私は妹の〝先輩〟と意気投合した(いづみside)
――うわぁっ!
私は……ずぶ濡れになった。
※※※※※※※
「……雪かぁ」
この日は朝から曇り空……午後の講義が始まった辺りから雪がちらつき始め、帰る頃には辺り一面雪景色になってしまった。
大学から私の家までは近く、歩いて帰れるので問題ない……が、この後のバイトは車で行かなければならない。一応スタッドレスタイヤを履いているが、渋滞もあるだろうし嫌だなぁ……と思っていると
〝ブゥウウウウン〟
私のスマホに着信が……相手はバイト先のジムのオーナーだ。
「えっ、臨時休業……ですか?」
バイトは中止……助かった気分だが、ウチのジムって臨時休業多いよなぁ。まぁスポーツジムとはいっても所詮田舎の女性専用……会員のほとんどがダイエット目的で、ボディービルの大会に出場するようなガチ勢など皆無だから仕方ない。
「あれっ武川さん、傘持ってないの?」
大通りの歩道を歩いていると同じ学部の友人に声を掛けられた。天気予報で知っていたが、そこまで降らないだろうと高を括り傘を持ってこなかったのだ。
「大丈夫だよ! 家近いし……それに雪なんだからさぁ、肩にかかってもこうやって手で払えばほとんど濡れることはないって……」
〝ブロロロロ……バシャッ!〟
……。
ここは大通りだ。道路はまだ雪がなく雨と同じ状態……この雪の中減速せず通過した車に思いっきり水をはねられてしまった。
「だっ、大丈夫!?」
「うっ……ううっ! 寒みぃいいいいっ!」
やっべぇこのままでは凍死してしまう! 私は家路を急いだ。
※※※※※※※
「た……ただいまぁ」
私が命からがら家に帰ってくると、キッチンにいた母の茅乃が顔を出した。
「おかえり! おっ、どうしたいづみ」
「車に水かけられた……さっ、寒い! 先に風呂入るよ」
「何だ、どうせなら頭冷やしてくればいいのに」
おぃそれが母親の言うセリフか!? つーか今の私は頭を冷やすような興奮状態じゃないぞ! どちらかと言えば今のセリフで冷静さを失いそうになったわ!
私はさっそく脱衣所に入り服を脱いだ。この家は継父が不規則な生活をしているため、いわゆる「二十四時間風呂」というヤツになっている。つまり何時でも風呂に入れるというワケだ。
「ふぅ……生き返ったぁ♪」
何時でも風呂に入れるのはこういうとき助かる。しかも今日はバイトが休み……普段はジムでシャワーだけだから、久しぶりの家風呂だ。
さてと、体も温まったしそろそろ出るか……ん?
――脱衣所に誰かいる……妹か!?
妹の貴音ちゃんは今月から図書委員になったとかで、時々帰りが遅くなる日がある……よし! 妹も委員会活動で疲れているだろう、たまには一緒に風呂入って背中でも流してあげよう♥
〝ガラガラッ〟
「お帰り貴音ちゃん! 背中流してあげるからおいで♥」
――あっ……あれ?
目の前にいたのは全裸の妹……ではなく、背丈こそ妹と同じくらいだが知らない女の子が服を脱いでいた。えっ誰? つーか何で知らない子が他人の家で裸になってるんだよ!?
全裸の子は私の姿を見ると一瞬固まったが、すぐに
「キャァアアアアッ!」
と叫び声をあげた。私も
「なっ、何だよオマエは!?」
と言うと、脱衣所の扉から妹が慌てた様子で入ってきた。
※※※※※※※
「おねえちゃん! 何でこんな時間にお風呂入ってるのですか?」
「いや、学校の帰りに車に水はねされちゃってな」
「今日はバイト行かなかったのですか?」
「今日は雪で臨時休業! それよりこの人は貴音ちゃんの知り合いか?」
何となく妹の知り合いだということは察しが付く。家族の誰も知らない人間が突然やって来て全裸になったらそれこそ事案だ。
「図書委員のセンパイでバナナさんというのです」
えっバナナ? 最近の中学生は上級生をあだ名で呼ぶのか?
「バナナやめ……あっ戸沢といいます! とっ突然すみません! もしかして貴音さんのお姉さんですか?」
「そうだけど……何でお風呂に?」
「じっ実は……」
……車に水はねされたらしい。まさか同じような人間がココにもいるとは。
同じような……といえば!
妹は同い年の子と比べて身長が低い方だが、この戸沢という子はさらに低い。でもこんな低身長だというのに……
〝ぽよんっ♥〟
――メッチャ巨乳じゃん!
向こうも私の胸をしばらくガン見すると、
「「で……デカい」」
……お互い心の声が漏れてしまった。
※※※※※※※
私と入れ替わりで入った戸沢さんが風呂から出てきた。私たちはリビングのコタツに入って談笑した。
この子は絵本作家である継父のファンで、妹が実の娘だと知ったので会いに来たそうだ。それとバナナというのは本名らしい。芭蕉と書いてバナナ……これってキラキラネームだよな?
だがそれよりも気になることが……
「ねぇ、ぶっちゃけ聞くけど戸沢さん……バストってどのくらいあるの?」
「えっ……えぇっ!?」
戸沢さんは顔を真っ赤にしてうつむいた……うわっ、カワイイ♥
ま、個人的感情は置いといて思春期の子にいきなり聞くのはデリカシーに欠けるよな。人にバストサイズを聞くときはまず自分から話す……とは昔から言われている礼儀作法だ。
「私はねぇ、トップ(バスト)が九十八センチのFカップだよ」
「スゴッ! ア、アタシは……八十六センチです……Eカップ……」
うわっ、その身長でEカップってバランス的には私より巨乳じゃん! でも……私は「もしや」と思い彼女に鎌をかけてみた。
「でもさぁ、胸大きいとデメリットの方が多くね!?」
するとその言葉を聞いた戸沢さんが急に眼を輝かせた。
「わかりますー! マジでイイことないですよねーお姉さん!」
なるほど……どうやらこの子は胸にコンプレックスを持っているようだ。さっきから背中を丸めて胸を隠すような仕草をしているし、巨乳好きな妹の視線を気にしているようにも見える。
「体育のときとか大変でしょ?」
「はぃ、実は……」
――えっ!?
驚いた……どうやらこの子は体育のとき、夏でもダボダボの長袖ジャージを着ているらしい。しかも水泳は体調不良(?)で欠席……先生も事情を理解しているそうだが、そりゃマズいだろ。
しかもブラは自分のサイズにあった標準的な物を着けているらしい。小さく見せるブラの存在も私から聞くまで知らなかったそうだ。
「だったらさぁ戸沢さん、スポブラとか着けりゃいいじゃん」
「えっ、アタシ体育会系じゃないのにスポーツ専用なんて着けていいんですか?」
「いや体育会系とか関係ないから! 体育の時間だって付けた方がいいよ」
何も知らないんだなこの子……私の話を興味津々に聞いている。
「肩はこる?」
「こりますよぉー」
「だよな!? 戸沢さん、女子から胸揉まれない?」
「もぉー毎日! あっ、芭蕉でいいですよ♪」
あれっ、あれだけ嫌がっていたのにバナナって呼んでいいのか? 巨乳という共通点で彼女とはすっかり打ち解けてしまったようだが……
「ぷくぅ……」
私たちの隣で約一名、プク顔で拗ねている貧乳ちゃんがいた♥
貴音なのです。こっ……この二人は敵なのです♥




