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私は妹を怖がらせたい(いづみside)

 



「あぁ、だったらそれ着て帰ってもいいわよ」




 えぇっ、そんなこと言われてもなぁ……



 ※※※※※※※



「お疲れさまーいづみちゃん」

「あっ、お疲れさまです」


 私は今夜もフィットネスジムでバイトだ。今日は珍しいことにカフェが忙しく、スタッフが退社する時間帯を過ぎても後片付けが終わらなかった。


「遅くまでごめんなさいね」

「いえ、今日は限定メニューが大当たりでしたから……やりがいがありましたよ」


 今日は一日限定の特別メニューを提供したのだが、普段ダイエットに専念してカフェなど見向きもしない若い女性会員さんが大勢注文してくれた。というか今夜はここで会員さんがパーティーを開いていたのだ。


「それにしても……ふふっ、いづみさん」

「……はぃ?」

「とても似合ってるわよ! ()()の衣装」


 そう、今日はハロウィン! スタッフは全員コスプレ……私は魔女の格好だ。


 コスプレは苦手だ。元カノでセフレの平井(ひらい) (なごみ)はコスプレ大好き人間なので時々ヤツに付き合わされるが、着るのは大抵Hのとき……イメクラごっこだな。ま、イメクラもごっこ遊びみたいなものだが。

 なので私的にはコスプレ=いかがわしいイメージしかない。それにハロウィンって元々子どもたちのお祭りじゃなかったっけ? まったく……クリスマスといいハロウィンといい、日本の大人はどうして西洋の文化をエロに変換するんだ(←※個人の見解です)!?


「今日は貴音(たかね)ちゃん来られなくて残念だったわね」

「まぁ仕方ないです。自業自得というか……」


 今日は妹の貴音ちゃんがバイトについてこなかった。二学期の中間テストの成績が悪すぎたので、家庭教師役の和が来ないこの日は母・茅乃(かやの)の命令により外出禁止になっていたのだ。

 しかもこの日、継父が仕事関係の打ち合わせ……という名目の接待で茅乃と一緒に出掛けている。今夜は妹がひとりでお留守番だ……まぁ愛犬クララもいるが。


「こんなときに遅くなっちゃったわね! 貴音ちゃんも心細いだろうから早く帰ってあげなさい」

「えっあぁ、そうしたいんですが……今から(仮装の)メイク落として衣装をお返ししないと……」


 私がそう答えるとオーナーが意外な言葉を口にした。


「あぁ、だったらそれ着て帰ってもいいわよ」


「えっ!?」

「まだまだハロウィンよ! 今日だけはその格好で街を歩いても誰も不思議がらないわ! それに貴音ちゃんだってハロウィン楽しみたいでしょ!? 衣装が余っているから貴音ちゃんにも着せてやって」


 と言うとオーナーは未開封の衣装を持ってきてくれた。パーティーで使われる黒猫の仮装グッズだ。


「いやいや、こんなのもらっては悪いですよ!」

「いいのよ! 元々貴音ちゃんに着てもらうために買ったんだから」


 さすがにそれは申し訳ないと思ったが……ちょっと待てよ!?


 吊り橋効果という言葉がある。不安や恐怖に出くわしたときのドキドキが、そのとき一緒にいた人に対して恋愛感情のドキドキと勘違いする……らしい。

 妹は極度のビビりだ。今もひとりでブルブル震えながらお留守番しているに違いない。そこへ私が魔女の格好でやって来たら妹はパニック状態になるだろう。


 ある程度妹が怯えたところで私が正体を明かし目の前に現れると、妹は私に恋愛感情を持つように……これだ!!

 そして最後は黒猫のコスプレをした妹に、道徳(モラル)背徳(インモラル)の境界線を攻めた撮影会をしてやろうじゃねーか♥


「そっそうですか、じゃあお言葉に甘えて……いただきます」


 名付けて「トリック(♥イタズラ♥)オア()トリート(♥ごほうび♥)作戦」だ! 待ってろよ妹よぉおおおおっ!



