私は雪が嫌いだが……(いづみside)
「うげっ……」
金曜日の朝……普段より寒いと感じた私が部屋のカーテンを開けると、いつもの風景が真っ白くなっていた……
……最悪だぁ!
※※※※※※※
私は雪が嫌いだ。日中からどんよりと暗くてモチベーションが下がる。交通マヒが起こり歩道も歩きにくいので外に出歩きたくない。
中でも思い出すのは四年前の記録的な大雪! このとき私は中三の受験生。二次試験の願書なんてギリ締切に間に合えばいいだろうと高を括っていた私は、大雪のせいで郵送が遅れると知らされた。
大雪なのに母の「落雷」は凄まじく、私は泣きながら郵便局まで歩かされたという忌まわしい記憶しか残っていない……何とか中学浪人は免れたが。
なのでこんな日は布団に包まり一日中ゴロゴロするに限る! でも妹の貴音ちゃんは学校に行ったみたいだ……若いねぇ〜!
……ま、私もギリ十代だが。
だが、そんな私の「至福の時間」を邪魔する者が現れた!
「いづみー、今日は学校休みかー!?」
母の茅乃だ。
「休講だってー」
休講はマジだ。まぁ授業があっても今日はサボるつもりだったが……しかし茅乃の登場により状況は一転、家に居てはいけない雰囲気になってきた。
「そっか」
私の言葉を聞いた茅乃はニンマリとした。あーもう嫌な予感しかない。
「じゃ、雪かき手伝え」
命令形だ……つまり強制。うわー寒いし疲れそうだしメンドクセー!
※※※※※※※
私は防寒着に着替えると家の前の道路に出た。すでに茅乃や近所の人たちが総出で雪かきをしている。
〝ザクッ……ザクッ……〟
軽そうに見えるが意外と重いなぁ……実は私は雪かきの経験がほとんどない。去年までアパート住まいで「庭」というものがなかったからだ。
「でさぁ、知ってる?」
「あらやだ、何?」
母の茅乃は社交的だ。家政婦をしていたときからこの近所と交流があるらしいのだが……こらこら、ここで井戸端会議すな!
「あっ、貴音ちゃんお帰り」
ちょうどそこへ、妹の貴音ちゃんが学校から帰ってきた。制服姿だがスカートの下にジャージと長靴……何かダサい、でもカワイイ♥
「尾白さんもいいわねぇ、こんな働き者の奥さんと立派な娘さんができて」
「あらやーね! ほめても何も出ないわよ」
えっ、立派な娘って私のことか?
「娘さんもキレイよねー! ウチの息子の嫁に来ない?」
「あ、あはは……」
行くワケねーだろ!? 私は男が大っ嫌いだ!
「えー私の方がイイ女だよー! 嫁に行こうかしらー!?」
はーい、茅乃さんお幸せに―!
※※※※※※※
「あー疲れたー!」
私は妹とコタツに入ってミカンを食べていた。疲れて冷え切った体にはコタツとミカンの組み合わせは最強だ! と、そのとき妹が
「おねえちゃん、折り入ってお話があるのです」
「ん? 何だよ急に……」
「明日はお休みなのです。だから貴音と遊んでほしいのです」
「えっいいけど……ゲームか? できればボードゲームがいいんだけど……」
本当は性的な遊びがしたいのだが……すると妹が想定外の言葉を口にした。
「おねえちゃんと雪遊びがしたいのです」
――雪遊び?
実は……私は雪遊びというものをしたことがない。
今までアパート暮らしだったということもあるが……私は小学校時代、不登校で引きこもっていた。友だちがいなかったので雪合戦などすることはなく、雪だるまも作った記憶がない。
中学生になると学校へ行くようにはなったが……さすがにその歳で、しかも女子同士で雪遊びなんてすることはなかった。
「雪遊び? 雪かきしちゃったよ」
「お庭に雪が残っているのです」
「あぁ、あれは明日雪かきする予定だけど……」
「じゃあ雪遊びは?」
「ムリムリ、雪かきで疲れるし……」
私がそう言うと、妹はガッカリした様子でリビングを後にした……えっ、もしかしてそんなに雪遊びがしたかったのか?
※※※※※※※
どうやら……そうだったらしい。
翌日の朝……私は事前に茅乃から頼まれた(命令された)通り、庭の雪かきをするため外に出た。庭の雪かきなんて必要ないと思っていたが、洗濯物を干すため早く雪をどかして欲しいというのだ。
だったら自分でやれよ! と言いたいところだが……案の定、昨日の雪かきで張り切り過ぎた茅乃は腰を痛めてしまい今日は朝から寝込んでいる……バカだなアイツは! 私は一人で雪かきをする羽目になった。
私が外に出ると人の姿が……妹だ!
妹は手袋もせず一人で雪を集めていた……そんなに遊びたいのか!? 仕方ないなぁ……私は雪かきをする前に妹と遊ぶことにした。
「貴音ちゃん! 一緒に遊ぼうか?」
「はいなのです♪」
一人寂しく遊んでいた妹の顔がぱぁっと明るくなった。
「何して遊ぶ?」
「まずは雪だるまさんを作るのです!」
雪だるま? そっか、雪玉を転がしていたのは雪だるまを作っていたのか? 私も妹の真似をして雪だるま作りにチャレンジした。でも……あれ? 上手くまとまらないな……私が雪玉づくりに苦戦していると
「おねえちゃん! 最初はこうやって芯を作るのです」
妹は素手で雪玉を作ってみせた……うわっ冷たいじゃん! 私も我慢して小さな雪玉を作りコロコロと転がした。
すると地面の雪が面白いようにくっつき、見る見るうちに大きな雪玉に……そして雪玉が通過した跡には芝生が顔を出した。
おぉ面白れぇ! しかも雪がなくなって雪かきの手間が省けるじゃん!
「おねえちゃん、どっちが大きい雪だるまさんを作れるか競走なのです」
「よっしゃ! 負けねーぞ!」
妹の方が雪玉づくりは速かったが、重くなってくると非力な妹では転がすことができない。なので力で勝る私の方が大きな雪だるまを作ることができた。
大きな雪だるまと小さな雪だるま……二つの雪だるまを完成させると
〝バフッ〟
「うわっ!」
突然、私の顔めがけて妹が雪玉をぶつけてきた。
「やったなー!」
そのまま雪合戦に変わっていった。
「待てー!」
「イヤなのですー」
私は雪玉を投げながら妹を追いかけ、妹は雪玉を投げながら逃げる……お互い雪だらけになりながら童心に帰って遊んだ。やがて妹に抱きつくと
「捕まえた!」
そのまま雪の上に倒れ込んだ。
「ふふふ……」
「あはは……」
なぜか私たちは笑い出した。雪という非日常で遊んだことが新鮮な楽しさだったのだろう。
あーでも、ここが雪じゃなくベッドの上だったら速攻で妹の服を脱がせてバトルの続きをしたかったのだが……さすがに寒い! 私と妹はすぐに起き上がった。
※※※※※※※
昨日の雪とは打って変わって今日は晴天。心地よい日差しの中、私と妹は縁側で暖を取っていた。
目線の先には雪だるまが……大小二つ並んだ雪だるまは、まるで私たち姉妹のようだった。
「何かあの雪だるま……私たちみたいだね」
「えっ……だったらまだ完成していないのです!」
ん? どういうこと……すると妹は突然立ち上がり、雪玉を二つ作ると大きな雪だるまにくっつけた。
「これがおねえちゃんなら大きなおっぱいが必要なのです♥」
「……すぐに壊しなさい」
貴音なのです。おねえちゃん! バトルの続きとは何なのですか!?




