貴音はおねえちゃんたちとカラオケするのです(貴音side)Bメロ
「貴音ちゃーん、何歌うのー!?」
貴音たちはカラオケ屋さんの部屋に入ったのです。入ってすぐに飲み物を注文すると鬼軍曹・天ちゃんが仕切り始めたのです。
こういうときの天ちゃんは誰にも止められないのです! ご飯食べたいと言っても却下……貴音は歌うことしか許されないのです。
「たっ、貴音っち……どうするっすか?」
樹李ちゃんも貴音の隣で困っていたのです。貴音は最近のヒット曲に興味がないのですが、樹李ちゃんも同じなのです。
「ゲ……ゲーム音楽ならわかるのです」
「それな! 樹李タソもアイドルとか興味ないっす」
「じゃあ……とりあえずゲームでもするのです」
「そうっすね!? じゃ貴音っち……例のヤツやるっす♪」
「はいなのです♪」
貴音と樹李ちゃんはスマホゲームを始めたのです。と、そこへ
「こらっ! アンタたち、何でゲームしてんのよ!?」
「うわぁっ!」
鬼軍曹に怒られてしまったのです。
「歌の練習しに来たんでしょ!? 音痴ツートップが練習サボってどうする」
「こっこれはゲームではなくてスマホなのです」
「知ってるわよ! じゃあ今開いているアプリは?」
「ドリクエっす」
「ゲームじゃん、没収!」
「そっそれは雪舟なのです」
「それを言うなら殺生! 水墨画描かない! あと返事はイエスしか認めない!」
「イエッサー!」
暴走機関車に乗った鬼軍曹なのです。
「とりあえず童謡でもアニソンでもいいから好きな曲入れなさい!」
「イエッサー!」
貴音が何を歌うか迷っていると、和おねえちゃんが近づいてきたのです。
「貴音ちゃんたち……今、ドリクエやってるって言った~?」
「やっているのです」
「面白いっすよ!」
ドリクエとは「ハッピー・ドリンク・クエスト」というスマホRPGなのです。これはプレイヤーがあらゆる場所に隠れた「自販鬼」というモンスターと対決しながら飲み物をゲットしていくのです。
「実はね~従妹の志麻がこれにハマってて~」
「志麻おねえちゃんが……なのですか!?」
「今度~一緒に遊んでやってね~」
「はいなのです! あとでニャインするのです!」
そういえば今日は志麻おねえちゃんが来ていないのです。和おねえちゃんの話だと志麻おねえちゃんは、同じクラスのお友だち同士をカップルにするために忙しいというのです……恋愛って、何か大変なのです。
「貴音っち! ドリクエの話してたら何か喉乾いてきたっす! ドリンクバー行ってくるから貴音っちが先に歌っていいっす」
と言うと樹李ちゃんは部屋から出て行ったのです……あぁっ、その手があったのです! 貴音もドリンクバーにすればよかったのです!
「あれっ、貴音ちゃんまだ決めてないの? じゃあお姉ちゃんが……」
貴音が何を歌うかまだ迷っていると、今度はおねえちゃんが隣に座ってきて曲を入れるリモコンみたいな物に手をかけたのです。ところが、
「いっちゃんダメよ~! 今日は貴音ちゃんたちがメインなんだから~」
和おねえちゃんに止められてしまったのです。
「ちぇっ、けちー!」
どうやらおねえちゃんはカラオケを歌いたがっているのです。でも和おねえちゃんが貴音たちのために強い口調でおねえちゃんを止めたのです……できれば止めてほしくなかったのです。
仕方なく貴音はアニソンを入れたのです。あの地元アイドル・忍野萌海がかつてメンバーだったΦブレイクの「魔法少女は思春期」という曲なのです。
〝♪~〟
イントロが流れると、貴音は緊張でドキがムネムネしたのです!
「おっ貴音ちゃん歌うよー! 盛り上げて行こ―!」
「イエーイ!」
おねえちゃん、天ちゃん、盛り上げなくていいのです! 空ちゃん、無言でこっちをじーっと見つめないでほしいのです……できれば無視してほしいのです!
「貴音ちゃ~ん! 緊張しなくていいからね~リラックス~!」
和おねえちゃんが声をかけてくれたのです……優しいのです。貴音はがんばって歌ったのです……が、歌い終わった後にとんでもないモノが出てきたのです!
〝ジャーン!〟
……えっ!?
六十二点?
なっ何なのですこれは!? ゲーム以外で点数など見たくないのです!
「うわー貴音っち、いいじゃん! 樹李タソの中間テストよりいいっす」
ドリンクバーから戻って来た樹李ちゃんがほめてくれたのです。歌い終わったら採点されることに貴音は驚きを隠せなかったのですが、百点満点の真ん中・五十点以上あるのでまぁまぁ良かったのです!
ところが天ちゃんはムッとした顔で貴音たちをにらんだのです。そして呆れたような顔をしながら
「あのねぇ、この機械ってどんだけ下手くそに歌っても六十点以上出るのよ! つまり六十二点って……ほぼ最低の点数よ」
えぇええええっ!? 何で六十点が一番悪い点なのですか!? それに六十二点なのだから最低より二点も高いのです!
「じゃあ次は樹李の番よ」
「ひぇええええっ!」
樹李ちゃんも歌ったのです。確かに樹李ちゃんはカラオケの伴奏と歌うタイミングが全然合っていないのです。
「六十五点……」
「やったっす! 貴音っちよりも高得点っす」
「じゅ……樹李ちゃんスゴイのです」
「貴音っちも次の曲でがんばるっす」
「あのねぇ……アンタたち、目くそ鼻くそのレベルじゃないの!」
貴音たちはお互いをたたえ合ったのですが、天ちゃんは許さなかったのです。
「じゃあ貴音は歌い終わったのでラーメンを食べるのです」
「待てーい! そんな低レベルな状態で食べられると思ってんの!?」
「歌ったらお腹が空くのです」
「喉も乾くし甘いモンが欲しくなるっす! 樹李タソはパフェ食べたいっす」
貴音と樹李ちゃんがそう訴えると、天ちゃんは何か思いついたように少し上を見てからニヤッとしたのです。そして……
「あっそ! じゃあアンタたちに条件を出すわ! 八十点以上出したら好きな物頼んでいいわよ! だけど出せなかったら二人はずっとドリンクバーだけね!」
――ひぇええええええええっ!?
鬼軍曹は本当の「鬼」になったのです。
「どっどうする貴音っち!」
「とりあえず八十点目指して歌うしかないのです」
貴音と樹李ちゃんはがんばって歌ったのですが、六十六点、六十九点……少しずつ点数は上がるものの目標の八十点超えには遠く及ばないのです。
もしかして機械が壊れている? と思ったのですが時々天ちゃんや空ちゃんが歌うと八十~九十点レベルの点数になるのです……二人とも歌が上手いのです。
しばらくすると店員さんがドアをノックして入ってきたのです。
「お待たせしました、パーティーセットです」
貴音が歌っていると、なぜか頼んでいない唐揚げやポテトや枝豆の入ったお皿が運ばれてきたのです。
「そっそれ食べたいのです」
「ダーメ! これは私たちの分! アンタたちは点数取ってからよ」
お……鬼なのです! きっと天ちゃんの頭には角が生えているのです。すると樹李ちゃんが怒りの表情で貴音に話しかけてきたのです。
「こんなの無理ゲーっす! 貴音っち、こうなったらボイコットするっすよ!」
貴音なのです。ボイコットって……何なのですか?




