【番外編】年の差百合姉妹の「マッチ売りの少女」なのです。
(配役)
マッチ売りの少女=尾白貴音
通行人A=菱山天
通行人B=菱山空
通行人C=野牛島樹李
おばあちゃん=平井和
??=武川いづみ
朗読=尾白貴音……なのです。
とある街の大みそか……雪の降りしきる大通りを、見すぼらしい格好をしたひとりの少女が歩いていたのです。
少女の名前は貴音ちゃんというのです。
貴音ちゃんはノーブラなのです。出かけるとき、おばあちゃんの形見のブラをしたのですがサイズが大きすぎてすぐにずり落ちてしまったのです。
でも貴音ちゃんはノーブラなのに、誰からも気づかれないほど貧相なお胸をしていたのです。
「マッチ買ってほしいのです……マッチ買ってほしいのです」
貴音ちゃんはマッチを売っていたのです……が、街行く人は急ぎ足で通り過ぎ誰も買ってくれないのです。
貴音ちゃんはマッチが売れるまで家に帰れないのです。売れずに帰ると、とても厳しいママさんから「だったら冬休みの友を今年中に仕上げろ!」と言われてしまうのです。
冬休みの宿題など死んでもやりたくない貴音ちゃんは、仕方なくマッチを売り歩いているのです。ちなみに「冬休みの友」や「夏休みの友」という名前は山梨など一部地域でしか通じないのです。しかも友ではないのです……敵なのです!
夜になり人々が紅白だのお笑いだのテレビに夢中になっている頃、すっかり人通りが少なくなった街の中を三人の通行人A、B、Cが通りかかったのです。
「そこのお胸と頭が貧相な皆さん、マッチ買ってほしいのです」
「はぁ!? アンタいきなりケンカ売ってんの?」
「売ってんの?」
「オマエに貧相なんて言われたくないっす」
「お願いなのです。マッチ買ってほしいのです」
「えっマッチ? ライターですら使わないのにマッチなんていらないわよ」
「いらないわよ」
「パズルくらいしか使い道ないっす」
お約束通り、マッチは売れないのです。
「お願いなのです! マッチが売れないと冬休みの友をやらされるのです」
「うん、三学期までに絶対やんなきゃダメよ」
「ダメよ」
貴音ちゃんは完全アウェー……そこで作戦を変えたのです。
「マッチがダメなら……マッチョを買ってほしいのです!」
貴音ちゃんの隣には、このクソ寒い中パンツ一枚のマッチョが三人でポージングをしていたのです。
「マッチョなんてもっといらないわよ! てか何でここにいるの!?」
「貴音が今朝、新鮮なマッチョを仕入れたのです」
「仕入れるなそんなモン! これ買って何の役に立つのよ」
「力仕事に使えるのです」
「効率悪いわ! マッチョなんて家のスペース取るわプロテイン代かかるわ……それに何よりうるさいのよ!」
「えっ……マッチョのポージングは静かなのです」
するとマッチョが
「ナイス筋肉!!」
「キレてるキレてる!!」
……やっぱりうるさいのです。
「とにかく、マッチョはいらないわ」
「いわないわ」
「あー、どうせなら女の子らしい物……つけまとかコスメがいいっす」
「だったら……」
と言って貴音ちゃんが取り出したのは
「ブラジャーならあるのです」
大量のブラが入った箱なのです……これをどうやって運んだのか謎なのです。
「これよコレ! こういうのだったら買ってもいいわよ」
「あ、ありがとうなのです」
ところが、箱の中のブラを手にした通行人たちの態度が一変したのです。
「何コレ!? IカップやKカップなんて人間離れしたサイズばかりじゃん!」
「ばかりじゃん!」
「さ……さすがにこれはムリっす」
貴音ちゃんが用意したのはFカップ以上のブラばかりだったのです。
「こんなの売れるワケないじゃん」
「えっ……でもマンガやアニメの登場人物はみんなこのサイズなのです」
「あれはオタクどもの妄想! アイツらはおっぱいが大きければ大きいほど喜ぶ幼児性の高い連中なの! いい年して現実を見ないからいつまで経ってもバッキバキの(ピーー)なのよ!」
