私は妹と初詣に出かけた(いづみside)
「おねえちゃん、あけましておめでとうなのです」
年が明けた。今年は二〇一八年である。
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思えば去年は私にとって色々なことがあり過ぎた。高校の卒業、短大への進学、母・茅乃の再婚……そして、
新しい家族、私に継妹が出来たことだ!
妹の貴音ちゃんはフィンランド人のハーフで美少女……完全に私の好みだ。そして今、私の隣には晴れ着を着た妹がいる……うわぁ、新年早々こんな幸せなことはないぞ! 思わず帯を解いて「あ~れ~!」ってやってみたいなぁ……♥
……いかん、心が汚れすぎてるわ私。神聖な場所なんだから心を浄化せねば!
今、私たち姉妹はある神社へ初詣に来ている。もちろん妹と初詣など初めてのことなのだが、私たちはこの神社に来るのも初めてだ。
去年まではそれぞれ近所の神社へ初詣に行っていた。だが今年は干支が『戌年』で、新しい家族にはトイプードルの「クララ」も……ということで「クララと一緒に初詣がしたいのです」と妹が言い出したのだ。
とは言っても犬連れで参拝できる神社仏閣は限られる。基本的にペットは立入りすら禁止されている場所が多い。
そんな中、妹とネットで調べていたら私の住む街にもペットと一緒に参拝できる神社があったので行ってみよう……ということになった。
「クララ、今年は主役なのですからちゃんとお利口さんにしているのです」
「わん!」
――主役って……あと二ヶ月もすれば干支なんて忘れちゃうよ。
クララのリードは妹が握っている。この近くには有名な神社があり、多くの参拝客はそちらに向かっているので思ってたより空いている……ここは穴場だな。
〝ガランガランッ! チャリン……パンッ、パンッ〟
参拝を済ませ、茅乃に頼まれていた御札と破魔矢を授かった。アイツ、こういうの好きだよなぁ。
「おみくじやっていこうか?」
「賛成なのです」
ついでにおみくじもやってみた……私は「小吉」だ。恋愛は……
『焦りは禁物、間違いの元』
……はぃそうですよ! 十二歳に手を出したら間違いどころか事案だわ!
「貴音ちゃん、どうだったの?」
「おおしぐちなのです!」
おおしぐち……!? 「大」+「士」+「口」=「大吉」か、妹と生活するようになって私はカンが冴えてきたな。
「ペット撮影会やってまーす! 撮影は無料ですのでいかがですかー!?」
境内の一角ではイベントが行われていたが、さすがはペットOKの神社……ペットの撮影会なんてのもやっていた。
でもアレだろ? 撮影無料とか言っておきながら最終的に豪華な額縁とかに写真を飾って強引に売りつけるってヤツじゃね!? そんな手には乗らねーぞ! 参拝も済ませたし、さっさと帰ろう……。
「おねえちゃん! クララを撮ってもらうのです!」
――げっ!?
妹がクララを連れて、勝手にブースの方へ行ってしまった。どうやら撮影無料は本当で、欲しい場合は撮影されたデータを後で購入するシステムらしい。私は継父に電話し、二つ返事で許可をもらったので撮影をお願いした。
「はぃクララちゃん、こっち見てね」
「クララ! こっちなのです」
カメラマンと妹が、オモチャでクララの気を引かせながら撮影が進められた。さすが専門業者だなぁ、ちゃんと正月らしい小物とか用意されている。
撮影を終え、継父や茅乃も見たいというので一応CDで購入することにした。購入の手続きを済ませ、私がお手洗いに行きたいと言うと、妹はクララと境内を散歩したいと言い出した。
まぁ近くの神社みたいな混雑もないだろうし……と私は、待ち合わせ場所を決めてから妹と別れた。
※※※※※※※
……遅いなぁ。
先に待ち合わせ場所へ着いたのは私だ……妹とクララはまだ来ていない。散歩が楽しくてまだほつき歩いているのだろうか? まぁ妹の性格上、このくらいの遅れは想定内だ。
それにしても遅いなぁ……私がイラつき始めたとき、妹が石段を上って息を切らせながら戻って来た。
「貴音ちゃーん、遅いよ! 何やっ……」
――あれ?
妹を見た瞬間、私は違和感を覚えずにはいられない状況になった。妹は今にも泣きそうなくらい困り果てた表情……
そして何より妹の右手には空のリードが……そう、クララがいないのだ。
「おっおおおねえちゃん! クララが……クララが……」
「落ち着いて貴音ちゃん! どの辺でいなくなったの!?」
「かっ、階段の下まで行ったのです! そしたらハーネスが緩んでたみたいなのです。貴音がちょっと目を離したすきに……ふっ、ふえぇええええん」
妹が耐え切れず泣き出してしまった。私は妹を落ち着かせながら
「大丈夫! まだそう遠くに入っていないハズだよ……もしかしたら石段を上っているかもしれないから貴音ちゃんはこの辺り探してみて! お姉ちゃんは下の方探してみるから」
「おっ、お姉ちゃん……ごめんなさいなのです」
「謝るのはいいから! 今は一秒でも早く探しに行こう!」
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「クララ―! クララ―!」
初詣客も少なくなってきた神社の境内を、私は愛犬の名を連呼しながら探していた。大丈夫とは言ったものの、神社の裏山にはうっそうとした森林がある。妹を安心させるために言ったとはいえ、正直言って全然大丈夫なんかじゃない!
しかも私は身軽な格好をしているが妹は晴れ着、そう簡単に広範囲を移動できるワケがない。クララがいなくなったというこちらの広いエリア……私が探した方が確実に効率いいだろう。
だが……
捜索して三十分以上経ったが、クララは一向に見つからない。私の様子に気づいた犬連れの方が声を掛けてくれて、その人も一緒に探してくれたのだが……。
これは困った、マジでヤバい! 境内を探しても見つからない……ということは最悪、裏山まで捜索しなくちゃならないということか!?
勘弁してくれクララ! 新年早々、しかも戌年になった初めての日に初めて来たこの場所で、おまけに写真まで撮影していなくなるなんて! 出来上がった写真が遺影に……ダメだダメだ! 縁起でもないこと考えちゃダメだ!
すると……
「あっ、お姉さん! 上の方で誰か呼んでいますよ!」
一緒に探してくれた人に声を掛けられた。
「えっ!?」
「見つかったー、とか言ってますよ!」
石段の上で私を呼んでいたのは妹だった。
――よかったぁああああああああっ!
私は一緒に探してくれた人へお礼を言うと、妹の元へ駆け寄った。妹はクララをしっかりと抱きしめていた。
「よく見つかったじゃん!?」
「貴音と同い年の女の子が一緒に探してくれたのです」
「へぇ……」
妹の話では……妹がクララを探していたとき、たまたま居合わせた中学生の女の子が一緒になって探してくれたらしい。でもってクララが二人を見つけるや否や、一目散にその女の子の方に向かって駆け寄っていったそうだ。
妹は自分ではなくその女の子にクララが向かって行ったことがとても不満だったが、その子は自分が「イヌ」だから仕方ない! と言ったとか……
――イヌの中学生? 何だそりゃ?
貴音なのです。クララはオスのワンコなのです!




