貴音は男の子からラブレターをもらったのです(貴音side)
それは……突然やって来たのです。
「おはよー」
「おはようなのです」
雪もなくなって普通に登校した朝のことなのです。いつものように貴音が下駄箱の扉を開けると……
〝パサッ〟
封筒のような物が落ちたのです。あれっ何だろう? 貴音が下を向いて落ちた物を眺めていたら
「どうしたの? 貴音ちゃん」
同じクラスの天ちゃんが声をかけてきたのです。
「誰かが貴音の下駄箱を郵便受けと間違えたのです」
そう言って天ちゃんに封筒を見せると、天ちゃんの顔がまるでイタズラを企んでいる子どものようなニヤッとした顔になったのです。
「あ~っ、貴音ちゃ~ん……ついにそんなの~もらったんだ~!?」
天ちゃん……和おねえちゃんみたいな話し方やめるのです。
※※※※※※※
教室に入って貴音が席に着くと、クラス中の女の子が次々に貴音の所へ集まってきたのです。天ちゃんが話を広めたのです……昇降口で一緒にいた天ちゃんの双子の妹・空ちゃんも、クラスが違うのになぜか来ているのです。
貴音の机の上には……さっきの封筒が置いてあるのです。
「貴音ちゃ~ん、やるね~!?」
「まぁ貴音ちゃんカワイイもんね~!」
貴音はこの謎の封筒が何なのかわからないのですが、なぜか女の子たちは勝手に盛り上がっているのです。
「これは……先生からの呼び出しなのですか?」
「そんなの下駄箱に入れないっすよ」
「たっ、貴音は給食費をちゃんと払っているのです!」
「いや請求書でもないから……」
じゃあこれはいったい何なのです!? それと何でみんなは封筒一つでそこまで盛り上がれるのですか!?
「貴音ちゃん! ここにシールが貼ってあるでしょ!?」
よく見ると白い封筒のウラ……真ん中あたりにハートの形をしたシールが貼ってあったのです! こっ! これは……
「トランプなのです! ハートのエース……」
「ここまで世間知らずだとマジでイラっとするわー!」
※※※※※※※
「貴音ちゃーん、早く開けてみてー!」
貴音の下駄箱に入っていた封筒を、クラスの女の子たちはまるで自分がもらったかのようにワクワクしながら見ているのです……ワケが分からないのです。
封筒の表には下手くそな字で『尾白さんへ』と書いてあるのです……やっぱり貴音宛てなのです。貴音が封筒を開けると折りたたまれた便せんが一枚入っていたのです。広げてみると、中にはこう書いてあったのです。
『尾白貴音さんへ
伝えたいことがあります。
昼休み、屋上入り口に一人で来てください』
すると女の子たちが一斉に「キャー♥」と騒ぎ出したのです。人の手紙でキャーキャー言わないでほしいのです。これはホラー映画じゃないのです!
でもこの手紙……差出人の名前が書いてないのです。しかも屋上(の入り口)で待つって……こっ、これはまさか!?
「これは『果たし状』なのです! たっ貴音は決闘を申し込まれたのです!」
「いやそんな物騒なモノじゃないっすよ!」
「えっ、決闘じゃなかったら……近い言葉で結婚の申し込みなのですか?」
「さすがに早すぎる……しかも『けっ』しか合ってない」
〝バンッ〟
そのとき突然、貴音の机を叩く人がいたのです。
「もうっ! アンタにはハッキリ言わないとダメね!?」
天ちゃんなのです。天ちゃんは短気なのです。
「これはラブレターよ!」
天ちゃんの「ラブレター」という言葉を聞いて、教室の中で散らばっていた男の子たちが一斉にこっちを見るとすぐに目をそらしたのです。
ラブレターくらい貴音も知っているのです。でもそれって「好きです」とかそういう言葉がたくさん書かれた手紙だと貴音は想像していたのです。ところがこれには全く書かれていないのです。
よくわからないのですが、貴音は一人で行ってみることにしたのです。
※※※※※※※
お昼休みなのです。
貴音は約束通り、一人で屋上へ向かったのです。ただ……貴音から五メートルくらい後方に、クラスの女の子が全員ついて来ているのです。
屋上の手前には掃除用具などの備品が置いてあるのです。貴音は屋上へ入るドアを開けようとしたけどカギがかかっていたのです。よく考えたら屋上は立ち入り禁止なのです……あやうく学園ドラマにダマされるところだったのです。
そこで屋上の入り口を見回したのですが誰もいなかったのです。これもダマされた……と思っていたら、備品の中に貴音宛ての封筒が置いてあったのです。
「えっ、貴音ちゃん! それって……」
「一人なのです!」
「あ゛……ごめん」
近づこうとしたクラスの女の子たちは、貴音に止められたので五メートルの距離をキープしたままなのです。封筒にはこんな手紙が入っていたのです。
『貴音さんへ
たぶんクラスの女子がついて来ているでしょう。
みんなには「イタズラだった」と伝えてから
放課後、今度こそ一人で体育館のウラに来てください』
――先が読まれていたのです。
しかも「今度こそ」と念を押されたのです! 貴音が階段を下りようとすると
「えっ、何て書いてあったの!?」
貴音は手紙に書かれた通り伝えたのです。
「これは……イタズラだったのです」
すると女の子たちは一斉に「えぇ~!?」と叫ぶと
「ひどーい! 何なのソレ!?」
「バカにしてる! 許せなーい!」
「ふざけんな! こうなったら犯人探しだー!」
怒りをあらわにして去っていったのです。
※※※※※※※
放課後なのです。
天ちゃんたちから「一緒に帰ろう」と誘われたのですが「先生に呼ばれた」とウソを言って、貴音は体育館にやって来たのです。
よく考えたら体育館って、どこがオモテでどこがウラなのかイマイチよくわからないのです。でも何となくウラっぽい場所へやって来たのです。
〝ダンダンダンッ!〟「声出していけー!」
体育館の中ではいろんな部が部活動をしていたのです。そんな中、
〝パシーン!〟「◎$%#▲ー!!」
貴音がいる場所の近くでは竹刀の音と聞き取れない叫び声が……どうやらここでは剣道部が練習しているみたいなのです。
と、そのとき……体育館の横にある扉が少しだけ開いて、周囲の様子をうかがいながら一人の男の子が顔を出したのです。
――あれは……硯都君なのです!
雨畑 硯都君……貴音の家の近所に住む同級生、つまり幼馴染みなのです。
小学校低学年までは他のお友だちと一緒に近所の公園などで遊んだのですが……高学年になってからは一緒に遊ぶこともなく、最近は口をきくことすらなくなってしまったのです。硯都君は貴音を見つけると
「尾白! 悪いなこんな所に呼び出して……」
「硯都君だったのですか、あの果たし状は!?」
「果たし状じゃねーけど……相変わらずだなぁ」
何年ぶりかぐらいに口をきいたのです。そして、
「尾白! これを……」
硯都君は貴音にメモ用紙を渡してきたのです。えっ、また手紙なのですか!?
「ごめん、時間ないから……そこで待ってる」
そう言うと硯都君はすぐに剣道部の練習へ戻っていったのです。メモにはまた別の場所が書いてあったのです。
貴音なのです。なんかヘンな展開になったのです。




