貴音はスキーを始めるのです(貴音side)
「ぶわーっ! 憂鬱だぁー」
バナナセンパイが壊れたのです……あ、この人はいつも壊れているのです。
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貴音は図書委員の当番で今日も放課後の図書室にいるのです。もちろん二年生の戸沢 芭蕉センパイも一緒なのです。
バナナセンパイは相変わらずカーディガンを着て背中を丸めているのです。でも一応、おねえちゃんのアドバイスでスポブラを着けているらしいのです。そのセンパイが図書室のカウンターに頭……というより顔を乗せたまま動かないのです。
「どうしたのですかバナナセンパイ!? 何でU2なのですか?」
「貴音ちゃん、それはグラミー賞を最多受賞したアイルランドのロックバンドよ」
「バンドよ」
間髪を容れずに天ちゃん空ちゃんからツッコまれたのです。
「伝説のポケモソ……」
「もうツッコまないよー」
「えっ樹李タソは何のことかわからないっす」
「つーかおぃ! オメーら何で尾白と同じ机でグループ作ってんだよ!?」
図書室には双子と樹李ちゃんが遊びに来ていたのです。
「貴音のお友だちなのです」
「尾白は仕事中だ! 邪魔すんな」
「私たちは図書室へ本を読みにきてるだけですよ」
「だけですよ」
「う゛っ……いやでもそこのオマエ! えーっと、やぎゅうじま……」
「野牛島っす」
「そうオマエ! それ雑誌だろ!? 図書室にない本だぞ」
樹李ちゃんはファッション雑誌を持ち込んでいたのです。
「だって図書室には樹李タソの読みたい本ないっす」
「かーっ、だったら来るなー!」
イライラしたり●ュウツーになったり……きっとバナナセンパイはPMS(月経前症候群)なのです。でも貴音が知る限りこの人はずっとこんな感じなのです。
「ここは図書室ですからお静かにバナナ先輩!」
「バナナ先輩!」
「バナナパイセン問題ねぇっす! どうせウチら以外誰もいねぇっす」
「バナナ言うなぁー! 戸沢と呼べぇー!」
芭蕉センパイの読み方はあらかじめ貴音が教えておいたのです。
「はぁ……あー早く家に帰りてー」
「生理前は大変なのです」
「PMSじゃねーよ! 元々この性格だ」
「で、●ュウツーはゲットできたのですか?」
「確かに……菱山じゃねーけど尾白のボケにはツッコむ気も起きんわ! 憂鬱の原因だろ? それはな、今月末になったら二年生全員にアレがやって来るんだよ」
「……生理」
「一斉にやって来たら怖えーし全員ってことは男子もなるんかぃ!? 想像したらキモいわ! そーじゃなくて……スキー教室だよ!」
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「スキー教室!?」
「そーだよ! 定番の車山高原一泊二日……あー行きたくねーよー」
そういえば……この学校では春に三年生が修学旅行、そして二年生は冬にスキー教室があるのです。
「えっ!? スキー嫌いなんですかバナナ先輩」
「バナナ先輩」
「バナナやめろって……オメーら人の話を全然聞いてないな!? スキーが嫌いっつーか……アタシ運動オンチだからそっ、そういうの苦手なんだよ」
たっ……貴音の『仲間』がココにいたのです♥
「えー、スキー楽しいのにねぇー」
「ねぇー」
「樹李タソはスノボーやってるっす」
「うゎオメーら体育会系リア充かよー!? だったら友だちになれねーな! 帰った帰った……しっしっ!」
えっ、天ちゃんたちはスキーやスノボーが滑れるのですか……貴音はこの人たちよりバナナセンパイに親近感を持ったのです。
「バナナセンパイ! 貴音はセンパイの気持ちが痛いほどわかるのです」
「おっ、おーそうか? ありがと……」
「でも何でスキーが苦手……あっ、わかったのです! 滑って転ぶからなのです」
「オメー今バナナの皮を想像してただろ」
そういう意味で言ったのではないのですが……この人は被害妄想が強いのです。
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カウンターで液状化しているバナナセンパイに天ちゃんが話しかけたのです。
「バナナ先輩はスキーやったことがあるんですか?」
「ですか?」
「バナナ言うな……ってもういいやメンドくせー! スキーだろ!? やったことねーけど……」
「じゃあ一度やってみたら意外とできるかもっすよ!」
「簡単に言うねー、でもアタシの運動神経じゃ結果は見えてるわ……あ゛ーっ、全然滑れなくてみんなの前で大恥かいてしまうんだアタシ―!」
バナナセンパイは「食わず嫌い」だったのです。バナナが食わず嫌いというワケではないのです……バナナは数えきれないくらい食べたことがあるのです。
バナナセンパイ、それはダメなのです! できるのかできないのか一度はチャレンジしてから結論付けるものなのです!
……と、いいつつ貴音もチャレンジしたことないのですぅううううっ!
――あっ、そうなのです!
「バナナセンパイ! それとみんなに提案があるのです」
「えっ何?」
「実は今週末、おねえちゃんがお友だちとスキーに行くと言ってたのです」
「おーあのお姉さんか……」
「あれっ、バナナ先輩も貴音ちゃんのお姉さん知ってるんですか?」
「ですか?」
「おっおう……まぁな」
バナナセンパイは顔を赤らめたのです。モラードバナナになったのです……意味がわからない人はググるのです! なぜ赤くなったのかは……何となく想像できたのです。
「貴音っち、でもそれが何の関係あるっすか?」
「おねえちゃんたちにスキーを教えてもらうのです! そうすればスキー教室で恥をかかずに済むのです」
「えっそりゃ事前に経験していれば違うかも知れねーけど……お姉さんの予定もあるだろうし」
「うーん、師匠と一緒に行きたいっすけど……さすがにムリがあるっす」
「そうよ! それにそのお友だちだって迷惑でしょ!?」
「迷惑でしょ!?」
「大丈夫なのです! お友だちはいつもの和おねえちゃんだけなのです」
「えっ、あの爆にゅ……じゃなかった和パイ専っすか!? あの人、スキーなんかできるっすか?」
天ちゃんたちは乗り気じゃないのです。確かに、おねえちゃんの都合を無視しての一方的なお願いなのです。みんな気を遣っているのです。
「それにさー、どうせ土日の泊りがけだろ? 急にお泊りなんてできねーよ」
「日帰りだと言っていたのです……近場なのです」
「ちょっと待って貴音ちゃん!」
なぜか急に天ちゃんが食いついてきたのです。
「あのさぁ、もしかしてお姉さんたち……帰りにどこか寄り道する?」
「温泉に入ってから帰ると言っていたのです♥」
「じゃ、多数決取りまーす! この中でお姉さんたちとスキーに行きたい人ー!」
「「はーい」」
……四人が手を挙げたのです。
「えっえっ!? ななっ何だオメーら……」
事情を知らないバナナセンパイだけオロオロしていたのです。
「じゃあ貴音はおねえちゃんに聞いてみるのです」
「うん、よろしくー!」
学校はスマホ持ち込み禁止なのです。貴音は家に帰っておねえちゃんに聞いてみたのです。その後みんなにニャインを送ったのです。
『秒でOKもらったのです』
『秒かよ』
みんなから同じメッセージが届いたのです。
こうして……週末はみんなでスキーへ行くことになったのです。
貴音なのです。和おねえちゃんからも「なぜか」秒でOKもらったのです。