 ※※※※※※※



 家に着いた。玄関ドアの前に立つと、魔女のコスプレをした私の全身がセンサーライトで照らされた……恥ずかしいから早く済ませよう。


 〝ピンポーン!〟


 インターホンを鳴らすとしばらくしてから、


「……は……ぃ」


 と消え入るような声が聞こえた。すでに妹はビビっている。インターホンのカメラに映らないよう隠れていた私は横からスッとカメラを覗き込み、


「トリックオアトリ~ト~、勉強しない子はイタズラしちゃうぞ~♥」


 と声色(こわいろ)を変えて話しかけた。すると


「きゃぁああああっ! しっしてるのです! 勉強してるのですぅううううっ!」


 想像の斜め上を行く妹の絶叫が家の奥から聞こえてきた。私は小さくガッツポーズをとりながら次の作戦に出るため庭の方へ回り込んだ。

 やはり……リビングの明かりがついている。クララと遊んでいたであろう妹は間違いなくココにいる。


「ワンッワンッ」


 クララに吠えられた……おーぃ私だよー!


 私がリビングの窓ガラスを軽く〝コンッ〟と叩くとカーテンが揺れ、妹が恐る恐るカーテンのすき間からこちらを覗き込んだ。

 そのタイミングで私が下からバッと飛び出すと妹は再び絶叫して逃げ出し、カーテン越しに激しい物音が聞こえた。

 まぁこれ以上イジメてはかわいそうだ! そろそろネタバラシをしよう。玄関に戻った私は鍵を開けようとバッグを……あ、あれ?


 ――鍵、忘れてたぁああああっ!


 これは困った……仕方ない、妹に開けてもらおう。


「おーい貴音ちゃーん、お姉ちゃんだよー! 鍵、忘れちゃったからさぁー中から開けてくれるー?」


 ところが中から聞こえてきたのは


「ウソなのです! オマエは魔女なのです!」


 ――ええっ、冗談だろ!?


「さっきは驚かしちゃってごめんねー! お願いだから開けてくれるかなー?」

「オマエはおねえちゃんに化けた魔女なのです! 絶対に開けないのです!」


 ――うわっ、信じてくれないっ!?


 この日は十月の終わり……上旬は夏日が続いたのに、最近は朝晩を中心にかなり寒くなってきている。

 おまけにコスプレ衣装は安物のパーティーグッズなので保温性などほぼゼロ……寒い! 私は再び庭へ行くとリビングから妹に接触を試みた。


「貴音ちゃーん、寒くなってきた! 早く鍵開けてー!」

「魔女だったら魔法で簡単に開けられるのです! カギも出せるのです!」


 そっかーまさに正論だな……っておいおい!


「私は魔女じゃないんだよー! お姉ちゃんだよー早く開けてー!」


 と、そのとき……私の身体に異変が!


 ――やべぇ……トイレ行きたい。


「貴音ちゃーん! お姉ちゃんトイレ行きたいから早く開けてぇー!」

「オシッコだったら塀に向かって片足上げてすればいいのです!」


 ――私はイヌじゃねぇぞぉおおおおおおおおっ!


「おっお願い! どうしたら信じてくれるかなぁ……」

「オマエがおねえちゃんだというのなら、そこでおっぱいを見せるのです! おっぱいの形を見ればおっおねえちゃんだと信じるのです……でへ♥」


 ――オマエ絶対に私をからかっているだろ!?


「だいたいおねえちゃんは一人でコスプレして楽しんで……ズルいのです! 貴音もハロウィン楽しみたいのですぅううううっ!」

「私がお姉ちゃんだってわかってんじゃねーかぁああああっ!?」


 その後、妹に鍵を開けてもらい私の膀胱は事なきを得た。


 この家には本物の魔女がいる……どちらかといえば小悪魔だな♥

貴音なのです。トリートには「ごほうび」という意味もあるのです!

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