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私も風邪を引いた(いづみside)

 



 ――うわっ、何たる不覚!




 妹の貴音(たかね)ちゃんが風邪を引いた。看病の甲斐あって妹は元気に学校へ行けるようになったが、今度は看病から解放された安堵感からコタツでうたた寝をしてしまった私が風邪を引いてしまったのだ。

 風邪なんていつ以来だろう……小学校は外部との接触がほとんどない引きこもりだったので風邪をうつされることがなかった。中学高校は家の台所事情を知っていたので、できる限り病院に行かないよう気合いで乗り越えていた。


「バッカだなオマエはー! とりあえず部屋で寝ていろ! いいか、動き回って私たちにうつすんじゃねーぞ!」


 母の茅乃(かやの)に怒られた……ってか、妹が風邪引いたときと対応が全然違うんだが。


 まぁしょうがない……原因を作ったのは私自身だし、今日は大人しく家で安静にしていよう。あ、また写させてもらう授業のノートが増えてしまったな。さすがに何かお礼しなきゃマズいレベルだ。


 それにしても……安静って退屈だなぁ。


 夜もしっかり寝ているというのに昼間も寝られるワケがない。かと言って起き上がって何かをするという元気もない。ベッドで出来ることといえば、スマホいじるか読書か……妹をオカズにあれこれ妄想するか♥


 ――あっ、そうだ!


 ネットで十八禁百合小説でも読むとするか。確かおねロリ物の新作が更新されていたっけ? あの登場人物を私と妹に見立てて妄想していよう!

 困ったことに、風邪を引いて体調がすぐれないときでも性欲だけは健在なんだよなぁ……私って変態か!?


 うっ、このネコ役のロリっ子中学生がタチ姉の部屋に飛び込んでくるシーン……マジで萌えるわぁ! このヒロインが妹だったらなぁ……と、そのとき


「こんこん入るのですおねえちゃん無事なのですかぁああああっ!?」


 ――うわぁああああっ読点入れてしゃべれよ妹!


「一秒でも早く会いたかったのです!」


 妹が間髪容れずに帰ってきたので私は慌ててスマホ画面をオフにした。



 ※※※※※※※



「たっ貴音ちゃん! き、今日は早く帰ってきたんだねぇ……」


 うわぁ……さっきの百合小説と似たシチュエーションで部屋に入ってきた妹に背徳感を覚えてしまったわ!


「おねえちゃんが風邪を引いてしまったのです! きっと貴音がうつしてしまったのです! たっ、貴音は申し訳ない気持ちでいっぱいなのです」

「い、いや……貴音ちゃんが治ってから引いたんだから関係ないよ」


 しかもコタツでうたた寝したんだからある意味自業自得だ。


「でも……貴音が風邪引いたときおねえちゃんが看病してくれたのです! だから今度は貴音がおねえちゃんの看病をするのです!」


 ――なるほど、それでその格好か。


 部屋に飛び込んで来た妹は大きなマスクをして使い捨てのビニール手袋という完全防備……間違いなく私がバイ菌扱いされてるな。しかも……


「何で割烹着を着ているの?」

「これは……白衣がなかったのです! なのでママさんから借りたのです」


 ……どこぞの研究員じゃあるまいし。



 ※※※※※※※



「それじゃおねえちゃん! お熱を測るのです」


 妹が言うと「お医者さんごっこ」みたいだ。それはそれで何か萌える……だが、


「あっ、熱はさっき測ったばかりだから大丈夫だよ」

「ダメなのです! ちゃんと貴音が()()()測るのです」


 妹はこういうときなぜか意固地になる。私としては妹の体温を測ってやりたいところだが……もちろん身体中を「触診」で♥

 でもまぁしょうがない、大好きな妹が私のためにしてくれているんだ。ちゃんと従ってやるか。


「わかったよ……じゃあお願い」


 私は妹に体温計を手渡した。すると……


「じゃあ測るのです! おねえちゃん……パンツを脱ぐのです」



 ……は?