「(ピーー)なのよ!」
結局、通行人A、B、Cは何も買わずに去って行ったのです。
※※※※※※※
「お前たち……いいトレーナーさんに拾われるのですよ」
今のままでは食べる物がない貴音ちゃんは、フィットネスジムの前にマッチョたちを捨てたのです。でも何も与えずに捨てるのはかわいそう……と思った貴音ちゃんは箱の中にプロテインバーを忍ばせておいたのです。
「うぅ……寒いのです。お腹が空いたのです」
マッチョを捨てたところで貴音ちゃんは空腹のままなのです。寒さの中、空腹に耐えかねた貴音ちゃんはその場にうずくまってしまったのです。
「寒いのです……そうだ! 貴音にはブラジャーがあったのです」
貴音ちゃんはノーブラで寒かったのです。そこで売り物のブラを着けて寒さをしのごうとしたのです。実は貴音ちゃんはマッチを擦ることができないのです……現代っ子なのです。
貴音ちゃんがKカップのブラを着けると……不思議なことが起こったのです。
目の前においしそうな料理が現れたのです。それは年越しソバなのです! 貴音ちゃんが海老天を一口ほお張ろうとしたとき、サイズが大きすぎるブラがするりと外れて目の前から年越しソバが消えてしまったのです。
「さすがにKカップは見栄を張り過ぎたのです……ならば!」
貴音ちゃんはHカップのブラを着けたのです。すると今度は目の前に石油ファンヒーターが現れたのです。
「あぁ、暖かいのです……」
でもやはり、サイズの大きいブラがずれ落ちると同時にファンヒーターが消えてしまったのです。その後も貴音ちゃんはサイズを下げながらブラを着けると、次々に料理や暖房器具が目の前へ現れては消えていったのです。
「こ……これ以上小さいサイズはないのです! これが最後なのです」
貴音ちゃんが最後の望み……Fカップのブラを着けたのです。すると……
「貴音ちゃ~ん、おばあちゃんよ~」
目の前に和おばあちゃん……の人間離れしたおっぱいが現れたのです。
「ほわぁ♥ もっもう貴音は天国に逝ってもいいのです♥」
最後のブラも外れ、倒れ込んだ貴音ちゃんの周りに天使がやって来て持ち上げようとしたそのとき
「もし、そこのお胸が貧相なお嬢さん」
失礼な紳士が通りかかったのです。
「な……何なのです」
「私はお金持ちの紳士・いづみです! よかったらそのブラジャー、私に全部買い取らせてください」
自分で金持ちの紳士などという人は信用できないのです。でも生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた貴音ちゃんは、ほぼ需要のないブラジャーをその紳士に売ったのです。
「ついでにアナタも買い取らせてください」
「えっ、人身売買は犯罪なのです」
さっきまでマッチョを売ろうとした人が言うセリフではないのです。
「年越しソバ……食べたくはないですか?」
「たっ、食べたいのです」
「おせちもお雑煮もありますよ! そして私は……アナタを食べたい♥」
「またなのです! 貴音は食料じゃないのです! ていうか、あなたは男の人なのです! ブラを欲しがるなんて……ヘッヘンタイさんなのです!」
「あぁ、それなら……」
と言うとその紳士はシャツをたくし上げたのです。すると、
〝ボヨヨンッ〟
中からとても大きなおっぱいが出てきたのです。そう、ヘンタイの紳士は隠れ巨乳の女性だったのです。
「ついてきたら……おっぱい揉ませてあげましょう」
「行くのです♥」
チョロすぎる貴音ちゃんは、そのまま紳士と幸せに暮らしたのです。
……めでたし、めでたしなのです。
※※※※※※※
「はーい、では追い込みしますよー! イーチ、ニー……」
「ぬをぉおおおおっ!」
その後……捨てられたマッチョたちは心優しいトレーナーさんに拾われ、設備が充実したジムで筋トレに励んでいたのです。
……めでたし、めでたしなのです。




