貴音は動物園デートをするのです(貴音side)
日曜日になったのです。
貴音は同じ街にある「市立動物園」に来たのです。今日は同級生の雨畑 硯都君とデートをすることになったのです。
ここは行こうと思えば自転車で行ける場所なのですが「そんなオシャレしてチャリはねーだろ」とおねえちゃんから言われたのでバスを乗り継いで来たのです。
隣にある公園の入り口で待ち合わせなのですが、バスの到着時間の方が早かったので硯都君はまだ来ていないのです。しばらくすると……
「尾白ーっ!」
貴音を呼ぶ声がしたのです……硯都君なのです。
「ごめん、待った?」
「貴音もさっき着いたところなのです」
「いやぁ、実は渋滞に巻き込まれちゃってさぁー」
硯都君……自転車なのです! 渋滞関係ないのです。
「冗談冗談!」
硯都君はここから離れた場所にある駐輪場まで自転車を置きに行ったのです。そして再び合流してから動物園の入り口まで公園の中を二人並んで歩いたのです。
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「でも……何で動物園なのですか?」
実は今回のデートで「動物園に行こう」と言い出したのは硯都君なのです。貴音は動物が大好きなので、それはそれで全然構わないのですが……。
別に映画館やゲームセンターでもよかったのです。何で動物園にしようと思ったのか……不思議に思った貴音は硯都君に聞いてみたのです。
「だって、映画館やゲーセンじゃそ、その……学校のヤツらに見つかるかもしれないじゃん! でも動物園だったら知ってるヤツ来ないだろうし……」
硯都君は貴音と会っていることを内緒にしたいようなのです。何かコソコソしている態度が貴音はちょっと気に入らないのです。貴音と一緒にいるのがそんなに恥ずかしいのですか!?
動物園の入り口に着いたのです。受付で入場料を払うのです。
「中学生二人で」
「二人分で六十円です」
中学生までは一人三十円なのです……安すぎるのです。入場料を払った貴音と硯都君は動物園に入ったのです。入るといきなり目の前にゾウさんが現れたのです。
「わぁ……」
貴音がこの動物園に来たのは幼稚園のとき以来なのです。とっても古そうでオンボロな動物園なのですが、同じ街にゾウさんがいるなんてよく考えたらすごいことなのです。ワンコやニャンコを飼っている家はたくさんあるのですか、ゾウさんを飼っている家はこの一軒だけなのです……家じゃないけど。
「尾白! こっちにはレッサーパンダがいるよ」
小さな橋を渡ると硯都君が指さしたのです。その先にはレッサーパンダさんがいたのです。
「……手を洗わないのです」
「アライグマじゃねーから」
レッサーパンダさんはこの動物園の一番人気だそうなのです。そう言われてみれば、他の動物さんたちより特別扱いされた感じがする展示なのです。
でも貴音はレッサーパンダさんよりも入口の近くにあった「カメさん冬眠中」の方が気になっていたのです……カメさん見たかったので残念なのです。
「あっ、貴音はこっちの方がいいのです」
レッサーパンダさんがいる場所のすぐ近くに「ふれあい広場」と書かれた看板があったのです。どうやらここでは、ウサギさんやモルモットさんと一緒に遊べるらしいのです。
「硯都君、一緒にふれあうのです」
「えっ……オッオレはいいよ」
「なぜなのです?」
「だっ、だって親子連ればっかだし……恥ずかしいじゃん」
硯都君が言った通り、中にいるのは幼稚園児くらいの子どもとママさんばかりなのです。えっでも中学生が入ってはいけないとは書いてないのです!
「気にしないのです! 一緒に入るのです」
「えぇっ、でも……」
「硯都君は貴音と一緒に遊ぶのではないのですか?」
「そっそれは……わっ、わかったよ」
硯都君はしぶしぶ入ったのです。
「モルモットは抱っこできますよ」
係のお姉さんに教えられて、貴音はモルモットさんを抱っこしたのです。
「わぁ、あったかいのです! 硯都君もやってみるのです」
「えっ、うん……うわっホントだ」
硯都君も喜んでいたのです。モルモットさんはぷるぷるしてもふもふしてカワイイのです……クララ、浮気してごめんなのです。
※※※※※※※
くねくねした歩道橋を渡るとピンク色した鳥さんが見えたのです。
「このツルさん、恥ずかしくて赤くなっているのです」
「……フラミンゴだよ」
きっとおねえちゃんも同じようなツッコミを入れていたのです。
「こっちにはカンガルーさんがいるのです」
「えーっと……ワラビーだって」
「ワラビは山菜なのです」
「……あ、あははっ」
硯都君、そろそろ貴音についてこれなくなったみたいなのです。でもこれがおねえちゃんなら「食うつもりかよ!?」とツッコんでくるハズなのです。
「ねぇ、そろそろお腹空かない?」
ペンギンさんがいる池の向こうに売店があったのです。おでんを売っていたので硯都君と二人で食べたのです。
「お……おでんおいふぃいのでふ」
「それな、マジで体あったまるわ」
他にもヤマアラシさんやライオンさんやトラさんがいたのです。ヤマアラシさんの針が展示してあったのですが、ほぼ凶器なのです。
「あっ、こっちに遊園地があるのです」
ヤマアラシさんのいた場所のとなりに「ゆうえんち」と書かれた看板と、ウルトラマン(?)の人形があったのです。何かとっても怪しい雰囲気で冒険心をくすぐるのです……こちょこちょ!
こういうのを「レトロ」と言うらしいのです。そういえば幼稚園のときにこの動物園へ来たことがあるのですが、動物はほとんど見ないでこの遊園地でずっと遊んでいた記憶があるのです。
「硯都君、入ってみるのです」
「えぇっ、何か子どもっぽいけどなぁ……」
硯都君はしぶしぶついてきたのです……貴音たちだって子どもなのです。でも中に入ると
「うわっ、何だこのゲーム!? 見たことねーヤツばかり」
「こっちは汽車ポッポが走っているのです」
「しかも十円って……スゲー!」
「遊園地の中をぐるっと回るみたいなのです」
「でもこれ、どうやって遊ぶんだろ……わかんねー!」
硯都君のテンションが上がったのです。でもどうやら貴音と会話がかみ合っていないみたいなのです。
「おぉ! 太鼓の鉄人あるじゃん……バージョン古いけど」
「太鼓の鉄人は好きなのです」
「よしっ、尾白! 勝負しよーぜ」
貴音は硯都君とゲームで勝負したのです……ドンドンカッ……勝ったのです♪
「じゃあ次はあの汽車ポッポに乗るのです」
「いやいや、さすがにこれは恥ずい……」
「硯都君は勝負に負けたのだから貴音のいうことを聞くのです」
「えっ、何で終わってから賭けをした感じになってんの!?」
「硯都君、周りの目を気にしすぎなのです!」
貴音は硯都君を強引に汽車ポッポへ乗せたのです。
「そういや……周りの目っていえばさぁ」
汽車ポッポに乗ると硯都君が話しかけてきたのです。
「今日ずっと……サングラスをした男がオレらの周りをうろついてない?」
そういえば……何かおねえちゃんに似た男の人を何度も見かけたのですが……?
貴音なのです。貴音はゲームが得意なのです……えっへん!




