【番外編】アタシは……自分がキライだ(芭蕉side)
アタシの名前は戸沢 芭蕉……芭蕉と書いて「ばなな」と読む。
アタシは……この名前がキライだ。
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アタシの両親は文学が趣味……お父ーさんは俳句好きで、お母ーさんは吉本ばななの大ファンだ。
俳句といえば有名なのが松尾芭蕉、そして芭蕉はバナナの仲間……そこで生まれてきたアタシに「芭蕉」という名前を付けて「ばなな」と読ませたのだ。
今でいうところのキラキラネームというヤツだろう。ウチの親は文学にのめり込みすぎているせいだろうか、ときどき発想が一般常識の枠から外れることがある。
だからといって親を恨んでいるワケではない。この年までちゃんと育ててくれたんだから感謝しなければいけないのだが……
……フツーの名前がよかったよぉー!
アタシは……この身長がキライだ。
アタシの両親は背が低い。お父ーさんは一五〇センチ台、お母ーさんが一四〇センチ台前半……
で、相乗効果なのか生まれてきたアタシはそれ以下の身長一三七センチ……マイナスの相乗効果じゃねーか!
だからといって親を恨んでいるワケではない。ちゃんと栄養を摂っていれば両親の身長を超えることだって可能なハズなのだが……
……どうしてこうなったー!?
アタシは……この巨乳がキライだ。
アタシのお母ーさんは巨乳ではない。ただ、小さい頃から背が低かったアタシを不憫に思ったのか食べることに関して何ひとつ不自由することはなかった。おかげで成長期にはグングンと伸びてきたのだ……バストだけが。
もちろん親を恨む理由などない。ちゃんと栄養を摂っていたし、本来なら身長の方に栄養が巡っていくハズなのだが……
……絶対おかしいだろー!?
こんなの神様のイタズラ……いや、悪意としか思えん! アタシは前世で何か悪いことでもしたというのか!? こうして私はキラキラネーム、低身長そしてその身長に不釣合いな巨乳という三重苦を与えられたのだ!
だからといってアタシは利発そうな名前も、抜群のプロポーションも欲しているワケではない。ただ……
――フツーの女子中学生になりてーだけだー!!
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「じゃあねーバナナ! また明日!」
「おーまたな! つーかバナナ言うなー!」
「バナナちゃーん、ぱいぱーい」
「それ言うならバイバーイだろ!? でもって胸揉むなー!」
学校の帰り道……アタシは友だちと別れてひとり大通りを歩いていた。
アタシは中学二年生……こんな個性が強いキャラだとクラスで孤立したりイジメられる可能性もあったが、幸いにも友だちには恵まれている……いじられキャラというポジションだが。
最近は図書委員会で尾白という一年ボーズとも仲良くなった。ただ……せっかく後輩に対してマウントを取れると思ってたのに、この尾白やコイツについてきた友だちはみんな生意気で先輩のアタシに対する尊敬の念がない! まったく、どいつもこいつも……。
そんなことを考えながらイライラしてると……あっそうだ!
今日が新刊の発売日だということを思い出したアタシは、通り沿いにある本屋に立ち寄った。お気に入りのラノベを買うためだ。
アタシはいわゆる純文学も娯楽小説も分け隔てなく読む。純文学は学校の図書室でヒマなときに読めるのだが娯楽小説……ことライトノベルに関しては蔵書が少ないうえ、古い作品ばかりだ。
アタシがいつも買っているのは『異世界学園のコミュ障で巨乳のサキュバスちゃんは学園の最高峰を目指します』(略称・巨峰)、いわゆる成り上がり系だ。ふざけたタイトルだが内容は意外とマジメ、もちろん十八禁じゃない。
だが表紙がアレなので学校の図書室には置いていない。この主人公はコミュ障だが同時に「低身長で巨乳」……何か親近感を覚えたので読み続けているのだ。
今日は巨峰の発売日、ラノベのコーナーに向かおうとすると……げっ!?
本屋の中で見覚えのある人物が立ち読みをしていた。あの遠目からでも感じられる色気ムンムンのオーラ! そしてムダに大きいクセに全く隠そうともしない恥知らずな「爆乳」! アイツは……確か「なごみ」とかいう爆乳女だ!
アタシは……あの爆乳女が大キライだ!
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あの女は学校の図書委員の後輩の尾白のお姉さんの友人……らしい。以前アタシがスキー教室で恥をかきたくないからと、尾白のお姉さんたちとスキーに行ったとき一緒にいた女子大生だ。
アタシはこの女子大生にスキーを教えてもらった。教え方は上手だし、おかげでスキーが滑れるようになったので本来は感謝すべき相手なのだが……
あの女、ストックの使い方がわからないと言ったらウソを教えやがった! 何も知らないアタシはそのやり方をスキー教室で実践し、大恥をかいてしまったのだ!
なのでアタシはあの女がキライ……いや、恨んでいる!
本当なら今すぐアイツに飛びかかって殴りかかりたい気分だが……静かな書店という公共の場所で大騒ぎを起こすのはよくないよな、うん。
ここはひとつ、怒りを抑えて冷静に対処しよう……アタシは二年生だし先輩だし大人にならなきゃいけねー! あの爆乳女は見なかったことにして、そーっと目的のコーナーに向かうとしよう。
それにしてもアイツ……ビジネス書籍のコーナーにいたよな? てっきりファッション誌でも読んでいるのかと思っていたが……意外だ。
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ラノベのコーナーにやって来た。よかったー巨峰の新刊まだ残ってたぜ……まぁそれほどの人気作じゃねーけど。とりあえず目的の本はキープしたので他の本も物色してみるか。
それにしても……相変わらずタイトル名が長い作品が多すぎて背表紙が大渋滞を起こしているよなー! もしココにタイトルが漢字二文字の小説を並べたら逆に目立って売れそうな気がするわー!
あっ! まーだ「粟津まに」の異世界小説あんじゃーん! コイツの小説はクソつまんねーからなるはや返本したほうが店のためだぞー!
アタシが読みたいと思っていたラノベを何冊か物色していると、背後から
「あら~どっかで見た顔だと思ったら~、バナナちゃん……だよね~!?」
――ぎくぅ!
このねっとりした声は……まさか!? アタシは恐る恐る振り向くと、
「やっぱり~バナナちゃんね~、この間はお疲れさま~!」
――あの爆乳女に気づかれてしまったぁああああっ!
しっ仕方ない、ココで会ったが百年目……百年も生きてねーけど、ストックで大恥かいた件……この恨み晴らさでおくべきか!
「てっ、テメ……」
「学校の帰りなの~!? 制服カワイイ~♥」
「えっあっ、あの……」
「へ~ラノベ好きなんだ~、私もたまに読んでるわよ~」
うわっ相手のペースにのまれてるじゃねーか!? しっかりしろアタシ―!
「あっそうだ~! バナナちゃんの家って門限あるの~!?」
えっ……何で門限を聞く?
「し、七時だ……です……けど」
「よかった~! ってことはまだ時間あるよね~!? じゃあさ~今から一緒にゴハン食べに行かない~!?」
えっ……何でゴハン!?
貴音なのです。「粟津まに」とは作者の作品「女子高の問題教……(以下略)




