貴音は図書委員になってしまったのです(貴音side)
「では、三学期の図書委員を尾白さんにお願いします」
うわぁ……たっ、大変なことになってしまったのですぅううううっ!
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三学期になったのです。貴音の通う学校は一学期、二学期そして三学期の初めに学級委員を決めるのです。
委員長は菱山 天ちゃんがずっとやっているのです。天ちゃんはリーダーシップがあってクラスのみんなから尊敬されている……というワケではないのです。
クラスのみんなは誰も学級委員長なんてやりたがらないのです! そこへ自ら立候補した天ちゃんにやってもらっているだけなのです。
貴音は中学校に入ってから部活動も委員会活動もしたことがないのです。メンドクサイのです! そんなヒマあったら早く家に帰ってゲームかおねえちゃんのおっぱいでも観賞していた方がマシなのです。
ところが……なのです! 三学期最初のホームルーム前に、天ちゃんが余計なことを言ってきたのです!
「貴音ちゃん! 今まで部活も委員会もやったことないよね?」
「やったことないのです……やる気もないのです」
「ダメよ! そんなんじゃ内申に響くわよ!」
「貴音はナイアシンなんて気にしないのです」
「いや何でアを入れた? つーかビタミンB群も摂らなきゃダメだよ! っていやいや今はニコチン酸アミドの話してる場合じゃないから」
「天ちゃんはカルシウム摂った方がいいのです」
「イライラしてるのはアンタのせいよ! 貴音ちゃん! 次のホームルームで三学期の委員決めするけど、私が貴音ちゃんを『図書委員』に指名するからね」
「えぇっ!? いくら天ちゃんでもやって悪いこととダメなことがあるのです」
「それどっちも否定の表現だよね? 貴音ちゃん、本好きでしょ? それに三学期は期間が短いから、一応形だけでも委員やっとけば内申点も良くなるわよ」
「図書委員は放課後に活動するのです! 貴音は早く帰りたいのです」
「当番制だから毎日じゃないわよ! それに学校の図書室は利用者少ないから結構ヒマだって話だよ」
「どうせなら保健委員がいいのです! 授業中に誰か倒れたら連れて行くのです」
「そうやって授業をサボろうとしてるでしょ!? じゃあ聞くけど授業中に石割君が倒れたら連れて行ける? 彼、柔道部で体重八十キロくらいあるけど……」
「う゛っ、ムリなのですぅううううっ!」
こうして貴音は、三学期の図書委員にさせられてしまったのです! それと……たぶん石割君は空腹以外の理由で授業中に倒れたりしないのです。
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それから二週間後の放課後……貴音は図書室にいるのです。
「おい一年ボーズ! 今日の返却分はチェックしたかー!?」
「はっ、はい! もうすぐ終わるのです」
「おっせーな今度の図書委員は! チェック終わったら配架すっぞー!」
――ふえぇええええっ!
天ちゃんはウソつきなのです! 結構忙しいのです! しかも……
「ったく、オメーは顔だけカワイイだけで何にも使えねーな!」
一緒に当番を組んでいる二年生の女のセンパイがとっても厳しいのです! しかも口がメッチャクチャ悪いのです!
この人は『戸沢』さんというのです。下の名前は教えてくれないのです! 今回は二回目の当番なのですが、初めて会ったときからずっとムスッとした顔で怒ってばかりいるのです。
返却された本をチェックした貴音は、すぐに配架するのです。配架とは本棚の決められた場所に本を並べることなのです。
「えっと……戸沢センパイ、この本はどの棚なのですか?」
「かぁーっ! オメーそんなこともわかんねーのかよ!? 背表紙にラベル貼ってあるだろ!? その番号と同じ本棚に戻すんだよ!」
「えっと、じゃあこれはどこに戻すのです?」
「ん!? 池之原道志の『YOKOHAMAだけを見つめてる』か? これは日本文学で小説だろ……この棚だよ」
「じゃあこれは?」
「丹波山のめ子の『三日天下の滑り台』か? これは歴史ジャンルだけど小説だからここだよ……よいしょ! とっ届かねーな」
「じゃあこれは?」
「おぉ『ゆ~ぷる中田の歩道橋探訪』か!? ええっと、これは写真集じゃなくて紀行文だな……って全部アタシにやらせんなこのクソ一年ボーズがぁー!!」
実はこの戸沢センパイ……いつも怒ってばかりで口が悪いのですが、全然怖くないのです!
というのもこの人、身長が貴音より低くてどう見ても一三〇センチ台……夏休みに会った鴨狩 紬さんと同じくらいなのです。しかも常に背中を丸めた姿勢でいるので、実際よりもっと低く見えるのです。
「うわー届かねーよぉ!」
「はぃ戸沢センパイ、ここでいいのですよね?」
「あぁありがと……っておい! 元々オメーが戻す役割じゃねーか!? くっそーそんなんでマウント取ったと思ってんじゃねーぞ!」
貴音はこの人をイジるのが楽しいのです! だから図書委員も楽しいのです!
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配架が終わったのです。いつもならこの時間は、家に帰ってからおねえちゃんのバイト先に向かうのです。でも間に合わないので、貴音は戸沢センパイと図書室で本を読んでいたのです。
ここは中学校の図書室なのですが、なぜか絵本が置いてあるのです。とは言っても童話に近い絵本なのです。
そこにパパの書いた絵本もあったのです! パパは童話も書くのです。貴音は思わずパパの本を手に取って読んでみたのです。すると……
「何だよ一年ボーズ! オメー、絵本なんか読んでるのか?」
戸沢センパイにバカにされたのです。きっと貴音が子どもっぽいと思われ……あれ? 戸沢センパイも絵本を読んでいるのです! しかもパパの本なのです!
「何だよオメーも『おじらえんめい』のファンなのかよー!? いいよなー、えんめいの童話って……ほっこりして癒されるんだよなー!」
「えっ、あっ……あの……」
「そういやさー、えんめいってこの近くに住んでいるんだっけ? いやー、顔知らないけど街で会ったらサインほしいよなー」
「あの……『おじらえんめい』は貴音のパパなのです」
「…………えっ!?」
「パパの本名は『尾白 延明』なのです! そのペンネームは読み方を変えただけなのです」
「まっ……マジかぁああああああああっ!?」
貴音もリアルなパパのファンを間近で見たのでマジかと思ったのです。
「えっえっえっ! オメー……じゃなかった尾白さん、えんめいの娘なの!? アタシ、おじらえんめいのファンなんだけど……えっこっ、今度お家に遊びに行っていい?」
戸沢センパイは、今までの態度をガラッと変えたのです。
「いいのですが……ひとつお願いがあるのです」
「おーいいよいいよ! 何でも聞いてやるぞ!」
「戸沢センパイの、下の名前を教えてほしいのです」
「悪い……それは絶対にムリ」
この人は絶対に下の名前を教えてくれないのです。正直知ったところでどうでもいいのですが、拒否られると余計に知りたくなるのです!
とは言うものの、実は名札にフルネームで書いてあるのです! ただ……
『戸沢 ●●』
……こっ、こんな名前の人がいるのですか?
貴音なのです。戸沢センパイの下の名前は次回わかるのです!




