っていたら案外少なかった。きっと都会の生活や新しい仲間といた方が楽しいのだろう。
「そういえば貴音ちゃん来てないわね」
〝ビクッ!〟
隣にいた女子たちの会話に出てきた名前を聞いて、思わず反応してしまった。
「来るワケないじゃん! 尾白さん、今は有名人よ」
「えっマジで?」
「知らないの? 東京でバリスタやってて大会で優勝したとかで……あの子超可愛かったじゃん! マスコミから注目されて『美人過ぎるバリスタ』とか言われて有名になったのよ」
「あっ私この前テレビで見たー」
「私もー、すごいよね貴音ちゃん」
尾白貴音……クラスが一緒になったことはないが、家は近所……いわゆる「幼馴染み」だ。小学校低学年のときはよく一緒に遊んだが、高学年辺りから疎遠になった……ま、よくある話だが。
だが中一のとき、あることがキッカケで尾白貴音の存在がちょっとしたトラウマになってしまった。その理由はコイツの「お継姉さん」だ!
武川いづみさん……小学校のとき見たことがないと思っていたら、どうやら尾白の父親が再婚した相手の連れ子だったらしい。しかも再婚相手、つまり彼女の母親はオレが小学校のとき通っていた剣道クラブの師匠、武川茅乃先生だったのだ。
オレは尾白貴音の継姉であるいづみさんに恋をした。よく幼稚園や小学校で先生や同級生を好きになるのとは違う、ガチの初恋だ!
オレは昔から年上……大人の女性が好きだった。小さい頃から妹と一緒に過ごしていたオレは、同い年や年下の女子に何の興味もわかなかった。
その反動か、大人の女性……特に「巨乳」にはめっちゃ憧れていて、胸の大きい先生の授業だと上の空になってしまうこともあった。ぶっちゃけ、怖かったけど武川先生も時々そういう目で見たことが……今となっては黒歴史だな。
そんなある日、体育祭の保護者競技でお継姉さんを見かけた。
衝撃的だった! よく友だちが兄ちゃんから借りてきた雑誌のグラビアで、そういう巨乳水着モデルを見かけたとき「いねーよこんな女! 画像修正してんだろ」と思っていたが、まさか現実にいるとは……オレはあの日、一目惚れをした。
何とかお継姉さんに近づきたい! そこでオレは、幼馴染みの尾白貴音に接触した。尾白と仲良くなってお継姉さんを紹介してもらおうという作戦だ。
今となっては尾白には悪いことをしたと思っているが、当時の中学一年男子の発想なんてこんなものだ。
まぁ結局……その目論見がバレてしまい、お継姉さんから剣道でフルボッコにされてしまった。あの人メチャメチャ強かった! なのでオレにとって尾白姉妹はトラウマだ。
しかも後でわかったことだが、お継姉さんは尾白のことが好きだったらしい。最初そのウワサを聞いたとき「キモッ」って思ったが、まぁ今どきLGBTとか当たり前の世の中だし、あの姉妹は元々血が繋がってないし……それに何より、お継姉さんと試合したとき鬼気迫るほど真剣にぶつかってきた理由がわかった。オレ……あのときよく生きて帰ってこれたな。
どうやらあの二人は最近やっと付き合い始めたらしい。お互い離れ離れだが……ま、今となっては若気の至りだと思ってるし、尾白家も配達エリアなのでお継姉さんとは何度も会ってるし……現在では二人を応援している。
「おー硯都! ちょりーっす」
「ちょりーっすって……古っ!」
やって来たのは野牛島樹李、中学時代はそこまで交流がなかったが、以前コイツが働いていた居酒屋で再会し意気投合した。コイツの家は父子家庭で兄と妹……母子家庭になったオレの家と環境が似ていて、よく妹のことで相談していたのだ。
「鈴ちん元気ー?」
「あぁ、この前は一緒に遊んでくれてありがとな!」
樹李は妹の鈴里と仲がいい。同じ妹同士、通じ合うものがあるのだろう。だが樹李は恋愛対象外! 向こうもそう思っているだろうがコイツとは親友だ!
そして……
「ちょっと! こっちはガン無視!?」
「硯都……久しぶり」
樹李と一緒にいたのは菱山天……そして空の双子姉妹だ。
貴音なのです。貴音は大会で優勝していないのです……どこで尾ひれが?




