私は罰ゲームを賭けて和と勝負した(いづみside)
「せっかくだからさぁ~、どっちが早くゴールするか勝負してみな~い!?」
妹の貴音ちゃんたち中学生組に一日中付き合わされ不完全燃焼な私と和は、最後に二人で上級者コースを滑ろうという流れになった。
そこはこのスキー場の代名詞ともいえる全長三キロに及ぶロングコース……時間もないのでゴンドラを使って一気に登り、一気に滑り降りようという考えだ。
ところが! 普通に滑り降りるだけでも十分楽しめるこのコースで、和は私に勝負を挑んできたのだ。
「えっマジか!? 勝ったら何かくれるのか?」
「う~ん、どちらかと言えば~負けた方が罰ゲーム……かな~?」
――えっ、罰ゲーム!?
「何するつもりだ? 全員に晩飯おごるなんてのはナシだぞ!」
「経済的な罰ゲームはしないわよ~! 負けた方は~」
と言うと和が私に耳打ちをしてきた。
「お……おい正気か!? 誰得だよそんな罰ゲーム!」
和は常軌を逸した罰ゲームを提案してきた。私はそんなイカれた罰ゲームなど断ろうと思ったが……
待てよ? 何も私が和に勝てばいいんじゃないか!? よし! コイツに屈辱的敗北感を味あわせてやろう!
「わかったよ、勝負してやろーじゃねぇか!」
※※※※※※※
すでに今日一日遊び疲れた中学生組をセンターハウス前に待たせて私と和はゴンドラに乗り込んだ。
彼女たちにはどっちが先にゴールしたかジャッジメントをお願いしてある。内容は伏せているが負けた方に罰ゲームがあることだけは話しておいた。
ゴンドラの中で今日初めて和と二人きりに……すると和が、
「唐突だけど~、いっちゃんってさ~貴音ちゃんのこと好きでしょ~!?」
「ぶっ!」
私は何も飲んでいないのに何かを吹き出しそうになった。
「唐突過ぎるわ! 何だよいきなり!?」
「あ~やっぱりそうだね~! まぁ前々から気がついてたけど~」
何だコイツ、勝負に勝ちたいから精神的に揺さぶりをかけてきたのか!?
「ホ~ント! 仲のいい姉妹よね~妬いちゃう!」
「……えっ!?」
「貴音ちゃん、スノボー教わりたいって~……あれって間違いなくいっちゃんのことが好きって意味よ~」
――えっ、そっ……そうかなぁ?
「いやでも、妹って子どもじゃん! 恋愛に対しても……だから好きっていってもそういう意味じゃないだろ」
「まぁね~、どっちかというとLIKEよね~! でもさぁ~」
「えっ!?」
「LIKEからLOVEに変わることってよくあることよ~!? お互い好き同士だったらさぁ~今のうちに告っちゃえばいいじゃ~ん!」
――えぇっ、告るだと!? 確かに妹のことは好きだが、そんなこと……
「えっ、いっちゃんは考えてなかったの~!?」
「だって相手は妹だぞ! しかも未成年……」
「そんなこと関係ないわよ~! 血が繋がっていないんだから問題ないし~、それと~純粋な『好き』という気持ちに~私は年齢も性別も関係ないと思うわよ~」
いや、確かに和は年齢も性別も見境ない性欲モンスターだが……
「一番やっちゃイケないのは~好きという気持ちを相手に伝えないことよ~!」
「えっ!?」
「好きっていう気持ちはさ~言葉にしなくても~意外と相手に伝わってるものなのよ~! なのに~それを無かったかのようにやり過ごすって~相手に対して失礼なんじゃな~い!?」
「そ……そうなのか?」
私は和のペースにすっかり飲み込まれていた。
「でもね~いっちゃん」
「ん?」
「相手は子どもなんだから~伝えるのは『気持ち』だけよ~! 手を出したら犯罪だからね~! 数年は我慢しなさ~い」
わかってるわ! つーか最初に妹を紹介したとき「セックスしたい~♥」と言った危険人物はどこの誰だよ!? ったく、説得力ねーな!
※※※※※※※
山頂駅に着いた。和の話に動揺してしまったが、今は罰ゲーム回避のため勝負に集中しよう! 私が座り込んでボードを装着していると和が話しかけてきた。
「いっちゃ~ん、わかっていると思うけど~他のスキーヤーやボーダーの進路を妨げないこと~! それと~危険を感じたらレースは中断すること~! いい?」
「あぁ、わかってるよ」
「じゃあレーススタートするわよ~! よ~いドン!」
「あーっ! まだバインディング締めて……こっこら卑怯だぞ!」
いち早くスキー板を装着した和が先に行ってしまった。板を装着した私は急いで和の後を追った。
何てヤツだ! そもそも私の板はフリースタイル用でスピード重視ではない。スピード勝負だとスキーに比べたら圧倒的に不利だ!
だが、誰の目にも不利に見えるこのレース……私がそうやすやすと引き受けるワケがない。もちろん勝算はあってのことだ!
それは……体力! そう、確かに和はスーキーが上手い……だがコイツには体力が伴っていないのだ!
以前バイト先のジムでエアロビクスの体験をしたとき、和は開始わずか五分も経たずにへばってしまった……壊滅的に体力がない。
ここは三キロにも及ぶロングコース……いくら和でもノンストップで滑り降りることは不可能だろう。そこで私はこのコースをノンストップで滑り降り、途中で一休みをした和を追い抜く……という作戦だ!
最初の緩やかなコースを通過するとゲレンデは二手に分かれ、先を行く和は左側のコースへ進んだ。
左はスピードが出やすいが時々「コブ」が出ることがある。私はコブが苦手なので向かって右側のコースに行こう!
しばらく和と別れて一人で滑っている。アイツのことだ、そろそろへばって休んでいるに違いない! よし、ここで一気に追い抜こう!
合流地点だ。和の姿は見えな……げっ!?
私の予想に反し、和は遥か前方にいた。コイツ! そこまでして罰ゲームをしたくないのか!? もちろん私も絶対にやりたくないのだが……。
合流地点を過ぎると最大二十九度の急斜面だ! ヤバい! ここで更に和と引き離され……ところが、
「きゃっ!」
和が転倒した……チャンスだ!
「おっ先ー!」
「あ~! 板取って来てよ~」
「やだねー♪」
私は和を追い抜いた! しかも……
スキーはこういう転倒をした場合、怪我防止のため板が外れてしまう。しかも急斜面だと体が流されてしまうので、板がとんでもなく遠い場所に置いてけぼりになる……今の和がそうだ。つまり復帰するまでかなりの時間稼ぎになる。
――勝った!
まぁアイツなら骨折するような転倒はしないだろう。私はスピードを落とし余裕のウイニングラン(?)をした。
さっき乗ったゴンドラが頭上に見えてきた。そろそろゴールか……とそこへ、
「まだまだよ~いっちゃ~ん!」
うわっ! 和が追い付いてきた……負けるかぁああああっ!
私は最後の斜面を全力で滑り降りた。
「あっおねえちゃんなのです!」
「おーい!」
妹たちの姿も見えてきた! 和はまだ私の後方だ……このまま一気に!
〝ズザザザーッ!〟
――あ゛っ!
次の瞬間、私は空を見上げていた……転倒してしまったのだ。
「和さんの勝ち―!」
「いっちゃ~ん! 約束通り~罰ゲームね~」
――いっ、嫌だぁああああああああっ!!
貴音なのです。おねえちゃんの罰ゲームは次回明らかになるのです♥




