私は妹と一緒にエアロビクスをすることになった(いづみside)前編
「じゃあ私、先にシャワー浴びてくるよ」
今、私は平井 和とラブホで一戦交えた後だ。先日和から借りた服を洗濯して返したとき「じゃ、久しぶりに(ラブホへ)行こっか!?」というノリになってついふら~っと入ってしまった……小遣いピンチなのに。
和とは高校時代に「恋人」としては別れたハズなのだが、どうやらHの相性がいいみたいでその後もズルズルと関係が続いている。今の関係は同じ大学に通う「友人」、そして俗に言う「セフレ」というヤツだ。
「ちょっと待って~いっちゃ~ん」
私は和から「いっちゃん」と呼ばれている。この呼び方をするのは和だけだ。
「えっ、何だよ」
私はバスルームに行こうとしていた足を止め、ベッドの上で満足そうな顔をした和の元へ近づくと、
「えいっ♥」
〝むにゅ〟
――私は和にいきなり腹をつねられた。
※※※※※※※
「おい何すんだよいきなり!」
和はニヤッとした顔で
「いっちゃ~ん……太ったでしょ~!?」
――う゛っ!?
私は高校時代まで剣道をしていた。毎日遅くまで練習して運動量はハンパなかった。今でもバイト先のジムでヒマを見ては筋トレをしているが、それでも高校時代に比べると明らかに運動量が少なくなっている。でも……
「ぼた餅みたいな体形のオマエに言われる筋合いはねーよ」
そう、この和という女はトップバストが一〇八センチのIカップ、バスト以外も正直締まった体ではない……いわゆる「ぽっちゃり体型」なのだ。
和は私より身長が低い。でも服を借りて着られたのはコイツが私より横に広いからだ。正直丈が少し短かったのと、胸と尻がぶかぶかして違和感はあったが。
「何よ~ぼた餅とは失礼な! でもいっちゃん! 今のいっちゃんはいつもみたいに腹筋がバッキバキじゃないんだからね」
「おぃ私の腹はシックスパックじゃねーぞ! でも……確かにヤバいかも」
こりゃいかん、このままじゃ目の前にいる女みたいなエロだらしない体形になってしまう。早く対策を考えないと……と、そこへ和が妙な提案をして来た。
「いっちゃん、志麻ママの店がしばらくお休みしてるでしょ?」
志麻ママとは私がバイトしているジムのオーナー……和の従妹・上条 志麻ちゃんのお母さんのことだ。
今は店舗の改装中で一部を除き規模を縮小して営業している。私が仕事をしているカフェも休業中……なのでこうしてヒマを持て余しているのだ。
「明日~リニューアルしたジムのプレオープンでしょ~!? 今のいっちゃんに最適なダイエットプログラムやるから~よかったらいっちゃんも体験してみて!」
「そっか明日か……で、何だよ体験って?」
「それは~当日までのヒ・ミ・ツ! あ、そういえばいっちゃんにはちょっと残念なお知らせになるわね~」
えっ何だよ残念なお知らせって!? 私は今回の改装の詳細を教えてもらっていなかったので、和の言葉に一抹の不安を感じていた。
※※※※※※※
――そっ……そういうことだったのかぁああああっ!
翌日……この日はプレオープンということで、カフェの仕事が無い私はバイトスタッフではなく会員としてジムにやって来た。
そこには大幅に客席が減らされた狭いカフェスペースが……つまり私の仕事が減らされたようなものだが、実際お客さんが少なかったので文句は言えない。
「ごめんねーいづみちゃん、カフェの席が結構ムダになってたから……」
ジムのオーナー、つまり志麻ちゃんのお母さんが私に平謝りしていた。
「ま、まぁ仕方ないですね……カフェが存続していただけありがたいです。ところでこのスペースは?」
カフェの席とジムの一部が削られた分、新たに床張りでマシンの無いスペースが設置されていた。
「あぁこれ? 実は会員さんでマシン苦手な人が何人もいてね……」
じゃあなぜジムに来た? と言いたいところだが……
「それならスタジオスペースを作ろうって話になったの」
そういうことか。まぁジムトレーニングもそのうち飽きるだろうし、元々ここにはストレッチスペースが無いに等しかったからな。
オーナーの話によると普段はここをストレッチスペースとして使い、時々スタッフが初心者のため軽いダンベルを使ったトレーニングのレッスンをするらしい。
そして、いずれは外部からインストラクターを呼んでヨガなどのレッスンも計画しているそうだが……。
「今日はね、エアロビクスのインストラクターさんが特別にレッスンをしてくださるのよ!」
エアロビクス……そうか、これが和の言ってたダイエットプログラムか!?
「いづみさん、靴は持ってきたわよね? 今日はスタッフへの教育も兼ねているからよかったら参加してちょうだい」
「あっはい……で、でも……」
「さぁさぁ! でも~何て言ってないで~一緒にイクわよ~♥」
私が躊躇していると隣にいたジャージ姿の和に声をかけられた。つーか親戚の家だけどオマエは会員やスタッフじゃねーだろ!? それと何だよ「一緒にイク」って……「一緒にやる」だろ!?
「おねえちゃん、貴音はとっても楽しみなのです!」
そういえば妹もいたわ。本当は妹も会員じゃないのだが今回は特別に参加させてくれた。ちなみに妹は学校のジャージ姿だ。
「残念~、貴音ちゃんの~ブルマ姿が見たかったのに~♥」
「ブ、ブルマ!? ななっ何なのですそれは?」
そんなもん私たちの時代にもなかったわ。妹に対する和のセクハラは置いといて
「本当に良いのですか? 妹も参加させて」
「うーん、本来十八歳未満は参加できないんだけど……スタジオはマシンがないから事故の可能性が低いし、それに……」
オーナーの視線の先には
「あら! 貴音ちゃんもエアロビクスやるの?」
「あっ、秋山さんに小菅さんもやるのですか?」
妹はこのジムの看板娘として会員さんやスタッフと顔なじみになっている……もはやスタッフと言っても過言ではない。
「な~に? 困った顔をして……もしかして~痩せる気がしないとか?」
「オマエと一緒にすんじゃねえよ! つーか和、エアロビクスって本当にこの格好でいいのか!?」
私のイメージだとエアロビクスって……体のラインが思いっきり出るレオタードを着て、空中で開脚ジャンプしたりアクロバティックな動きをする激しいスポーツだったような気がする。私が和にそう言うと
「あははっ! 今どきエアロビクスのレッスンでレオタードなんて着ないし、そのアクロバットっておっしゃるのはエアロビックというヤツで、エアロビクスとは全く違いますよ!」
スタジオに見知らぬ中年女性が入ってきて突然話しかけられた。中年と言っても日焼けした肌に茶髪、セパレートタイプのウエアからはみ出たお腹は見事なシックスパック……会員さんやスタッフのおばちゃんたちとは明らかに異質な雰囲気の女性だが……何者なんだ?
「遅れてすみません! 私が今回エアロビクスレッスンを担当します山中 紅子と言います! 本日はよろしくお願いします」
――えっ、この人がインストラクター!?
貴音なのです。作者はまだこのお話の「オチ」を考えていないのです!




