私は今夜……ママになった(いづみside)
「やっぱり! そうだったのです!!」
サンタの格好をした私は妹・貴音ちゃんの部屋に忍び込んだ。ところがプレゼントの絵本を枕元に置いた瞬間、妹が目を覚ましたのだ。
――うわぁああああっどうしよう!? 正体がバレて……
あっそうか、見つかってもいいようにサンタの格好しているんだっけ!? だったらサンタらしい挨拶でもしようかな……えーっと、
――ふぉーふぉっふぉっふぉー、メリークリスマース!
……何だよふぉーふぉっふぉって! バルタソ星人か!?
ていうか声を出したら私だって即バレじゃん! 私はニコッとしながら無言で妹の顔を見た。
それにしても「そうだったのです」ってどういう意味だ? すると妹は思いがけない言葉を口にした。
「やっぱり……サンタさんはママだったのです!」
……えっ!? どういうこと?
※※※※※※※
私が無言を貫いていると妹はさらに話し続けた。
「貴音は調べたのです。サンタさんはフィンランドからやって来るのです。フィンランドはママの生まれた国なのです」
あ、そういえば……サンタクロースはフィンランドにある山の中に住んでいるって聞いたことがあったな。
「なので毎年クリスマスは、お星さまになったママが会いにきてくれるのです」
おい何だそのクリスマスと日本のお盆をごっちゃにした謎理論は!? 私が呆気にとられていると妹は私に飛びついてきた。
「ママ! ママ……会いたかったのです! 貴音は悪い子だとわかっていても、ママに会いたいからこうして起きていたのです……グスッ」
常夜灯のみの薄暗い部屋……よく見ると妹はボロボロと大粒の涙を流していた。
この子は三歳のときに実の母親・ノラさんを亡くしている。私や母の茅乃と出会うまでずっと父親と二人暮らしだった。
私はそっと妹にハグをした。妹は靴下型の袋から絵本を取り出すとママ……ではなく私にこう言った。
「ママ……貴音はやっとこの本と出会えたのです。今までこの本を知らなくてごめんなさいなのです」
そういえばこの「流れ星の君に」という本、色々と謎が多いのだが……
「これは……ママが書いたお話なのですね?」
――!?
自分の作品は全て大事に保管している継父が、唯一この本だけは持ってない。そして私が読んだときに覚えた違和感……そうか! これは継父の名前で出版しているが、実はノラさんが書いた本だったのか……それなら辻褄が合う!
おそらく亡き妻への思い入れが強すぎ、それが辛くて継父はこの本を手に取ることができないのだろう。
でも妹は母親と共に過ごした証が欲しい……だから母親が書いたこの絵本が欲しかったに違いない! しかもこの絵本のラストは……天に昇ったルミエールが流れ星になって、地上でお祈りをしているリアンと再会する。
きっと妹もサンタになった母親が会いにきてくれる……そう信じて今夜はムリして起きていたのだろう。
「ママ……今まで気づかなくてごめんなさいなのです。それと、毎年クリスマスプレゼントを持ってきてくれてありがとうなのです」
私は妹を強く抱きしめた。この子も今日までずっと辛い思いをして生きてきたのだろう。妹は私の胸の中で号泣している。
そうか、そんなことなら来年のクリスマスも、それ以降も私がサンタをやってあげよう! あっでもバレたらマズいな……どうしよう? と考えていたら、
「でもママ! 来年からはもう来なくていいのです!」
……は?
ちょっと待てどういうことだ!? さっきまで会いたくて泣いていたのに何だよその決別宣言!? すると妹は
「今年から新しいママさんと……それとおねえちゃんができたのです! 貴音がいつまでもママのことばかり考えていたら、新しいママさんやおねえちゃんが困るのです! 貴音は大人になるのです! ママさんとおねえちゃんはとってもいい人なのです! これからはママさんとおねえちゃんを困らせないようにするのです」
私は妹をずっと抱きしめていた。思わず涙がこぼれてしまったこの顔を、妹から見られないようにするためだ。すまんな和よ、オマエから借りた衣装……この姉妹の涙で濡れてしまったぞ。
「ママ……今までありがとうなのです! 貴音はいい子にするのです」
妹がサンタの格好をした私(ママ)に手を振り、私は部屋を後にした。
――妹よ、困らせたっていいんだぞ……
これからも……お姉ちゃんはママ代わりになって妹を守ってやるよ!
※※※※※※※
翌朝……
「おはよー! ん……お粥?」
クリスマス、そして冬休みの朝……遅く起きた私が朝食の食卓に着くとお粥が出てきた。昨夜は食べすぎたからバランスを考えてのことだろうか?
「何だよコレ……甘いじゃん!」
私は一口食べると味のギャップに驚いた……どうやらミルク粥のようだ。私の戸惑った顔を見て茅乃が
「あぁそれ? ヨウルプーロとかいうお粥だよ! フィンランドではクリスマスの朝に食べるんだってよ」
おい茅乃はいつからフィンランド推しになった!? すると一口食べた妹が
「あ……貴音は昔、これを食べた気がするのです」
そうか、これはフィンランド料理……もしかしたら母親のノラさんが幼かった娘のために作ってあげたのかもしれないな。
「貴音ちゃん、昨夜はサンタさん来てくれたの?」
茅乃が何食わぬ顔で妹に聞いてきた……大人ってズル賢いよなぁ。
「はいなのです! サンタさんはとってもおっぱいが大きかったのです♥」
〝ブーッ!〟
妹の言葉に私と茅乃は飲んでいたコーヒーを吹いた。茅乃は私に向かって小声で
「オマエ……何やってんだよ」
「あ、あれ和の衣装だから……そう見えたんだろ」
私は必死に言い訳をした。
「何もらったの?」
「絵本なのです! 貴音は起きてすぐに読んだのです」
妹はとてもうれしそうだ。ある意味母親の「形見」、妹は何度も何度も読み返すことだろう。
「ママさん! おねえちゃん!」
突然、妹が私と茅乃に声をかけると
「メリークリスマスなのです! ママさん! おねえちゃん! これからもよろしくなのです!」
「貴音ちゃん、メリークリスマス」
私と茅乃は微笑んだ。
「そういえば貴音ちゃん! お姉ちゃんからもクリスマスプレゼントがあるよ」
「えっ、何なのです?」
「そろそろ来る頃だと思うんだけどな……」
と、そのとき
〝ピンポーン〟
「えっ……誰なのです?」
「貴音ちゃーん! メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「貴音っち! メリクリっす」
私は天ちゃん空ちゃんの双子と樹李ちゃんを密かに呼んでいたのだ。
「貴音ちゃん、この前本屋に誘ったのに逃げたよね!? 今日はみんなで冬休みの友を仕上げるわよ!」
「仕上げるわよ!」
「貴音っちー、運命だと思ってあきらめるっす」
そう! 先日妹を冬休みの勉強会に連れてきてと頼まれた私は、彼女たちを家に呼んだのだ。
「貴音ちゃん! お姉ちゃんたちを困らせないよう、ちゃんと勉強するんだよ」
「イヤなのです! クリスマスも冬休みも遊ぶのです! お勉強なんてサンタさんにやってもらうのですぅううううっ!」
貴音なのです。冬休みの友なんて正月過ぎたらやればいいのです!




