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私は妹と一緒にエアロビクスをすることになった(いづみside)中編

 



 ――えっ、この人がインストラクター!? 




 最近運動不足でお腹に余計な肉がついてきた私は、バイト先のジムに作られたスタジオでエアロビクスを体験することにした。

 そこへやって来た「山中(やまなか) 紅子(べにこ)」というインストラクターは、若々しい容姿をしているが顔は何となく四~五十代……このジムのオーナーでもある志麻(しま)ちゃんのお母さんや、もしかしたら私の母・茅乃(かやの)よりも年上なのかも? と思わせるような雰囲気を醸し出していた。

 いや……もしかしたらこの人は老け顔で、実際はもっと若いのかな? そんな気もしてきたが、


「あれ? 何でCD飛び出しちゃうのかしら? あと()()()()ってどのボタン!?」


 スタジオにあるCDプレーヤーの操作がわからずオーナーを呼んでいた……やっぱおばさんだな。



 ♪♪♪♪♪♪♪



「失礼しました! それでは始めましょう! まずはその場で足踏みから」


 スタジオにノリのいい音楽が流れると、さっきまでオロオロしていたインストラクターさんは突然スイッチが入ったように颯爽(さっそう)と動き出した。

 えっ事前に動きの説明がないの!? だが私の疑問を無視するかのようにレッスンは進められた。


「最初はステップタッチ! 横方向への移動を繰り返しまーす」


 どうやら鏡の前に立ったインストラクターさんを見ながらマネをすればいいみたいだが……これって剣道の「開き足」という足さばきに似ているなぁ。

 ただ剣道の場合は基本「すり足」なので、靴を履いた今の状態では正直言って動きにくい……裸足になりたい。


 まぁでも問題ない、いざやってみると意外と簡単な動きだ。と思っていたら


 〝ドンッ〟


「あっおねえちゃん、ごめんなのです」


 右隣にいる妹の貴音(たかね)ちゃんとぶつかった。皆が一斉に同じ方向へ動くはずなのにぶつかるとは……?

 鏡に映った妹を見ると、明らかに動きが遅れているのがわかる。改めてこの子は運動オンチだと気づかされたわ。


「はぁ……はぁ……あっ、あぁ~ん♥」


 さらに左側へ目をやるとひどく疲れ切った(なごみ)の姿が……おい、まだ五分も経ってねーし公衆の面前でその喘ぎ声やめろ!


「次はVステップ! 右足を右斜め前に出したら次は左足を左斜め前に! Vの字を描くように……」


 なるほど! ステップタッチとかいう動きをやってる間に次の説明してくれるってことか。何となく流れがわかるようになってきたぞ。


「次はグレープバインをやりまーす! まずは一度お手本を見せますね」


 えっグレープ? ぶどう? 何かヘンな動きが出てきたぞ。


「右足を一歩右に出したら左足をその後ろに……」


 一瞬迷ったが、やってみたら簡単だな。ところが、


「うわぁ!」


 〝ドテッ〟


 足のもつれた妹が私とぶつかった。危ないなぁ、転んだら踏みつけちゃうよ。


「ふわ~ぁ、疲れた~」


 疲れ切った和がその場にしゃがみ込んだ。そこで座るな! 踏みつけるぞ!



 ♪♪♪♪♪♪♪



「じゃあいったん休憩しまーす! 水分補給してくださーい」


 レッスン中に休憩時間があるようだ。私はタオルで汗を拭きながら水分補給をしていた。いい汗かいたなぁ……これ、しばらく続けたら痩せそうだ。


「ふ、ふわぁ……むっむずかしすぎるのですぅ」

「はぁ~ん、疲れた~! も、もうらめぇ~」


 ただ……両脇のポンコツどもが邪魔だったなぁ。まぁおかげで私にエアロビクスのセンスがあるってことはアピールできただろう。


「あっ、アナタ……」


 ほーら、さっそくインストラクターさんが声をかけてきた。どうしよう「インストラクターになりませんか?」なんてお誘いを受けたら……いやー女の子からモテモテになるじゃん♥


「はい」

「アナタ、ステップのときすり足になってるけど……それだとつまずいて転んじゃうからもう少し足を上げた方がいいわよ」

「あっすみません、つい(剣道の)クセで……」


 まさかのアドバイス(注意)だった……うわー恥ずかしぃ!



 ♪♪♪♪♪♪♪



 後半は基本ステップの応用で少し難しくなっていったが、参加者はそれを難なくこなし(約二名を除く)レッスンは終了した。


「ありがとうございましたー!」

「ありがとうなのです!」


 スタジオの入り口でインストラクターさんと挨拶を交わした。それにしてもカッコイイ人だなぁ……前に伊豆で会ったダイビングショップの人といい、年上の女性インストラクターってなぜか憧れてしまう。


「あっ、あの……」


 私は思わずインストラクターさんに声をかけてしまった。


「なーに?」

「あのっ、山中先生はこれからもこちらでレッスンをされるんですか?」

「紅子でいいわよ! うーん、まぁ生徒さんが集まれば……だけどね」


 私の何気ない問いかけに、それまで元気いっぱいだったインストラクターさんが急にトーンダウンした。


「え?」

「実はね、エアロビって最近は人気ないのよ。ヨガとかズソバといったプログラムの方が人気あってね……」

「えっ、そうなんですか?」

「今回こちらに来たのもオーナーが元々私の生徒さんだったのよ……別のスポーツクラブで。私、そこのクラブをクビになったの」

「えぇっ!? そうなんですか? 楽しかったですけど……」


 するとインストラクターさんはにっこり微笑んで


「アナタみたいな若い方がそう言ってくれるとうれしいわ! よかったらまた来てちょうだいね! あっ私はヨガも教えられるからそっちもよろしく!」

「あっはい、よろしくお願いします」


 カッコいいけど優しそうな人だ。私もこんな人になりたいなぁ。



 ♪♪♪♪♪♪♪



「貴音ちゃ~ん、シャワールーム少ないから~一緒に洗いっこしよ~♥」

「えぇっ、そっそれは……和おねえちゃんのおっぱい洗っていいのですか♥」


「おーいオマエらー! 公共の場所だぞ自制しろー!」


 このジムは風呂がなくシャワールームも二ヶ所だけ。ジムだと個人のペースで利用するので問題ないが、スタジオトレーニングではシャワーが集中する可能性がある……今後の問題になりそうだな。


 妹と和がシャワーを利用している間、私が更衣室で待っていると


「あら、先ほどはどうも」


 エアロビクスインストラクターの山中さん……もとい、紅子さんが入ってきた。


「今からシャワーなの?」

「えぇ、まだ連れが入っていますので」

「そう……あっ隣座っていい?」

「あ、どうぞ」


 紅子さんが私と同じベンチに座ると開口一番


「それにしてもアナタ、センスあるわね。それと……ちょっと聞きたいんだけど」

「……?」

「アナタ……剣道か何かやってない!?」


 ――えっ、何でわかったんだこの人!? 私は思わず目を見開いた。


「えっ……剣道やってましたけど何で?」

「ビックリした? 実は私も昔剣道やってたの! アナタの足の動き見て何となくそんな気がしたのよ」

「はぁ……」


「やっぱりそうだったんだ! ところでアナタ、お名前って……」

「あ……いづみです。武川いづみといいます」


 すると私の名前を聞いた紅子さんはとても驚いた顔をして



「えっアナタ、もしかして……()()の娘さん!?」



 ええっ、何でこの人……母の名前知っているんだ!?

貴音なのです。エアロビクスってむずかしいけどイイ汗かけるのです!

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