貴音はおねえちゃんを避けないのです♥(貴音side)
「貴音ちゃん……いる?」
――おねえちゃんがやって来たのですぅううううううううっ!
おまじない用の一口チョコを食べられた恨みから、貴音はおねえちゃんを無視し続けていたのです。ところが新しいチョコが手に入り、今度は名前がそろったのでおねえちゃんを恨む必要がなくなってしまったのです。
でも、すでにおねえちゃんを無視し続けている貴音が急に態度を一八〇度変えたら不自然なのです……引くに引けなくなってしまったのです! そんなとき、貴音の部屋の前におねえちゃんがやって来たのです!
※※※※※※※
――まっ、マズいのです! 今おねえちゃんが部屋に入るとマズいのです!
おねえちゃんがチョコを食べてしまったから貴音は怒っているのに……チョコがそろってしまったら怒る意味がないのです!
しかもこんな状態で「好きな人」としておねえちゃんの名前がお皿に並べてあったらヘン過ぎるのです! 何とかしてバレないようにするのです!
「ぱくっ」
貴音はお皿の上にあったチョコをいくつかまとめて口の中に入れたのです。そして食べきれなかったチョコはシャッフルして読めないようにしたのです。
「何で貴音ちゃんがそうやってお姉ちゃんを避けてるのかわかんないけどさぁ」
わかんない? なっ、何ということなのですか!? おねえちゃんは貴音が怒っている理由をまだわかってないのです!
「貴音ちゃんがそういう態度だとお姉ちゃん、どうすることもできないよ!」
「……」
ふげっ! チョコを口いっぱいほおばったらし、しゃべれないのです! 貴音もどうすることもできないのです!
「だから……せめてここを開けてちょうだい! 直接会って話し合おうよ」
今開けられたらチョコを食べていることがバレバレなのです! 口いっぱいにほおばったチョコが半分くらいになり、やっとしゃべれるようになった貴音は必死に抵抗したのです。
「……イヤなのです! こんな姿、おねえちゃんに見られたくないのです」
「わっ、わかったよ……じゃあ、ドア越しでいいからさ! ちゃんとお話しよ」
――チョコ食べてる姿を見られたら逆に怒られるのですぅううううっ!
「貴音ちゃん! お姉ちゃんのことをどう思っても構わないけどさ、やっぱ思ってることはちゃんと言葉にしないと伝わらないと思うんだよね」
そうなのです! 貴音のチョコを勝手に食べたことすら覚えていない鈍感おねえちゃんには、ちゃんと言葉にしないと伝わらないのです!
「もし、貴音ちゃんが言葉にすること出来ないんだったらさ! お姉ちゃんが先に言うよ!」
えっ、先に言うって……何を言うつもりなのですか!?
「お姉ちゃんも……思っていることを伝えるからさ! そしたら貴音ちゃんも返事してほしい」
えっ、ちょと待ってほしいのです! おねえちゃん、勝手に話を進めないでほしいのです! ていうか貴音が怒っている理由もわからないおねえちゃんが、何を伝えるというのですか!?
「……たっ、貴音は!」
もっもしかしておねえちゃんも貴音のことがキライとでも言うのですか!? おねえちゃんとマジゲンカしたら貴音に勝ち目はないのです。でも……
「お姉ちゃんは……貴音ちゃんのことが……」
ここまで来たら……貴音もハッキリ言ってしまうのです!
「おねえちゃんなんか大っキライなのです!!」
貴音がそう言うと、ドア越しにおねえちゃんの「えっ!?」という声がかすかに聞こえたのです。そしてその後、おねえちゃんは何も言わず黙りこくってしまったのです。
「貴音はおねえちゃんが大キライなのです! だからおねえちゃんの顔なんて見たくないのです! 口もききたくないのです」
さらに貴音はおねえちゃんにハッキリと言ったのです。でもおねえちゃんは何も言い返してこなかったのです。
あれ? おねえちゃんはいなくなったのですか? おねえちゃんの反応がなかったので貴音がドアを開けると
「がちゃ」
「うわぁ!」
おねえちゃんはドアに寄り掛かっていたらしく、いきなり床に倒れ込んできたのです! うわっマズいのです! まだチョコが口の中に残っているのです! もしかすると歯に付いてるかもしれないので貴音は慌てて口をヘの字に曲げたのです。
「貴音ちゃん、理由がわからないんですけど……ちゃんと説明してくれる?」
何が何だかわからない……というような顔をしたおねえちゃんが聞いてきたのです。ならば説明してやるのです! 鈍感おねえちゃん!!
「おねえちゃん……テーブルにあったチョコレートを食べたのです!」
「あぁ、お茶菓子だと思って食べたけど……」
「あれは貴音が自分の名前『T』『A』『K』『A』『N』『E』を作ろうとそろえていたのです! あと一文字で完成するところだったのです! でもおねえちゃんが食べてしまったせいで……そろわなくなってしまったのですぅううううっ!」
とりあえず「おねえちゃんの名前もそろえていた」とは言わなかったのです。するとおねえちゃんは口をあんぐりとさせていたのです。
「でも大丈夫なのです! 今日ママさんが新しくチョコを買ってきたのです! そしてやっとこさ『TAKANE』が完成したのです」
口をあんぐりさせていたおねえちゃんは貴音の話を聞くと起き上がり、とっても冷めた顔をしながらチョコの袋を手に取ると
「おぃ! 揃ったんなら残りは母さんに返しなさい」
「はいなのです」
肩を落として貴音の部屋から出ていこうとしたのです。
「おねえちゃん、お風呂に入ったのですか? 貴音も一緒に入るのです」
おねえちゃんがなぜかさびしそうにしていたので、今夜は貴音の方からお風呂に誘ったのです。
「……はぁ、わかったよ! 一緒に入ろ」
「はいなのです♥」
おねえちゃんは一度ため息をついてから返事をしたのです。
※※※※※※※
「おねえちゃん、今日は貴音がおねえちゃんのおっぱいを流すのです♥」
「フツーは背中を流すんだよ! 何だよおっぱい流すって……」
「たっ、貴音もおっぱいルーレットをしたいのです! し、正面から……」
「やめんか!」
貴音はおねえちゃんとお風呂に入ったのです。やっぱりおねえちゃんとは避けるのではなく、正面から堂々と向かい合うのが一番なのです……できれば正面で向き合った状態でおっぱいルーレットをしたいのです♥
結局おまじないは成功したところで意味がなかったのです。だって貴音はおねえちゃんが好きなのです! これからもおねえちゃんとは一緒にいられる……何となく貴音はそう思ったのです。
「わんっ」
今日はクララも洗ってやっているのです。貴音はKURARAの名前のチョコも一緒に食べたのです。こうやってみんなと一緒にいられる「今」が一番幸せなのです。
「貴音はおねえちゃんもクララも大好きなのです♥」
「あ、あぁ……お姉ちゃんも……好きだぞ」
でもおねえちゃんはなぜか浮かない顔をしていたのです。そしてあのとき、貴音の部屋の前でおねえちゃんは何を言おうとしていたのか……貴音には何が何だかわからないのです。
貴音なのです。結局おっぱいルーレットはやらせてもらえなかったのですぅ!




