【番外編】和さんは……アレがキライだ(芭蕉side)
「もう! 和さんって怖いものナシですよねー!?」
アタシは自分にとって大事なことを教えてくれた爆乳女・平井和さんと意気投合した。とはいっても自称バイ(セクシャル)の和さんを完全に信用しているワケではないので、タクシーを使わず歩いて帰っている。
初めはブリッ子キャラで爆乳女……ぶっちゃけいい印象はなかったが、実は信念を持って堂々としている人だと知ってアタシは素直にすげーと感じた。これはもう最強チートキャラじゃねーか……アタシは思わずこう聞いてしまった。
すると和さんから、何やら怖いモノがある……的なニュアンスの返答が! 何だろー!? ちょっと興味がわいてきた。
あっそういえば……アタシはあることに気がつき和さんに話しかけた。
「この近くに尾白の家があるけど……ちょっと寄っていきませんかー?」
実は今日……後輩・尾白貴音のバカが図書室に忘れ物をしていった! まぁ明日学校で渡せば済む話なんだが、帰り道に家の近くを通るので渡してやろーと考えていたのだ。
ついでに尾白のお父ーさんで、アタシが大ファンである絵本作家・おじろえんめい先生に会えたら超ラッキーだし……それにお姉ーさんのいづみさんも風邪を引いてるとかで心配だし……。
だが、アタシがそう言うと和さんの口から意外な答えが返ってきた。
「えっ、あぁ~……私はパスするわ~」
えっ何でー!? 元カノだから会いにくいとか? いやでもスキーのときはとても仲良くしてたし、現に今日だって一緒に食事するつもりだったじゃーん!
もしかして……いづみさんが風邪を引いたから気を遣って? それとも……まさかうつされたくないから近づかねーとか!? アタシは和さんの真意が全くわかんなかった……このときは。
「えっ、いづみさんの様子が気にならないんですかー!?」
「う、ううん……そういうワケじゃ~……」
「大丈夫ですよー! どーせ尾白に忘れ物届けるだけですから、玄関先で渡したらすぐに帰りますよー」
アタシは半ば強引に、和さんを連れて尾白家に向かった。
※※※※※※※
「こんばんはー! 貴音ちゃんいますかー!?」
玄関ドアのカギが開いたので中に入るとそこには尾白がいた。
「バナナセンパイ、どうしたのです? こんな草木も眠る丑三つ時に……」
「そこまで遅い時間じゃねーよ! ってか何て格好してんだオメーは」
尾白はマスク姿で割烹着を着ていた……相変わらずワケわかんねーヤツだ!
「おねえちゃんが風邪を引いたので看病しているのです」
「だからって割烹着はおかしーだろ!? あっ、お姉ーさんの様子はどうだ!?」
「熱は下がっているのです……でも、食欲がないみたいなのです」
「えっ、それダメじゃん!」
「貴音が作ったゴハンを残してしまったのです」
尾白が作った? 料理の腕前はわかんねーけど、コイツの性格から察してロクな食いモンじゃねーってことぐらい容易に想像がつくぜ!
「あっ、せっかくなのでバナナセンパイにも食べてほしいのです」
「イヤいらねー」
そんなモン絶対「フラグ」に違ぇねー! しかも今は高級フレンチ食ったばっかでお腹いっぱいだし……
「ちなみに……何作ってやったんだ?」
「昨夜のキムチ鍋にゴハンを加えて、体が温まるようにタバスコを一瓶入れてお粥を作ったのです」
――フラグ回避ー♪
お姉ーさん……風邪引いたばっかりに世界三大珍味を食いそびれた上、妹の作った「珍味」を食うハメになるとは……気の毒で仕方ねーわ!
「で、バナナセンパイ……今宵はどういったご用件なのです?」
「おーそうそう、図書室にコレ忘れただろ!? ほれっ持って来てやったぞー」
「ありがとうなのです……あれ? 何で和おねえちゃんが?」
尾白が忘れ物を受け取ろうと身を乗り出したところで和さんの存在に気がついた。だが和さんは玄関ドアの向こう側に隠れたまま入ってこようとはしない。
「珍しい組み合わせ……コンビなのです! 略して珍……」
「オメーそれ以上言うなよー」
「和おねえちゃん、そんな所に隠れてないでこっちに来るのです」
「そうですよー! どーしたんですか一体?」
「たっ貴音ちゃ~ん! わかっているクセにそういうこと言わないで~」
えっ、どーいうことだ? すると和さんは謎めいたことを言い出した。
「き、今日はアレいるの~!? とっ閉じ込めてあるの~!?」
よく見ると和さんは全身をブルブルと震わせている。と、そこへ……
「ワンワンワンッ♥」
家の奥から尾白の愛犬・クララが駆け寄ってきた! クララは廊下を猛ダッシュするとアタシの元へ一目散に飛び込んで来たのだ。
「おークララー! 久しぶりだなー元気かー!?」
「ハッハッハッ……」
「よーしよし、いい子だー! カーワイイなーおいー♥」
アタシは飛びついてきクララを思いっきり「わしゃわしゃ」と撫でてやった。クララは茶色のトイプードルでとても人懐っこい。アタシが初めてこの家にお邪魔したとき会ったのだが……ワンコ好きのアタシがこの家に来るときは、このクララに会うのも楽しみにしている。
「ワンッ」
と、クララが玄関ドアの後ろに隠れていた和さんの存在に気がついた。
「ほらっ和さん! クララかわいいですよねー!?」
アタシはクララを抱えて和さんに見せた。すると……
「いっ……いやぁああああああああっ! いっ犬ぅううううううううっ!」
――えっ?
和さんは思いもよらない反応を見せたのだ。
「えっ、和さん……どうしたんですかー?」
「いやぁああああああああっ! ちっ近付けないでぇええええええええ!」
しかもハンパじゃねー拒絶の仕方……
――まっ、まさか!?
さっき言ってた和さんの「怖いモノ」って……犬?
――えっこの人……犬がキライなのかー!?
しかもクララは小っちゃくて人懐っこくて……間違っても咬みつくよーなワンコじゃない。もうこれは確定なのだが一応、和さんに聞いてみた。
「あのっ、もしかして……犬がおキライですかー?」
「そうよぉ!! 大っ嫌いよぉおおおおっ! だっ……だから近付けないでぇええええええええ!」
和さんは近所迷惑レベルの絶叫で怖がって……いや、パニクっていた。こっ、こりゃマジでやべーレベルじゃん! アタシはクララを抱きかかえたまま和さんから遠ざけようとした。ところが……
「もうっ、和おねえちゃん! いい加減クララと仲よくするのです」
尾白はアタシからクララを奪うと、こともあろうかイヤがる和さんの顔に押し付けたのだ!
――コッ、コイツはドSかぁああああっ!?
クララを顔に押し付けられた和さんは……
「う~~ん……」
と言ってその場に倒れ込んだ。
「えっ、えぇっ大丈夫!? 気絶したんじゃねーのか!?」
「それは大丈夫なのです! 前に和おねえちゃんが来たときは、気絶したと同時にお漏……」
尾白が何か言いかけたところで和さんは、
「貴音……ちゃん……それ絶……対に……言っちゃ……ダ……メ……」
と言って気を失った。
……完璧な人間っていねーんだな!? 色々勉強になった一日だぜ!
貴音なのです。
たっ貴音の料理はキャビアやフォアグラと同じ「珍味」なのですか!?




