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【番外編】アタシは……フツーじゃないことがキライだ(芭蕉side)

 



「元カノよ♥」




 ――なっ、何言ってんだこの女はぁああああっ!?


 アタシは「なごみ」という爆乳女から食事に誘われた。ファミレスかと思ったら高級フレンチの店だったので面食らってしまったが……


 そこでこの女に、後輩・尾白(おじろ)貴音(たかね)のお()ーさんである「いづみ」さんとの関係を聞いてみた。するとこの爆乳女から『元カノ』という想像だにしなかったワードが飛び出したのだ。


 えっ、ちょっと待て……整理してみよー!


 いづみさんは男っぽい見た目だが紛れもない女の人だ……胸だってアタシより全然大きい。よしんば男だったとしても「元カレ」というのが正しい日本語だ!


 そして目の前にいる爆乳女はどう見ても女だ! この爆乳、そしてこのねっとりとして男ウケしそうな……と同時に女から嫌われそうなしゃべり方、アタシの周りにはなかなかいない「女女(おんなおんな)してる女」だ!


 この女女の口から「元カノ」って……まっ、まさか!?


 中学生のアタシでも聞いたことがある! 一度、ジェンダー教育って授業があったときだ。世の中には「女と男」という関係以外に「男が好きな男」、そして「女が好きな女」がいるらしい。

 LGB……えーっと何だっけな? とにかくそんなのは授業だけの話で他人事だと思っていたが……


 まさかアタシの近くでそんなヤツがいたとは!? しかも後輩のお姉さんが……アタシはパンドラの箱を開けてしまったような気分になった。


 ――はっ!? まっ、まさか!?


 この爆乳女がアタシを食事に誘ったホントの理由って……いやいやいや、冗談だよなー!? アタシは「A(アンタ)T(ちかよるな)フィールド」を全開にした。

 それにしても……名前といい身長といい巨乳といい、そして近づいてくるヤツといい何でアタシは「フツー」じゃないんだろー!? あーホントにもーこんな自分が大キライだー!


「……バナナちゃ~ん、どうしたの~!?」

「はっ、はいっ! なっななななんでもありませんっ!!」


 コッ、コイツ……きっとアタシのこと狙っているんだ! 高級フレンチおごったことでアタシが逆らえないようにして……

 やべぇよーもう前菜食っちまったじゃねーか! 漬物みたいなよくわからんヤツだったが、上にのった数の子みたいなのって……キャビアだよなー!? もう後戻りできねーじゃん!

 いやでも! 今からでもお腹が痛くなったーとか何か言って逃げ出すことはできるだろ……お金使わせてちょっと後ろめたい気もするが。


「あっ、あの……なごみさん! アタシ……」


 と、そこへ……


「お待たせしました。牛ヒレ肉のロッシーニ風です」


「……」

「どうしたの? バナナちゃ~ん」

「い、いえ……なんでもないです」


 ――誘惑に負けたぁああああっ! アタシのバカー!


 つーかこれって某ゴチ番組で見たことあるヤツじゃねーのか!? この白っぽいのって……フォアグラだよな?


 ……ぱくっ!


 んんんんっうんめぇー! 何だこのクリーミーで濃厚な味は!? レバーだって聞いてたけど全然臭みがねーし! しかも……このスライスしてあるヤツって……トリュフじゃねーのか!?

 うわあっ! 今まで経験したことのないような香りが口の中いっぱいに広がってきたー! も、もう笑うしかねーじゃん! トットットリュフの大爆笑だー♪



 ※※※※※※※



 ――あーあ、やっちまったー!


 知らない人についてっちゃダメだって幼稚園からずっと言われてんじゃん。この人は一回会っただけ……ほぼ知らない人じゃねーか!

 あぁ、この後高級フレンチをエサにホテルへ連れていかれ……アタシは非行少女になってしまうんだなー。お()ーさんお()ーさん、友だちとファミレスなんてウソついてごめんなさい! 


 でも待てよ、「元カノ」って……もしかしたらアタシの聞き間違いの可能性もありうるよなー!?


「あっあの……つかぬことをお聞きしますが」

「な~に? 遠慮せずに聞いていいわよ~」


 だったら……勇気をもってハッキリ聞こう!


「さっき尾白のお()ーさんのこと『元カノ』とか……言ってました?」

「言ったわよ~」


 ――ハッキリ認めやがったぁああああっ!


「なっ、なごみさんはそっその……女の人が……すっ好きなんですか!?」


 ――ハッキリ聞いちまったぁああああっ!


「う~ん、どっちかといえば男の人が好きかな~」


 ――えっそれってフツーじゃん! じゃあ何で元カノだなんて……冗談か?


「あっでも女の人も好きよ~! いわゆるバイセクシャルってヤツね~♥」


 ――はい確定ー!


 コイツとんでもねぇヘンタイだったー! 男も女も好きだとー!? 全くもって意味不明だー!

 ただ! いくらコイツがレズ……じゃなかったバイセなんちゃらだったとしても誰彼構わず好きってことはないだろ!? 男と女だって好きなヤツとそうじゃないヤツがいるんだし……アタシは最後の望みをかけてこのヘンタイ女に聞いてみた。


「あ、あの……なごみさん」

「なーに?」

「ちなみになんですけど、そっその……アタシのこと、どう思ってます?」


 これって……ほぼ初対面の人間に聞くような質問じゃねーよな!? 言ってから気がついたぜ! でもこのヘンタイ女は即答で


「どうって~!? カワイイわよ~そりゃ~も~()()()()()()()くらい~♥」



 ――はい詰んだー!



 やっぱアタシはこの後ホテルで「ていそー」を奪われるんだー! まだ彼氏もできねーっていうのに! でも女同士でどうやって「ていそー」奪うんだ!? よくわかんねーけど。


「えっ、アタシ全然かわいくないですよ!」

「そぉ~!? バナナちゃんって小っちゃくてカワイイじゃな~い! おっぱいも大きいし~♥」


 ――ひいっ、女好きの女もおっぱい好きなのか!? つーか自分の揉んでろこの爆乳女!


「そんなことないです! アタシ、バナナってゆー名前もこの低い背もむっ……胸もキライなんですよ! ヘンなこと言わないでください!!」


 やべー、思わず大声あげちまったー!


「お客様、お静かに願います」

「す……すみません」


 店員さんに注意されてしまったー! うわー恥ずかしー!



 ※※※※※※※



 アタシはこのヘンタイ爆乳女から好かれないよう必死に抵抗した。するとこの女は急に真顔になりアタシにこう聞いてきた。


「バナナちゃ~ん……自分が嫌いなの~? 何で~?」

「そっ、それは……」


 さっきはうっかりしていた。他のお客さんもこっちを見ていたし……目立ってしまったな。アタシは冷静になって話を続けた。


「フツーじゃないからです! 名前だってキラキラネームで恥ずかしいし、こんな小学生並みの身長もキライです! それに胸だって……なごみさんくらい身長があればフツー()()しれませんけど、この身長でしかも中二女子が……どう考えてもフツーじゃないです」


 人と比べて変わったヤツは目立つんだ! 目立つと後ろ指さされたり誹謗中傷されたり……イジメられる。



 ――アタシは……フツーじゃないことがキライだ!!



 するとこのヘンタイ爆乳女はさっきまでのふざけた口調ではなく、静かな口調でアタシに向かってこう聞いてきた。



「バナナちゃん、普通って……何?」



貴音なのです。えっ、貴音もバナナセンパイのおっぱい好きなのですが……

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