突然、妹が幼女になった(いづみside)
……えっ!?
私が家に帰ると……妹が小さくなっていた。
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学校から帰ってきた私がふとリビングに目をやると、ソファーに妹の貴音ちゃんが座っていた。だが一目見た瞬間、妹の様子……いや、見た目が明らかにおかしいと気づいた。
妹は背が低い方……それでも身長は一四二センチある。しかし今、私の目の前にいる妹は床に足が届かないくらい小さいのだ! その見た目はまるで幼稚園児……そう、いわゆる「幼女」といった風情だ。
えっ、何で!? 私はSFかオカルトの世界に迷い込んでしまったのか!? それとも妹は、黒い服を着た人たちに薬でも飲まされたのか!?
小さくなった妹はキョトンとした顔でこっちを見ている。それにしても妹は小さくなってもカワイイ! 私が妹のつぶらな青い瞳をジッと見つめていると、やがて妹は小刻みに震え出して……
「ぴっ……ぴぎゃぁああああああああっ!」
その場でギャン泣きしたのだ! えっ、何で私の顔見て泣くんだよ!? 私がうろたえていると
「びぇええええん! ちゃかねおねぇちゃぁああああん!!」
「シルクちゃんどうしたのです? あっおねえちゃん、お帰りなさいなのです」
廊下からいつもの大きさの妹と、母の茅乃が入ってきた……あれ?
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「えっ従妹!?」
「そうなのです。シルクちゃんはアリーサおばさんの娘さんなのです」
妹の話によると、この幼女の名前は「大鳥居シルク」。妹の実母で、亡くなったノラさんの妹の娘……つまり妹の従妹にあたる。
妹の叔母・アリーサさんはノラさん亡き後に来日して、まだ幼かった妹の面倒を見ていたそうだ。で、後に日本人と結婚して生まれたのがこの子だという。
「シルクちゃん、本当はシルックという名前になる予定だったのです。でも出生届に間違って小さい『ッ』を入れ忘れてしまったのです」
妹が説明している間、泣き止んだシルクという子はずっと妹にしがみついて離れない。そして私の顔を、まるで不審者を見るような顔でジッと睨みつけていた。
それにしても……見れば見るほど妹と瓜二つ、微かながらシルクちゃんの方が金髪に近い。他の外観は完全に「ミニ貴音ちゃん」だ……カッ、カワイイッ♥
い、いや確かに私は同性愛者で少女好き……妹のことは好きだがさすがに小学生以下は恋愛対象外だ。この子に対して小児性愛的な感情は無い。
「で、何でこの子が家にいるんだ? 親は?」
すると一度キッチンに入った茅乃が顔を出して
「あぁ、旦那さんの親戚で結婚式があってね……九州まで泊りがけで大変だからって一晩預かることになったんだよ」
「貴音は子どものとき、アリーサおばさんにお世話になったのです。だから今度は貴音がシルクちゃんのお世話をするのです」
そっか、そういうことか……でも妹の従妹ってことは、私の従妹ってことにもなるんだよな!? じゃあちゃんと挨拶しておかないとな。
「初めましてシルクちゃーん! 私は従姉のいづみだよー! シルクちゃんはいくつなのかなー!?」
私が目一杯優しい声で話しかけると、
「ぴっ……ぴぎゃぁああああああああっ!」
再びギャン泣きされた。わっ、私何か悪いことしたか!?
「シルクちゃんはすごい人見知りなのです! あと、四歳なのです」
妹が代わりに答えた。人見知り? それじゃ初対面の私はムリだろ。すると茅乃がやって来て
「シルクちゃん! オヤツ作ったから食べる?」
「うん! 食べりゅ!」
ちょっと待て! 私が初対面なら茅乃だって立場が一緒だろ!? 何で茅乃には平気で接して私にはギャン泣きするんだ……もしかしてオヤツで釣られたのか?
「ママさんは家政婦さんだったときからシルクちゃんとは顔見知りなのです」
何だって!? さらに追い打ちをかけるように、
「ワンワン!」
「あっ、くりゃりゃ! おちゅわり!」
――クララまでなついているじゃねぇかぁああああっ!
「シルクちゃん、どう? おいしい?」
「おいちいでちゅ!」
「シルクちゃん、食べ終わったら一緒にお絵描きするのです」
「ワンッ!」
こっこれはもしかして……私だけ蚊帳の外? 私はこの家に来て初めて孤独を味わった。これはいかん! 私も何とかこの幼女に認められてギャン泣きされるのを防がなければならない。
よりによって今日はバイトが休みだ! このまま尾白一族の輪に取り込まれなければ今夜、この家に居場所がなくなってしまう……。
シルクちゃんも私のことが気になるのか、お絵描きをしながら時々こっちをチラチラと見ているようだ。だが私と視線が合うとすぐに泣きそうな顔になる。話し掛けると泣き出しそうなので、私は満面の作り笑いで微笑んだ。だが、
「ぷぎゃぁああああああああっ!」
うわっ、まただよ! うっかり視線も合わせられん! 私がうろたえるとシルクちゃんはさらに衝撃的なことを口走った。
「ふぇええええん、このおぢちゃんこわいでちゅぅううううっ!」
――オッ、オジサンだとぉ!?
確かに私は見た目が男っぽい。実際、男に間違われることもある。だがさすがの私も加齢臭がしたり、所構わず「カーッ、ペッ!」と痰を吐いたりしないぞ!
「ぷぷっ、ぷぁーはっはっは!」
「シルクちゃんの年だと、おねえちゃんはママさんと同じくらいの年に見られるのです。でも大丈夫なのです! 貴音から見たらおねえちゃんは好青年なのです」
おい妹よ……フォローになってないぞ! それと茅乃……笑いすぎだ!
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それにしても困った! この子が極度の人見知りとはいえ、私はここまで子どもになつかれないのか?
たった一晩なので今夜は自分の部屋にこもる……という選択肢はある。だが相手は親戚の子、今後も何らかの機会に顔を合わせることはあるだろう。まぁ人見知りは幼少期特有の症状……成長とともに無くなっていくかもしれない。でも……
私は大学卒業後、栄養士として働くことを考えている。希望する職場は小学校か幼稚園、または保育園だ。それなのに子どもから嫌われるとは……これは私の将来の夢にまで影響されそうな由々しき事態だ!
とりあえず同じ場所にいて、この子と視線を合わせないでいよう。最初は空気のような存在でいればそのうち慣れてくるかもしれない。
妹とシルクちゃんはリビングでお絵描きをしている。なので私は距離を取ってダイニングで勉強していると、茅乃がニヤニヤしながらやって来て
「おいオジサン! 夕飯の支度すっからそこ退けろ」
こっ、このババァ……
「誰がオジサンだっ!?」
私が声を荒げると
「ぷぎゃぁああああああああっ!」
――うわぁ! 大声も出せねぇのかよ!?
結局この日の夕食も大騒ぎ……仕方なく私は、キッチンでこっそり食事をする羽目になった。何でこうなるんだよ!? だんだん私はこのシルクちゃんという子に対して苛立ちを覚えるようになってきた。
夕食も終わり家族全員がくつろいでいると、茅乃が私にこう言ってきた。
「いづみ、悪いけどシルクちゃんをお風呂に入れてやって」
え……絶対にヤダ!
貴音なのです。次回は「なろう読者」が一番好きなシーンなのです!




