貴音は告白されたのです(貴音side)
「硯都君! あの木を使ってゲームをするのです」
貴音は硯都君と美術館で二度目のデートをしたのです。美術館の前の広場には三角形の木がたくさんあるのです。
「えっ、ゲームって?」
「あの木の中のどれかに貴音が隠れるのです! 硯都君はどの木にいるのか当てて貴音を探してほしいのです」
要するに「かくれんぼ」なのです。これだけ同じ形の木があったら隠れたい気分になるのです!
貴音はたくさんある木の中から一本選んでそのウラに隠れたのです。さすがにこんな所で「もーいいよ!」なんて大声を出すのは恥ずかしいのです。貴音はニャインで合図したのです。
〝ドックン……ドックン〟
木のウラに隠れている間、貴音は見つからないかドキドキしていたのです。ここ数日、なぜか貴音はドキドキすることが多いのです。
それにしても……思ったより時間がかかっているのです。一本一本探しても全部探せるくらいの時間がたってしまったのです! まっ、まさか貴音を置いて帰ったのですか!? だとしたらひどいのです! 貴音が不安になっていると……
〝ポンッ〟
「ひぃっ!」
〝ドキッ!〟
貴音は後ろから肩を叩かれたのです。
「見つけた!」
振り向くと硯都君がいたのです。
〝ドキドキドキ……〟
「あっ、見つかっちゃったのです! じゃあ次は硯都く……」
あれ? 硯都君の様子がおかしいのです。真顔というか……さっきまで見せていた穏やかな顔ではないのです。な……何か貴音もふざけちゃいけないような雰囲気になってきたのです。
「尾白……話がある」
えっ、かくれんぼの途中なのです! この状況でお話ってヘンなのです! すると硯都君は貴音の肩に置いた手をぐっと引き寄せたのです。その勢いで貴音は硯都君と向かい合わせになってしまったのです!
〝ドクンッ!〟
あ……またなのです! 動物園デートのときも、硯都君に手を引かれたとき同じように心臓が大きく動いたのです!
〝ドクンドクンドクン……〟
硯都君は貴音の目を見つめているのです。硯都君に見つめられると貴音の心臓は聴診器を当てなくても聞こえるくらいドキドキしてきたのです。
「あのさぁ……その……お、お願いがあるんだけど!」
硯都君も緊張しているみたいなのです。貴音の肩に置いた手から、硯都君のドキドキが伝ってくるような気がするのです。
〝ドキドキドキドキドキ……〟
ほわぁああああっ! ドキドキがめちゃくちゃ早くなってきたのです! こっ、こんなこと……貴音の人生で初めてのことなのです。
ゲームでラスボスを倒すときよりも、テストの成績が悪かったことをママさんに報告するときよりもドキドキしているのです。
もっもしかして……これが告白というものなのですか? これが「好き」っていう感情なのですか!? もしかして……もしかして貴音は硯都君のことが「好き」なのですか!?
「尾白! おっ……オマエの……」
へっ、へぁわわわわっ! どっどうしたらいいのですかぁ~っ!?
「オマエの姉ちゃん紹介してくれ!」
……えっ!?
「なっ……何で?」
「オッオレ……体育祭のとき、尾白の姉ちゃんに……その、一目ぼれしちゃったんだよ! 実はオレ、年上の女性が好きでさ……」
「……え?」
「しかもオレ、男っぽいサバサバした姉ちゃんが好きでさ……ほら、オレって妹しかいないじゃん!? だから年上の兄ちゃんとか姉ちゃんって存在に憧れてて」
えっ硯都君は……おねえちゃんのことが「好き」だったのですか?
「それで尾白に連絡取ってもらおうと思ってさ! でもまさか今日、尾白の姉ちゃんが来るとは思ってなくてマジで緊張したわ……っておい尾白、聞いてる?」
「き……きいているのです」
聞いているし、何かが心の中で効いて痛いのです。
「だからお願いだ! 頼む! 今度、尾白の姉ちゃんと会えるように連絡とってもらえないかな?」
「じゃあニャインを……」
「それはいい! 人づてにアカウント聞くのは何かフェアじゃない……ちゃんと本人に会って直接聞きたい」
「わ……わかったのです。今夜聞いてみるのです」
「ありがとー尾白! やっぱ持つべきものは友だちだな!?」
まぁ……硯都君は幼馴染みであって、それ以上でもそれ以下でもないのです。
でも……あのドキドキは一体何だったのですか?
※※※※※※※
「お帰り貴音ちゃん、デートはどうだったの……えっ?」
その後……公園で硯都君と別れた貴音は、駐車場へ迎えに来たおねえちゃんの運転する車で帰ったのです。でも帰りの車の中で貴音は、一言もしゃべることができなかったのです。
※※※※※※※
「貴音ちゃん、入るよ」
その日の夜、心配したおねえちゃんが貴音の部屋に入ってきたのです。なぜなら貴音は晩ごはんを食べることができなかったからなのです。
「どうしたの? 全然元気ないじゃん! デートでケンカでもしたのか?」
「大丈夫なのです! 心配おかけしてごめんなさいなのです」
「いやそれはいいんだけどさ……何があったの? お姉ちゃんに話してごらん」
「……実は」
おねえちゃんにも伝えたいことがあるのです。貴音は今日あった出来事と、硯都君のことを話したのです。
「はぁっ!? わ……私!?」
「そうなのです、硯都君はおねえちゃんのことが好きなのです」
「いやそれは絶対無理だけど……いいの? 貴音ちゃんはそれで……」
「いいのです! 元々硯都君は幼馴染みなのです! 小学校時代はヤなヤツだったのです! だからカレシとかそういう考えは貴音には一オングストロームもないのです! それに……天ちゃんたちからウワサを聞いていたのです! 硯都君は年上でおっぱいの大きい人が好きだそうなのです! だから貴音は初めから硯都君には友だち以上の感情はなかったのです!」
「いやそうは言ってもさぁ……って貴音ちゃん!!」
突然おねえちゃんが大声を出したのです。
「えっ?」
「貴音ちゃん、だったら……何で泣いてるの?」
――へっ!? あれっ!?
いつの間にか貴音のほほに何かが流れていたのです。
えっ……これは涙……なのですか!?
だとしたら……何で貴音は泣いているのですか?
たっ貴音は……貴音は……
硯都君がおねえちゃんのことを好きだということにショックを受けたのですか?
貴音よりおねえちゃんが好きだったということが悔しかったのですか?
大好きなおねえちゃんを取られそうになったから悲しいのですか?
それとも……貴音は硯都君のことが『好き』だったのですか?
わ……わからないのです! わからないのですぅううううっ!!
そもそも! 好きって何なのですか!? 貴音がおねえちゃんやパパやママさんやクララや天ちゃん空ちゃんたちやゲームが好きなのと、硯都君が好きなのとは何が違うのですか!?
じゃあ何で硯都君がおねえちゃんのことを「好き」だと言われて貴音は涙を流しているのですか!? 貴音がおねえちゃんのことを好きなのだから、硯都君が好きになっても全然おかしくないのです!
でも何で……何で!?
「ふっ……ふぇええええええええん!!」
貴音なのです。続くのです。




