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私は……継父の秘密を知った(いづみside)

 



「いづみさんは……貴音のことが好きなんですよね?」




 ――何でバレちゃったんだよぉおおおおおおおおっ!?


 私は尾白(おじろ)貴音(たかね)との交際を認めてもらうべく、彼女の実父で私の継父・尾白延明(のぶあき)と二人きりで貴音の誕生日プレゼントを買いに出掛けた。

 これは私の男性恐怖症を克服するためでもあるが……その帰り道、継父は「話したいことがある」と街が一望できる場所に車を止め、私にこう聞いてきたのだ。


 いや何で!? まぁこれで私が同性愛者だということと、妹が好きだというカミングアウトの手間が省けてしまったが……いやいやこれはこれでやり難い!


「えっ、あっ……その……」


 私は何て返せばいいのかわからず()()()()()()になった。すると継父は落ち着いた口調で話し始めた。


「いづみさん、アナタには感謝しているんですよ」

「えっ!?」

「正直なところ……ボクも最初は連れ子同士で上手くやっていけるのか心配だったんです。でも娘と実の姉妹のように接してくださるアナタを見て安心しました」

「そっ……そうですか?」

「えぇ、あの子はひとりっ子で母親もなく……不甲斐ないことにボクも父親らしいことがしてやれなくて……同級生のお友だちがよく家へ遊びに来てたんですが、その子たちが帰るといつも寂しがっていたんです」


 そういえば……継父と母の茅乃(かやの)が「新婚旅行」へ出掛けた夜、貴音はひとりでトイレに行けないほど怖がっていたよな。


「いづみさん、アナタが女性にしか興味ないのは容易に想像つきましたよ」


 ――えっマジかよ!?


「いづみさんの過去を知ったら致し方ないですよ! むしろ人間不信にならなくて良かったと思っているくらい……なので同居を決めてくださったときは大変うれしかったです」

「そっ、そうなん……ですか?」

「えぇ……ボクは一応、LGBTには寛大なほうだと思っています。娘に対してそういう気持ちがあると気づいたときは正直驚きましたが」


 ですよねー、そんなあぶねーヤツが同居したら普通の親じゃ刺し違えてでも止めようとするわ! 貴音への好意までバレていた私は全身から変な汗が噴き出した。


「まぁ孫の顔は見たかったんですけどね……」


 何かゴメンなさい!! ま、まだ付き合うと決まったワケじゃないけど。


「でも、はっきり言って孫なんて親のエゴです。大事なのは貴音が……娘が幸せになれることが第一なんですよ」

「幸せに……ですか」

「えぇ、貴音が心の底から幸せになれるのなら人生の定番(スタンダード)は二の次です。結婚も、子どもも……本人が幸せだと感じる選択肢なら、たとえ親であっても自分の考えを強制することはしちゃいけませんよ」


 ずいぶん理解力のある親だなぁ……でも何で?


「お継父(とう)さんがそこまで寛大なら、ノラさんもさぞかし幸せだったでしょうね」


 ノラさんとは貴音の実母で継父の亡くなられた前妻のことだ。だが、私の言葉を聞いた継父の表情が一瞬で強張りだした。


「いづみさん……ボクはアナタの隠していることを知ってしまいました。代わりといっては何ですが、ボクの秘密も教えましょう」


 えっ、何だよ継父の秘密って……?



 ※※※※※※※



「いづみさん、ボクはコーヒーを淹れるのが得意なのは知っていますよね?」

「えぇ、確かノラさんに美味しいコーヒーを飲ませたいって理由でイチから勉強したと……とっても仲睦まじいエピソードだなぁって」


 継父はコーヒーの淹れ方が上手だ。その技術は娘である貴音にも受け継がれているが、元々はノラさんがコーヒー好きという理由で始めたらしい。愛妻家だなぁと思ってその話を聞いていたのだが……。



「実はね……あれ、噓なんですよ」



 えっ……嘘って!? 普段から物静かで、どう見ても人を騙すようには見えない継父の「嘘」という言葉に私は激しく動揺した。


「ボクが覚えたのはノラが亡くなってからです。つまりこれはボクの『罪滅ぼし』という身勝手な理由なんです」

「罪……滅ぼし?」


 継父は一度大きな溜息をついてから淡々と話し始めた。


「あの当時……ボクは大変多忙な日々を過ごしていました」


 継父の話だと、貴音が生まれて間もない頃は今と比べ物にならない程の人気作家だったそうだ。絵本を扱っているほぼ全ての出版社から仕事の依頼があり、寝る間も惜しんで仕事をしていたらしい。


「当時のボクは家族のことを考える余裕なんてありませんでした。いえ……むしろ仕事に没頭したいあまり考えたくなかったのかもしれません」


 家のことは全て妻のノラさん任せ、当然育児もその中に含まれていた。家の中で仕事しているにもかかわらず、当時赤ん坊だった貴音の顔を見ることすらなかったらしい。たまに顔を眺めるときは、赤ちゃんの表情やしぐさを観察して創作の参考にする「取材目的」だったそうだ。

 最初は継父の事情を理解して協力的だったノラさんだが、貴音が一歳の誕生日を迎えたあたりから夫婦関係は冷え切ってしまったらしい。


「そんなときでした……妻が病気になったのは」


 貴音が二歳を過ぎたころ、ノラさんを病魔が襲った。最初は自覚症状がなかったそうだが……


「その時点で病院に連れていけば、完治する可能性もあったそうです。でも……」


 仕事に没頭していた継父が気づくことはなかった……そして、


「ボクが気づいたころには……もう手遅れだったんです」


 継父は眼鏡を外すと、運転席のハンドルに顔をうずめた。そして表情を隠した継父の頬から……大粒の涙がこぼれ落ちた。


「彼女は……ノラはボクが殺したようなものです」

「そっ……」


 継父の衝撃的な「告白」に、私は言葉を失った。


「去年のクリスマス……娘にプレゼントした絵本を覚えていますか?」

「えっ、あぁ確かノラさんが書いたっていう……」


 クリスマスイブ……私はサンタのコスプレをして「流れ星の君に」という絵本を貴音にプレゼントした。実はこの絵本、継父の数ある作品の中で唯一妻のノラさんが書いた物語だったのだ。


「あれは妻が入院中に書いたんですよ。最期に妻は……貴音と三人で故郷のオーロラを見たいと言って……」


 あの物話は主人公の少年二人が流星群を見るところから始まる。そして少年の一人が病気で亡くなり、その「たましい」が流れ星になってもう一人の少年と一瞬だけ出会う……という話だったのだが、


「ボクは……あの本を見ると当時を思い出してしまって……だから家に置かなかったんですよ。でもどういう理由(ワケ)か貴音があの本の存在を知ってしまって……」


 誰にでも思い出したくない「過去」ってあるんだな……そして、その「過去」からは決して逃れることはできない。


「そういえば……シルクが家に来たことを覚えていますか?」


 シルクとは継父の姪で貴音の従妹だ。以前一晩だけ預かって大変な目に遭った。


「あの子……私に懐いてなかったでしょ! 理由、わかります?」


 懐かないどころか継父の存在すら無視してた感があるが……



「実はね……ボクはあの子の母親、アリーサから恨まれているんです」


貴音なのです。「伏線回収」をしながら続くのです。

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