私は妹にスキーを教えない(いづみside)
「っていうか~いっちゃん、メイクもしてないでしょ!?」
私はメイク(日焼け止め)していないことを和に責められた。
「この子たちだってしてねーじゃん」
「代謝のいい中学生と一緒にしないの~! ちょっとこっちに来なさ~い」
妹の貴音ちゃんたちと別れ、私は和から強制的に化粧をさせられた。おいまさか和……中学生たちがいるのにナンパされるつもりじゃねーだろうな!?
ノーメイクのまま和と一緒に街を歩くと、私はどうやら和の「彼氏」に見えるらしくナンパされることはない。しかし私がバッチリメイクして、とどめに胸を強調した格好をするとすぐに男どもが寄ってくる……ったく、男は単純だ。
メイクを済ませた私と和が更衣室を出て、妹たちの待つゲレンデに向かって歩くとさっそく……
「そこのキレイなオネエサンたちー、二人? オレたちと一緒に滑らない!?」
ベタすぎるナンパ野郎どもが速攻でやってきた! こういうとき和はほぼ例外なくOKサインを出す性欲モンスターなのだが……おい、今回は妹たち中学生グループの「保護者」でもあるんだぞ! ここはナンパ野郎どもをブン殴ってでも止めないと……ところが、
「あら~キレイだなんてうれし~! でも~スキー場はゲレンデマジックっていって実際よりキレイに見えるものなのよ~」
「?」
と言うと和はスマホを取り出し、ナンパ野郎どもに画面を見せた。
「これが普段の~私たちよ~」
画面を見たナンパ野郎どもは小声で「何だブスじゃねーかよぉ」と呟きながら、そそくさとその場を去って行った。
「おい、それって……」
「うん、さっき駐車場で撮ったでしょ! あれよ♪」
和からスマホを見せてもらうと、そこには「画像加工アプリ」を使ってメッチャ不細工に加工された私と和のツーショット写真が映っていた。コイツ、ナンパ撃退用に自撮り写真撮っていたのかよ!?
「それにしても意外だな、オマエがナンパ断るなんて」
「だってぇ~、今日は中学生たちの保護者でしょ!? それに……」
――それに?
「帰りは一緒に温泉入るんだよね~、ナンパはいつでもされるけど~女子中学生と混浴ハーレムなんて一生かけてもこんなチャンスないわよ~……うへへ♥」
コイツ……それが目的で妹の急なお願いをすんなり受け入れたのか!? もし和が犯罪行為に走ったらブン殴ってでも止めないと……。
まぁ私も最終目的はそれなんだが……それと和! 女同士で入浴するのを混浴とは言わん!
※※※※※※※
「お待たせ~! みんな~、ちゃんとウォーミングアップ済ませた~?」
「は~い」
ゲレンデに入った。私が待たせている間、和は中学生組に準備運動をするよう指示していたみたいだ。すると妹がやって来て、
「おねえちゃん! 今日はご指導ごベンタツのほどよろしくお願いするのです」
えっ、妹はもしかして私がスキーを教えると思っていたのか? いやいや、今の私の格好はがっつりスノボー仕様になっているのだが。
「いや、お姉ちゃんは教えないけど……」
「……ほぇっ!?」
「貴音ちゃ~ん、スキー教えるのは私よ~」
実は和……こんなバケモノ乳ぶら下げて一見動きにくそうな体型をしているが、バッジテストの一級に合格しているほどスキーが上手い。
「つーか、私の板を見て気がつかないのか?」
「おねえちゃんが持っているのは幅の広いスキー板なのです! しかも一枚……」
「世間ではそれをスノーボードというんだよ」
「じゃあ貴音はおねえちゃんと違うことをするのですか?」
「いゃもっと早く気が付けー!」
どうやら妹は私からスキーを教わりたかったらしい。だが私がやっているのはスノボー……妹には何度も話したハズなのだが、どうやらこの子はスキーとスノボーの区別がついていないらしい。
「がーん」
妹はとても分かりやすい表現でショックを受けていた。まぁ私から教わりたいという気持ちは正直うれしいのだが、ここは和に任せるのが一番だろう。
「貴音ちゃん、とりあえずお姉ちゃんも最初は付き合うから」
最初は滑れる組……私と天ちゃん空ちゃんの双子、そして樹李ちゃんも一緒に初級者コースへ向かい、スキー初心者の妹とバナナちゃんの練習に付き合った。
「まずは~基本のボーゲンね! 最初はストック使わないでやるわよ~! スキー板をハの字にして~内股の前傾姿勢で~内側のエッジという所に力を入れるのよ~そう! その力加減で曲がることも止まることもできるのよ~」
へぇ……ちゃんと指導できるじゃん! さすがバッチ取っているだけのことはある。こりゃ和に全部任せて私は天ちゃんたちを連れて滑りに行くか。
「え~っとぉ~バナナちゃんだっけ? 脚がガニ股になっているわよ~! 内股内股~! 脚を開くのは~夜のベッドだけでいいのよ~♥ 貴音ちゃ~ん、腰が引けてるわよ~! お尻を突き出すのは後背位のとき……」
〝ペーンッ!〟
「痛ったぁ~い! 何すんのよいっちゃ~ん!?」
前言撤回! やっぱコイツひとりに任せるのは危険だ。
※※※※※※※
「は~い、いい感じ! 二人とも、ちゃ~んと滑れているわよ~」
「ス、スゲー! 滑れたー!!」
「貴音も……ちゃんと止まれたのです!」
「じゃあ次は~、ターンにも挑戦してみようね~!?」
スキー初心者の妹とバナナちゃんは、緩やかな斜面で直滑降とブレーキを練習していた。うん、これなら大丈夫だろう……今、一番ブレーキが必要なのは和だ。
「お姉さん、私たちは真ん中のコースで滑りたいです」
「滑りたいです」
「師匠! 樹李タソも一緒に滑りたいっす」
そうだな……和には悪いが、初心者の二人はコイツに任せて私は天ちゃんたちの面倒を見ていよう。まだこの子たちの実力はわからないし、今日は週末……混雑しているのではぐれたり事故が起こらないように気をつけないと……。
「和! 妹とバナナちゃんのこと頼むわ! 私はこの子たちの面倒みるから」
「行ってらっしゃ~い! 二人は~私が責任もって調教しておくわよ~♥」
――調教いうなー! やっぱコイツにはブレーキが必要だ。
※※※※※※※
妹たちと別れた私は樹李ちゃんとリフトに乗った。
「樹李ちゃんはさー、何でスキーじゃなくてスノボー始めたの?」
「元々兄ちゃんがやってたっすよ! 兄ちゃん、スケボーとかも好きで……あっ実はこの板も兄ちゃんから借りてるっすよ」
そうなんだ……どうりでこの子の身長に対し板が少し長めの気がしてたのか。
「師匠もその板……だいぶ年季が入ってるっすねー!?」
「あぁ、これ?」
これはスノボーをやっていた先輩に憧れ私が始めたとき、その先輩から譲ってもらったものだ。当時私の家は貧乏……ボードなんて買う金などあるワケがない。父子家庭の樹李ちゃんと元・母子家庭の私……何かこの子とは気が合うなぁ。
真ん中のコースを四人で数回滑り終えたところで和の様子が気になってきた。私たちは妹とバナナちゃんが練習している左側のコースに向かうと、
「……えっ!?」
妹が信じられない状態になっていた。
貴音なのです。コウハイイとは何なのですか?




