貴音は男の子からデートに誘われたのです(貴音side)
夕方になったのです。
夕方といっても今は冬なのです。外は真っ暗で街灯がついているのです。
貴音は一度家に帰り着替えてから、近所の公園にやって来たのです。雨畑硯都君とここで待ち合わせしているのですが……寒いのです! こんな寒い所で何のお話があるのですか!?
貴音が待ちくたびれていると……
「尾白ー! 悪い遅れちゃって……待った?」
硯都君がやって来たのです。硯都君の家も公園の近くなのですが、どうやら部活が長引いたらしく学校から直接来たのです。
「硯都君遅いのです! もうっ寒いから温めてもらうのです」
と言って貴音は硯都君に抱きつこうとしたのです。ところが……
「おっ、おい何すんだよ!?」
硯都君は貴音を避けたのです。
――あれっ……?
硯都君とは小学校低学年のとき、よくこの公園で遊んだのです。鬼ごっこをしたり相撲を取ったり……別に抱きつくくらい普通なのです。何で避けられたのか意味がわからないのです。
「今、部活の帰りだからさ……けっ、剣道着って臭せぇんだよ」
剣道着が臭うからイヤがったのですか!? そういえば以前、おねえちゃんの部屋にあった剣道着のニオイをかいだらメッチャ臭かったのを思い出したのです。
「まぁ寒いって言うと思って……はい、これ」
「えっ?」
硯都君は温かい缶コーヒーを買っていたのです。貴音はそれをもらうと二人でベンチに座ったのです……でも学校に現金を持って行くのは厳禁なのです。
それにしても、硯都君が缶コーヒーをおごってくれるなんて意外なのです。小学校のとき硯都君からもらったものといえば、公園で捕まえたバッタかトレカの最弱カードくらいしかなかったのです。
※※※※※※※
「で……何でこんな所に呼び出したのですか!? 別に学校で話せばいいのです」
貴音はベンチに座ると、缶コーヒーをカイロ代わりにして手を温めたのです。そして硯都君に、なぜこんな回りくどいことをしたのか聞いたのです。
「そっそれは……尾白は気付いてないと思うけど……」
「……?」
「オマエ、男子から一番人気なんだよ! 実は男子の間には『尾白と二人っきりで話しちゃいけない』って暗黙の了解があってな……」
えっ、そんな話は初ミミ……寝ミミミミミミズなのです! 何で貴音の知らないところで沈黙の艦隊が出撃しているのですか!?
「だからわざわざ家の近くに呼び出したんだよ! ココだったら学校の連中に見つかることもないだろうし……それにオレ、尾白のニャインも知らないし……」
「それで今日一日、貴音を伝言ゲームで振り回したのですか?」
「ごめん……えっ、伝言ゲームってそういうのだっけ?」
※※※※※※※
貴音は硯都君とニャインを交換したのです。
「で、硯都君は貴音に何の用なのです?」
硯都君は貴音に伝えたいことがあるからと公園に呼び出したのです。でも硯都君はなかなか言い出せない様子だったのです。
「あ、あのさぁ……オレらって……昔はよくココで遊んだよな?」
「遊んだのです。そしてよく硯都君からイヤがらせも受けたのです」
「えぇっ、ごっごめん……」
「気にしてないのです」
ちゃんと「お返し」はしていたのです。ウソ泣きをして形勢逆転させたり、携帯ゲーム機のRPGで間違った攻略法を教えていたのです……お互いさまなのです!
「(小学校)五~六年くらいからかな……オレら一緒に遊ぶことなくなっちゃったけどさ……家も近いし……ま、また一緒に遊んだりしないか?」
「……いいのです」
「えっホント?」
「何して遊ぶのです? 滑り台? ブランコ?」
「いや公園で今すぐじゃなくてっ!」
えっ、そういう意味じゃないのですか?
「だいたい、こんな暗くて寒い公園で滑り台なんかしたくねーよ!」
それもそうなのです。じゃあ一緒に遊ぶって……?
「こっ、今度の週末にさ……その……どこかへ一緒に遊びに行かないか?」
硯都君はお休みの日に、公園以外の場所へ遊びに行こうと言い出したのです。
「いいのです! じゃあ早速、天ちゃんや空ちゃんにも連絡……」
「あっ違う! そうじゃなくて!!」
貴音がスマホを取り出すと硯都君が必死になって止めたのです。えっ、大勢で遊びに行った方が楽しいのです。何で止めるのですか?
「そっ、その……オレは尾白と二人▲¥&@%……」
えっ? 最後の方が聞き取れないくらい小声だったのです。
「何を言ってるのですか? もっとハッキリ言うのです!」
すると硯都君は、まるで二時間サスペンスドラマに出てくる崖のシーンみたいに白状したのです。
「わーったよ! オレは尾白と二人っきりで行きたいんだよ!」
「えっ、何でなのです?」
「相変わらず鈍いなぁ、デートだよ! オマエとデートしたいって言ってんの!」
――えっ……デート?
小学校からの幼馴染みで、どちらかといえば敵キャラだった硯都君……そんな硯都君が貴音にデートしようと言い出したのです。青天のペキペキ(青天の霹靂)なのです!
でもデートって……具体的に何をするのですか?
「や、やっぱダメか?」
「えっ、別にいいのです」
よくわからないのですが、貴音は何事にもチャレンジするのです! でも……
「いいのですか? さっき沈黙の艦隊がどうのって……」
「暗黙の了解な……だからここに呼び出したんじゃねーか! いいな、この話は学校にいる生徒には絶対言うなよ! 菱山姉妹(天&空)にもだ!」
「……は、はいなのです」
この後……貴音と硯都君はベンチに座ったまま、すっかりぬるくなってしまった缶コーヒーを飲んだのです。うげっ! 貴音はこういう甘ったるいコーヒーが苦手なのです。でも、せっかくおごってもらったので最後まで飲むのです。
※※※※※※※
家に帰ってからも貴音は悩んでいたのです。
今日はいろんなことがありすぎたのです。ラブレター? デート? よく少女マンガにこういうシチュエーションがあるのです。
でもこんなことが貴音の身に起こるとは考えもしなかったのです。もしかしたら貴音は、少女マンガの世界に転生したのですか?
デートって……これは「好き」って意味なのですか? よくわからないのです!
あっ、こういうときは「おねえちゃん」に相談してみるのです! おねえちゃんは学校の生徒じゃないからお話しても問題ないのです。
おねえちゃんは男の人がキライなのですが、大人なのです! きっと何かいいアドバイスをくれると思うのです!
※※※※※※※
「こんこん、入るのです」
「おーどうしたのこんな時間に?」
貴音が部屋に入ると、おねえちゃんは珍しく机でお勉強をしていたのです。
「おねえちゃん、折り入ってご相談があるのです」
「えっ、改まって何?」
「おねえちゃんの剣道着は何で臭いのですか?」
「……ケンカ売ってんのかなキミは」
……間違えたのです。
「今日、貴音は男の子からデートに誘われたのです」
すると〝ガタガタッ〟と大きな音を立てて、おねえちゃんがイスから崩れ落ちたのです……おねえちゃん、リアクションが大きすぎるのです!
貴音なのです。よく「コーヒーの好みだけは大人だね」と言われるのです。
……「だけ」とはどういう意味なのです(怒)!?




