私は妹の美術館デートを邪魔したい(いづみside)
前々回「貴音は二度目のデートをするのです」のいづみ視点バージョンです。
「おねえちゃん……何でついてきているのです?」
私は……妹の二度目のデートに車で送ってあげたついでに、そのまま待ち合わせ場所までついてきた。
「えっ、貴音ちゃんの彼氏に挨拶しようと思って……」
もちろん出しゃばったマネである。妹とはいえ他人のデートにお邪魔するのはマジで「邪魔」以外の何者でもない……でもそんなことは百も承知だ。
だが! 妹の気持ちを尊重して今回は許してやったが、大好きな妹に手を出しやがったこの雨畑とかいう男子に対し「威圧」をかけておかねば気が済まない!
大人げない行為だが私だって妹が好きだ! 威圧をかけることで不純な行為に及ばないようクギを刺し、あわよくば妹と別れてくれればいいとさえ思っている。
美術館の正面にある彫刻の前が待ち合わせ場所らしい。「四つに分かれた横たわる人体」という名前だが、リアルに考えたらかなりグロいなぁ……つーか私は美術に興味ないからこれの何がすごいのかよくわからん。
「硯都君、お待たせなのです」
待ち合わせ場所で妹が話しかけた相手……やはりそうか!? この前動物園の駐車場でこっちをジロジロ見ていた少年、コイツが雨畑だったんだ!
「あぁ尾白! 大丈夫、オレも今来た……えっ、お姉さん!?」
雨畑は私を見て鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。そりゃそうだろう、妹と二人っきりでデート……のはずが姉がついて来たんだからな。
「どーも初めまして! 貴音の姉でーす!」
「えっ……あっどっ、どうも……」
しかも明らかに動揺している……作戦通りだ。なぜならコイツは私にとって「恋敵」だ! まぁ私は妹の家族だから表面上は笑顔で接しているが、内面は殺意にも似た闘争心で私はこのクソガキを睨みつけていたのだ。
「おねえちゃん、もっもういいのです! 早く帰るのです」
「えーお姉ちゃんもせっかく来たから美術館見ようと思ったんだけどなぁ……大丈夫! お二人の邪魔はしないから! 別行動するよ」
別行動? そんなのはもちろんウソだ! 一応世間体を気にして距離は取ってやるが、万が一妹に指一本でも触れてみろ……すぐに成敗してくれるわ! そのくらいの間合いは詰めておこう。
雨畑は視線を逸らして私の顔を見ようとしない。コイツは剣道の有段者と聞いているが、もうすでに胆力で私に負けてるな。ただ、時々気づかれないようにチラッとこっちを見るが……何かコイツ、私の胸を見てないか?
そういや私、今日はいつもの小さく見せるヤツじゃない普通のブラを着けているのだが……おいおい、この状況で何見てんだよ!?
「硯都君、イヤならイヤとはっきり言っていいのです」
妹もさすがに業を煮やしたようだ。すまん妹よ、でも絶対に負けられない戦いがここにはあるんだよ! これは私の戦い……妹に嫌がられても私は不動心でこの戦いに挑む所存だ。ところが……
「う、うん……いいよ一緒でも」
あれ? コイツ、嫌がらないのかよ!? 変なヤツだなぁ。
※※※※※※※
私と妹、そして雨畑の三人は美術館に向かって歩いていた。歩いている最中も雨畑は私の顔をチラチラと見ている……私の顔色をうかがっているのか? だとしたら威圧は大成功だが。
と、そこへ妹が衝撃発言をした。
「この美術館って何があるのです?」
「えっ……」
冗談だろ? いくら中学生といえども、ここに展示してある代表的な作品くらい県民の常識だぞ!
「知らないの?」
「おいおい、お姉ちゃん県外出身だけど知ってるぞ」
「ここはミレーなどバルビゾン派の作品を中心とした美術館だよ」
雨畑も妹にツッコミを入れた。コイツにツッコませるのは何か癪に障るが、よくバルビゾン派なんて言葉知ってたな。だがここで妹はいつもの、天然なのか計算なのか微妙にわかりづらいボケをかましてきた。
「……ベルメゾン派?」
「「通販じゃねーよ」」
うわっ、雨畑とツッコミが被ってしまった! 何たる不覚……でもコイツは嫌がるどころか何かうれしそうな顔をしている。それどころか……
「あの……お姉さんって県外のご出身なんですか?」
「あっうん、そうだけど」
私に話しかけてきた……ってかそこに興味持つか!? 私のプライベートなんかどーでもいいだろ!
私が生まれたのはこの街ではない、小学校入学のタイミングでこっちに引っ越してきた……まぁ結局小学校に通うことはなかったが。
――正直、この事実は思い出したくない。
※※※※※※※
美術館の建物に入った……うわぁ、ロビー広っ! 真正面にこれまた広い階段があり、美術館っぽいセンスある造りだなぁ。
私たち三人はそのまま横にある受付へ向かった。そもそも妹はデートだし、ましてや雨畑なんかにびた一文払う気などない!
「すみません、大人一枚」
「あと、中学生二枚なのです」
すると受付の女性から驚くべき言葉が……
「中学生の方は無料です、大人の方は五百十円になります」
何? 中学生は無料だと!? 何てこった……動物園に引き続き、中学生以下の優遇措置を見せつけられたわ。仕方ない、まぁ私設の美術館と比べたらメッチャ安いだろうし……私は財布を取り出した。
だが、ここで思わぬハプニングが発生した。
――財布の中……五百円しかねぇ!?
ウソだろ!? 十円足りねーじゃん! まさかこんな所で値切るワケにはいかないし……どっ、どうしよう!
と思っていたら料金表に『大学生(料金)』の文字が……これだ! これだったら五百円で十分おつりがくる……ラッキー!
「あっあの私、大学生なんですけど……」
「そうですか、でしたら学生証の提示をお願いします」
オッケーオッケー学生証ね!? えーっと……
私はカバンの中を隅々まで探したが……ない!
まさか使うとは思ってもいなかったので、学校に持っていくカバンの中に入れっぱなしだった……詰んだなこりゃ。私は妹の顔を見ると、
「あ、あぁ~急に用事思い出しちゃったぁ~! じ、じゃあ後はお二人で楽しんできてね~!」
スマホで通話するフリをしてそのまま帰った……うわぁ、だっせぇ!
※※※※※※※
その日の夕方、あらかじめ妹と待ち合わせした時間に駐車場へやって来た私は、車の中で妹の帰りを待っていた。
……遅いなぁ。
待ち合わせした時間になっても妹はやって来ない。心配になった私は、妹にニャインを送ったが……既読がつかない!
――まさか!?
既読がつかない状況……あのヤロー! とうとう妹に手を出しやがったか!?
人が多いとはいえここは森のある公園、人目につかない場所くらい探せばいくらでもあるだろう。きっと裸婦画でも見た雨畑がムラムラして、妹を木陰に連れ込んだに違いない!
中一だって性欲はある、私の元カノの和も初体験は小五だと言ってたし……まぁアイツは特殊か。
そんなことを考えていたら妹が帰ってきた。
「お帰り貴音ちゃん、デートはどうだったの……えっ?」
そこには……何か思いつめた表情で、明らかにデートを楽しんでいなかったであろう妹の姿があった。
――おい、一体どうしたんだよ!?
続くのです。




