私は妹から避けられている!(いづみside)
今夜、私は……妹に告白する!
妹の貴音ちゃんが私の誘いを断るようになった……態度もよそよそしい。妹の急変っぷりを平井和に相談すると、それは『好き避け』つまり好意の裏返しだとアドバイスされた。
妹が私に好意を持っている……というのは願ったり叶ったりラジバンダリ(古いなぁ)なのだが、避けられてしまったらどうすることもできない。私は妹と真正面から向き合い、そして姉として……年上の女性として妹に告白すると決めた!
だが……事態はさらに悪化していった。
「ただいまなのです」
妹が学校から帰ってきた。
「お帰り! あっ貴音ちゃんちょっと待って」
私は妹より早く帰っていた。リビングにいた私は妹を呼び止めたのだが
「だだだだだっ!」
私の目の前をだだだと言いながら駆け抜けていった……完全無視かよ。
「くぅ~ん……」
リビングでは同じく無視された愛犬・クララが寂しそうにしていた。実は私がリビングにいた理由、それはリビングにいれば大好きなクララに会うため妹がやって来ると踏んだからだ!
まさかクララまで無視するとは……ごめんなクララ、私がリビングにいたせいでとばっちりを食らっちまったな。ところが……
「あれ? クララは?」
「クララなら貴音ちゃんが連れて行ったよ」
私がトイレに行って戻ってくるとクララが忽然と姿を消していた。母の茅乃に聞くと、私がトイレに入ったと同時に妹がクララを連れ去ったようだ。
どこで私がトイレに行くタイミングを狙っていた? つーかそこまでして私を避けるのか!?
その日の夕食……妹はクララを連れて一階に下りてきた。しかし、
「……ごちそうさまなのです」
妹は食事中一言もしゃべらず、私とは目も合わせなかった。そして食べ終わった瞬間、そそくさと自分の部屋に戻っていったのだ。
「あら……貴音ちゃん、どうしたんだろうね?」
茅乃も妹の異変に気がついたようだ。だが私に対して「好き避け」している……そんなこと茅乃には口が裂けても言えるワケがない。
「さ、さぁ……」
私はこう言うのが精一杯だった。
私は母の食器洗いを手伝うと、リビングでテレビを見ていた。告白する……と意気込んではみたものの、いざその状況になるとやはり怖気づいてしまう。
そりゃそうだ、いくら妹にその気があったとしても……たとえ血が繋がっていない間柄としても……ひとつ屋根の下で暮らす年の離れた同性の「妹」に告白するのはリスクが高すぎる!
万が一告白が失敗に終わった場合、私は明日からどんな顔して過ごせばいいんだよ!? 下手すりゃ私がこの家を出ていくぐらいの大惨事になるぞ!
だが、こうして時が過ぎるのを待っていては何も進まない。私は意を決して妹の部屋に向かおうとすると茅乃が
「なぁいづみ! ここにあったお茶菓子用のチョコレート知らんか?」
「あっ、そういやテーブルに置いてあったけど……もしかして食ったらマズいヤツだった?」
「いや、別に食っても構わんけど……袋ごと無くなってんだよなぁ」
「えっ私、三個くらいしか食ってねーよ! しかもだいぶ前の話だし……」
何なんだ? よくわからん。
※※※※※※※
〝コンコンッ〟
私は妹の部屋のドアをノックした。正直いつもより緊張する。
「貴音ちゃん……いる?」
「……」
やはり……返事がない。だがここまでは想定内。
「何で貴音ちゃんがそうやってお姉ちゃんを避けてるのかわかんないけどさぁ」
本当はわかってるぞ! お姉ちゃんのことが好きなんだろ!? 私も大好きだぞ妹よぉおおおおおおおおっ♥
「貴音ちゃんがそういう態度だとお姉ちゃん、どうすることもできないよ!」
「……」
「だから……せめてここを開けてちょうだい! 直接会って話し合おうよ」
するとドアの向こうから
「……イヤなのです! こんな姿、おねえちゃんに見られたくないのです」
えっ、好き避けしている姿を見られたくない!? うわぁー思春期! カッ……カワイイッ♥
「わっ、わかったよ……じゃあ、ドア越しでいいからさ! ちゃんとお話しよ」
私はドアに寄り掛かると妹に話し掛けた。
「貴音ちゃん! お姉ちゃんのことをどう思っても構わないけどさ、やっぱ思ってることはちゃんと言葉にしないと伝わらないと思うんだよね」
「……」
「もし、貴音ちゃんが言葉にすること出来ないんだったらさ! お姉ちゃんが先に言うよ!」
「……!?」
「お姉ちゃんも……思っていることを伝えるからさ! そしたら貴音ちゃんも返事してほしい」
「……たっ、貴音は!」
おっと、妹も好きだって言おうとしているのか!? まぁでも、ここは姉として先に伝えよう!
「お姉ちゃんは……貴音ちゃんのことが……」
「おねえちゃんなんか大っキライなのです!!」
…………えっ!?
「貴音はおねえちゃんが大キライなのです! だからおねえちゃんの顔なんて見たくないのです! 口もききたくないのです」
――本気の「嫌い避け」じゃねえかぁああああっ!
何が「好き避け」だ!? ふざけんな和! 危うく私のこと嫌っている相手にガチ告白などというKY(これも古いなぁ)な行為をしてしまうとこだった!
――でも、何で!? 嫌われる心当たりないんですけど。
「がちゃ」
「うわぁ!」
すると突然ドアが開き、寄り掛かっていた私はバランスを崩して妹の部屋に倒れ込んでしまった。妹の顔を見上げると……妹は完全に怒った顔をしていた。
しかも……あれ? 妹の口元にはチョコらしき物が付いていて、さらに口をモグモグさせている。
――えっ、どういうことだ?
「貴音ちゃん、理由がわからないんですけど……ちゃんと説明してくれる?」
妹は怒っている理由を説明したが……それはとんでもない理由だった。
「おねえちゃん……テーブルにあったチョコレートを食べたのです!」
――はぁ!?
そういえばだいぶ前に……私が学校から帰ってくると食卓のテーブルにお皿が置いてあった。その上にはアルファベットの書かれた一口チョコが数個、包み紙が無い状態で置かれていたのだが……
「あぁ、お茶菓子だと思って食べたけど……」
その言葉を聞いた妹は声を荒らげて
「あれは貴音が自分の名前『T』『A』『K』『A』『N』『E』を作ろうとそろえていたのです! あと一文字で完成するところだったのです! でもおねえちゃんが食べてしまったせいで……そろわなくなってしまったのですぅううううっ!」
――そんなしょーもねぇ理由だったのかぁああああっ!?
「でも大丈夫なのです! 今日ママさんが新しくチョコを買ってきたのです! そしてやっとこさ『TAKANE』が完成したのです」
やっぱ妹に「好き避け」などという高度な恋愛感情なんてなかったか……口元にチョコを付けた妹は平常運転だった。
「おぃ! 揃ったんなら残りは母さんに返しなさい」
「はいなのです」
私は妹から袋を取り上げると部屋を出た……あれ?
TAKANEだったら六文字……六個でいいよな? なぜか妹の机の上には十個くらい置いてあったのだが……他は何だったんだ?
貴音なのです。食べ物の恨みは恐ろしいのです!




