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私は妹を泣かした奴に勝負を挑む!(いづみside)

 



 ――アイツ、許さん!




 私は……私に近づくためのキッカケとして妹の貴音(たかね)ちゃんを利用した男子中学生の「雨畑(あめはた) 硯都(けんと)」に対し、妹に代わって天誅を下してやると心に決めた。


「貴音ちゃん、今度私が雨畑に会ってやるから連絡して」

「えっおねえちゃん、硯都君とお付き合いするのですか?」

「天地がひっくり返ってもそれはねーな!」

「テントがひっくり返ったら住めないのです」


 ……少し機嫌がよくなったようだ。


「お姉ちゃんが男嫌いなのは知ってるでしょ!? 貴音ちゃんを困らせたアイツをちょっと成敗(せいばい)してやるだけだから」

「えっおねえちゃん、刀で人を斬ったら犯罪なのです」

「暴れん坊将軍じゃねーから……」


 もちろん吉宗の御庭番ではないので、日本刀で()()するつもりはないが……このとき私には良いアイデアが浮かんでいたのだ。私は「ある条件」を雨畑に連絡するよう妹に伝えた。


「ところで……貴音は疑問があるのです」

「んっ、どーした?」


 突然、妹が私に疑問を投げかけてきた。どうせ大したことじゃないだろうと高をくくっていたのだが……


「硯都君は、おねえちゃんのことが好きだと言ったのです」

「えっ、あぁ……うん」

「貴音もおねえちゃんのことが好きなのです」

「あ、あぁ……お姉ちゃんも好きだよ」


「もしかして硯都君の『好き』と、貴音の『好き』は違うのですか? だとしたら違いはいったい何なのですか? 二つの『好き』に境い目はあるのですか!?」


 ――!?


 単純に考えれば「Love」と「Like」の違いだろう。だが妹の口から出てきた「境い目」という言葉、これは考えたことがなかった!


 同じ「好き」でもLoveの方は「愛」と変換できるだろう。一般的に恋人や夫婦などに対してLoveが使われる。だとしたら性的な繋がり……子孫繁栄を求めることがLoveなのかな? と最初は思っていた。


 だが「家族愛」「ペット愛」そして「同性愛」だってLoveだ。つまり異性も同性も……人間以外のモノに対しても、性的な繋がりが無くてもLoveは適用される。

 そういえば私の友人に某アイドルの追っかけがいて、全国どこのコンサートでも駆け付ける強者がいるのだが……

 もし私がそのアイドルを「好き」になったとしてもそれはLikeだろう。だが彼女の場合間違いなくLoveだ。同じ対象物が「好き」なのにLikeとLoveが存在する。どこまでLike? どこからがLove? 考えれば考えるほどわからなくなってきた。


「おねえちゃん、貴音はまだ不安でいっぱいなのです! 貴音はこの先どうなるのか、おねえちゃんはこの先どうなるのか不安で不安で……怖いのです」

「そっか、じゃあもう一度ハグしてやるよ……おいで」


 私は震える妹を再び抱きしめた……そのとき、


 ――あ、


 ひとつだけわかった気がする。


 私は妹が好き(Love)だ。抱きしめたら緊張でドキドキする。


 だが……


 それ以上に「安心感」がドキドキを上回っていた! そういえば……私は今まで妹と一緒に過ごして(性的に)ドキドキすることはあっても、それ以上になぜか心が安らいでいた。たとえケンカしてもすぐに仲直りできるだろうという根拠のない自信もあった。

 もしかしたらLoveとは、そばにいることで「心の拠り所」が得られる「安心感」なのかもしれない……まだ明確な解答とは言えないが。



 ※※※※※※※



 数日後……


「おっ……おはようございます! あの、今日はよろしくお願いします」

「おはよう! 今日はよろしくね」


 雨畑が「ある場所」にやって来た。一応「デート」の待ち合わせ……なのだが、


「あの……大変疑問なんですが」

「なーに?」


「何で剣道着が必要なんですか? それに、お姉さんのその格好も……何で?」


 そう、私は雨畑を近くの剣道場に誘ったのだ。事前に妹を通して「剣道着一式を持ってこい」と雨畑に伝え、私は道着に着替えて雨畑の到着を待っていた。


「何でって? デートでしょ」

「いやデートの場所としては最も不向きな場所かと……」


「あのさぁ、まだ私はキミのことを恋愛対象として見ていないんだよ」

「それは……重々承知しています」

「まずは()()()からってこと……で、こういう言葉知ってる?」

「……?」


「強敵と書いて『とも』と呼ぶ」

「……北斗の拳ですね」


 うん、中学生でも元ネタは知っていたか。


「キミは段位を持ってるって言うじゃない!? だからこの私と試合稽古でもして実力を見極めてやろうと思ってさ! もし私がキミの実力を認めたら(交際を)考えてやってもいいよ」

「えっ、でも……試合稽古だったら審判役がいりますよね!? 誰か他に来ているんですか?」


 と、そこへ……


「よぉ硯都! 久しぶりじゃねーか」


 母の茅乃(かやの)が現れた。


「えっ、たっ……武川(たけかわ)先生! な……何で!?」


 茅乃の登場に雨畑は驚いていた。それもそのはず……雨畑は小学生のとき、茅乃が教えていた剣道クラブの生徒だったのだ。


「そういや初段取ったんだってな!? おめでとう」

「あ……ありがとうございます」


 雨畑は妹と同じ中学一年生だが初段を持っているらしい。以前は中学二年生にならなければ初段を取ることができなかったが、規定が改正されて今では条件さえ満たせば十三歳で取得することができる。


「すげぇなーおい、ウチのいづみだって初段取ったの中二だったからなぁ」

「おいコラ誤解されるようなこと言うんじゃない!」


 私が初段を取ったのは、まだ規則が改正される前だったんだよ! すると雨畑はあることに気がついたようだ。


「えっ……()()()()()()って?」

「あぁまだ言ってなかったな!? コイツは実の娘だ」

「……えっ!?」


 それを聞いた雨畑は思わず竹刀袋を落としてしまった。


「おい! 竹刀は大事に扱え」

「そっそれじゃ、尾白(おじろ)……さんの再婚したお母さんって!?」


「私だよ! 硯都、オメ―母ちゃんから聞いてなかったのかぃ!?」

「し……知りませんでした」


 好きになった相手が、かつての師匠の娘と知った雨畑はかなり狼狽していた。


「心配するな、いくら自分の娘でもそこはちゃーんと公平にジャッジしてやっからよ! 逆にいづみが有効打突決めても旗上げねーかも?」

「おいコラそこはちゃんとジャッジしろ!」

「硯都! わかったら早く着替えな! この道場、タダで借りてるワケじゃねーから……時間過ぎたら延長料は()()()()()だぞ」


 何でだよ!? そもそも今の使用料だって私が払ってんだぞ!


「どうすんだ硯都! やらないのかぃ!?」

「あっ言い忘れたけどさ! もちろん中学生向けのルールでやるから……ハンデ付けるよ」


 母娘漫才を見てようやく落ち着きを取り戻した雨畑は、


「確認なんですけど……」

「えっ、うん」


「お姉さん、オレが勝ったら……お付き合いしていただけるんですよね?」

「お……おぉ、まぁいいけど」


 すると雨畑は、不敵な笑みを浮かべてこう言った。



「いいんですか? オレ……自慢じゃないけど相当強いですよ!」



 ……ほぉ、上等じゃねーか! そうでなくちゃ面白くねぇな!!


貴音なのです。貴音のいない所で勝手に話を進めないでほしいのです!

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