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私は妹にガマンさせたくない(いづみside)後編

 


 妹がリビングに戻ってきた。



 おそらくトイレにでも行って「済ませた」のだろう。さっきとは打って変わってスッキリした顔をしている……わっかりやすいなぁ~。


「おー貴音ちゃんお帰り! どう? ガスはスッキリ抜けたかぃ?」

「だっ、だからしてないのです! おねえちゃんとは違うのです!」


 だがカワイイ妹をからかっている場合ではない。この子はまだ私に対して遠慮しているところがある。

 外だけじゃなく家でもこんな生活を続けていたら、そのうちストレスが溜まってここが居心地の悪い空間になってしまうだろう。だとしたら、私はこの家にやって来た身として申し訳ない……。


「まぁ確かに人前でするもんじゃないけどさー……私たち姉妹なんだし、毎日一緒にいるんだから遠慮なんかしちゃダメだよ! ガマンすると体に毒だよ」


 妹は何も言わずただ下を向いていた。



 ※※※※※※※



 次の日の夜……


 ――うわぁ、全然終わりそうにねぇな……。


 私は大学のレポート提出の締め切りが近いことを思い出し、珍しく二階の自室にこもりレポートを書いていた。こういうのって苦手なんだよなぁ……。


 しばらくすると喉が渇いてきた。私は休憩も兼ねてジュースでも飲もうと、一階のキッチンへと向かった。


 すると……あれ?


 妹がゲームをしている……リビングにひとりっきりで。しかもメッチャ集中しているらしく、私がキッチンにいることに気づいていないようだ。



 ――これは……チャンスじゃね?



 妹は自分の世界……完全に油断している。今だったら〝プッ〟っとオナラのひとつでも出しそうな雰囲気だ。


 よっしゃ、今度こそカワイイ妹のオナラを聞いてやろう! 私は静かにしゃがみ込み、流し台の陰へ隠れると「その瞬間」が来るのを待った。



 ……十分後。



 ……二十分後。



 ……変化なし。


 そりゃそうだ! オナラなんてしょっちゅうするもんじゃないし、当然しないことだってありうる。つーかタイミング的にする方がレアだろ。

 レポート書かなければいけないってときに私は一体何やってんだ!? そんなヒマないだろ! と、自分の行動を後悔し始めたそのとき、




 〝ぷっ〟




 ――聞こえた!


 このときテレビから流れていたゲーム音声とは明らかに違う音だ。



 ――貴音ちゃんが……貴音ちゃんがオナラしたぁああああああああっ♥



 しかも小さく〝ぷっ〟って……カワイイ子はオナラの音までカワイイじゃねーかコノヤロー♥ あぁこんな()重な()、録音して永久保存したかった! 何でスマホを持ってこなかったんだ私はぁああああっ!?


 いやいや、そんなカワイイ音よりもっといいモノが待ち受けているぞ! 私にオナラを聞かれたことがわかった妹のリアクションだ!


 私は静かに立ち上がった。妹はまだ私の存在に気づいていない……では、妹が地獄に突き落とされた瞬間の顔を拝むとしよう!


「あっ、貴音ちゃん! ゲームしてたんだ……」


 私が声を掛けると妹はゲームコントローラーを持ったまま、コマ送りのようにこちらへ首を向けてきた。その顔はすっかり青ざめ、小刻みに震えていた。



 ※※※※※※※



「おっ、おねえちゃん……何で?」

「いや~喉乾いちゃったからさ、ジュース飲みに来た」


 たまたまそこに居合わせたような言い方をしたが、実は二十分以上も前からキッチンでこの瞬間(とき)を待ち構えていたなんて言えない。すると妹は……


「ねぇおねえちゃん……さっき、()()()()が聞こえなかった……のですか?」


 はは~ん、この期に及んでまだシラを切るつもりか? よかろう妹よ! いづみお姉さんの「一言」で恥ずかしさの極致に達するがよい!




「えっ、それって貴音ちゃんが【オナラ】した前? 後?」




 その言葉を聞いた妹の顔はみるみるうちに赤くなっていった。


 ――かっ……カワイイぃいいいいいいいいっ♥


 だが妹はすでに半べそをかいている。さすがにこれ以上攻めたら可哀想だ。私は冷蔵庫から缶ジュースを二本取り出すと、ソファーにいる妹の隣に座った。


「貴音ちゃーん! だから気にすることないんだって!」

「えぇっ……でも、貴音は……貴音は」


 妹は未だに半べそ状態。やっべぇ……今すぐ抱きしめてそのままソファーに押し倒してぇ気分だ♥


「他人様の前でやったらダメだけどさぁー、私たち……他人じゃないんだよ!」

「でも……でも……」


「私たちは家族、そして『姉妹』なんだよ!」


「……えっ?」


 本当は連れ子同士で法的には姉妹でも何でもない私たち。でも私は貴音ちゃんのことを実の「妹」だと想っている……姉妹だから遠慮なんてしないでほしい。逆に遠慮……距離なんか置かれたら悲しくなってしまう。


「でもやっぱり……オナラ聞かれたの……恥ずかしい……のです」

「何でー? もう私たちおっぱい揉み合った仲じゃん」


 妹は再び顔を真っ赤にした。おいおい、こっちはアンタに乳首までイジられたんだぞ……私の方がよっぽど恥ずかしかったわ。


「今さら恥ずかしがることないじゃん! それに……」

「それに?」


「お姉ちゃん、オナラした貴音ちゃんもカワイイと思ってるし……大好きだよ♥」


 大好き……という言葉を聞いた瞬間、妹の顔がぱぁっと明るくなった。


 ……うん、意外とちょろいな。



 ※※※※※※※



 それから一週間後。


「こんこん……入るのです」


 妹が私の部屋にやって来た。


「おー貴音ちゃん、どうしたの?」

「あのですね、ここの問題の解き方がわからないのです」

「んーどれどれ、ちょっと見せて……」

「じゃあおねえちゃん、こっちに座るのです」


 妹はベッドに座り、私に隣へ座るよう促してきた。まさか……イヤな予感しかしないのだが、私は妹の隣に座った。


「どの問題?」

「ええっと、ここなのですが……」


 と、そのとき!



 〝ぷっ〟



「あぁっ、貴音ーっ! ()()やりやがったなぁー!?」

「キャハハハーッ♥」


 妹はオナラをすると一目散に逃げていった。


 そう、あれから妹は私の近くでオナラをするようになったのだ。私のベッドやリビングのソファーで……でも昨夜、一緒にお風呂に入って湯船の中でされたときはさすがにマジ説教してやった。

 だが妹は悪びれることなく「オナラした貴音も大好きなのですよね?」と言ってきた。あっあのなぁ、それはオナラして恥ずかしがっている貴音ちゃんの顔がカワイイって意味で……あぁっ、もぉっ!!


 ……ったく、誰だよ!? ウブでカワイイ妹をこんな下品な子にしたのは?



 …………私だ。



 ま……イタズラっ子で無邪気な妹も、これはこれでカワイイから許す♥

貴音なのです。貴音がオナラをしたことは、おねえちゃんとの秘密なのです♥

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