「ちょっと待て、何でだよ!? 脇の下だろフツーは」

「貴音はネットで調べたのです! 体温は体の芯に近い方が正確なのです……一番正確なのは直腸、つまりお尻の穴で測るのです!」


 ――いやいや、そこまで正確に測らなくても大丈夫だから!


「さぁおねえちゃん! 貴音にお尻を見せるのです……えへへ♥」

「オマエただ単に私の尻を見たいだけじゃねーのか!?」

「そんなことないのです! 貴音は正しい体温が測りたいだけなのです! 次に正確な場所はお口の中なのです……おねえちゃん! お尻の穴で測ったら次はお口で測るのです」

「おいやめろっ、不衛生すぎるわ!」


 そんなこと……まるで特殊な訓練を受けた一部の愛好家(スカト■ジスト)が好きそうな「プレイ」じゃねーかよ!? そもそもこの体温計は脇の下専用だ!



 ※※※※※※※



「おねえちゃん、お腹が空いたのですか?」


 ――え、今度は何だ?


「いや、空いてないよ」

「ちょっと待つのです! 今から貴音がお粥を作るのです」


 ――おい、冗談だろ!?


「だから空いてないってば!」


 私の意志を無視して妹はキッチンに向かって行った。いやそれってメッチャ迷惑なんだけど……なぜなら妹は、


 ――料理が壊滅的にヘタクソなのだ!


 妹はコーヒーを淹れることに関してプロ級の腕前なのだが……料理を作らせたら素人()()である。

 以前自宅で同じ大学の金沢(かなざわ)桃里(とうり)に料理を教えたとき、自分もやりたいと言ったので大根を切らせてみたら一本丸ごと縦半分に切ったくらいのレベルだ。もはや上手い下手という概念を超越している。


「おねえちゃん、できたのです」


 しばらくすると妹が土鍋を持って入ってきた……わざわざ土鍋で作ったのか?


 それにしては作るのが早……ってちょっと待て! 土鍋から韓国料理が焦げたニオイがするのだが……


「昨夜のキムチ鍋の残りにゴハンを入れて煮たのです」


 ――それはお粥ではなく〆の雑炊だぁああああっ!


 しかも煮込みすぎたらしく「おこげ」が……もはや雑炊ですらない。さらに……気のせいかキムチ鍋より赤みが強い気がするのだが。


「風邪を引いたときは汗かいた方がいいのです! 一味唐辛子とタバスコをたっぷり追加したのです♪」


 ――風邪で弱った胃腸に対する拷問だぁああああっ!


 よく見たらご丁寧に鷹の爪まで投下してある……辛さの空襲だわ。


「た、貴音ちゃん、せっかくだけど……これは食べられないよ」


 私がそう言うと、妹の目がみるみるうちにウルウルになった。


「たっ……貴音が作った料理は食べられないのですか!?」


 あーっ、ここで泣き落としかよ!? 大好きな妹にそんなことされたら例え毒物でも食わなきゃなんねーじゃねーか!


「わっ、わかったよ……食べるから泣くな」


 私は覚悟を決めてお粥……という名のキムチ雑炊(いやすでに雑炊の体を成していないが)をスプーンですくうと恐る恐る口元に近づけた。風邪で嗅覚が鈍っているがそれでも食べたらいけない物であるという認識はできる。



 〝……ぱくっ〟



 ……()っっっっっっっっらっ! 想像はしていたがやっぱ激辛だわ!


「おねえちゃん、辛いモノ食べていっぱい汗をかくのです」

「あっ、ありがとう……あははっ」


 すでにかいたわ……色んな汗を。


 だが罪悪感ゼロの妹の笑顔には勝てん……私は風邪薬に加えて胃腸薬を飲んだ。


貴音なのです。おねえちゃんは大事を取ってもう一日お休みしたのです。

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