私は妹にトラップを仕掛けた(いづみside)
『師匠』
『相談があるっす』
泣き顔のスタンプと共に、野牛島樹李ちゃんからニャインがきた。
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妹の貴音ちゃんの友だちである樹李ちゃんには、高校生になる兄がいることを以前聞かされていた。でもって彼女がお兄さんの部屋で探し物をしていたとき、偶然にも「妹ゲー」という物を見つけてしまったそうだ。
私はゲームに疎いのでその「妹ゲー」とやらをネットで調べてみると、どうやら妹を恋愛対象としてエロいことをする……というシミュレーションゲームだということがわかった。
きょうだいだと「妹」にあたる樹李ちゃんは、どうやら自分が兄からそのような目で見られている……と恐怖を感じているようだ。
まぁ男なんて生き物は所詮、性欲のことしか考えないケダモノであることに間違いはない。でもだからと言って実妹を犯すなんて鬼畜行為、十八禁小説でもない限りありえない話だと信じたいしそもそも近親相姦なんて絶対に許せない!
樹李ちゃんには「大丈夫! ゲームは架空の話で現実とは別、だから心配しないで」と伝えておいた。ゲームの行為を皆が皆、現実でも行っていたらこの世の中は犯罪者だらけになってしまう。
一応「もし何かあったらすぐに連絡して」とも伝えた。すると彼女はあろうことか「師匠はそういうゲーム隠し持ってないっすよね?」と私に聞いてきた。
――おいおい。
確かに……私には貴音ちゃんというカワイイ妹がいるので樹李ちゃんのお兄さんと立場的に似ている。
でも私は女だぞ! そんなゲームで性欲を満たすことはないし、したところで対象を妹に向けることはない。それより何より私はゲームに疎い! だが……
――いい事を聞いた! その手があったか♥
中学生になった妹もそろそろ色気づく年頃だろう……そうなると異性に興味を持ち始めるかもしれない。
私は妹が好きだ! 妹が異性に走る前に「百合」という世界を知ってほしい。それにはまず、百合というモノがどれだけ魅力的か教え込まなくてはいけない。
巷では雑誌やテレビ、ネットなどで「異性との恋愛」のネタばかり自然と目にするようになる。これでは性的多様性という概念から大きく外れて不平等だ!
そこで妹には私の持っている百合小説を読んでもらい「同性との恋愛」という世界も知ってほしい……と考えた。
今回、樹李ちゃんはお兄さんのベッドの下からゲームを見つけたらしい。おそらく彼女は明日、妹に対して私がエロいゲームか何かをベッド下に隠しているかもしれない……と忠告してくるだろう。
すると妹はすぐに私の部屋へ忍び込んでベッドの下を探すだろう。そして百合小説が出てきたら妹のことだ……間違いなくその場で読みふけるに違いない! そこへ私が踏み込んで、妹に百合の素晴らしさをじっくり教え込んであげよう♥
えっ、この行為が継父や母・茅乃にバレないかって!? そこは大丈夫……妹は私の部屋へ勝手に入ったという後ろめたさがきっとある! 秘密の共有とか何とか言って適当に誤魔化せばバレることはないだろう。
というワケで、私はベッドの下に一冊の百合小説を忍ばせておいた。今回使ったのは「粟津 まに」という百合小説家が書いた「校庭の二人」という本だ。
だが気がかりなのは、この「粟津まに」が書く百合小説……どれもこれもクソつまらないのだ! 一応、百合小説としての体裁は保っているが登場人物の心情とかがちゃんと描かれていない……つまりこの作者は女心がわかっていない! たぶん作者は男だろう……男が男向けに書いた薄っぺらい百合小説だ!
だが内容が薄っぺらいだけに百合初心者にはわかりやすい。正直なところ個人的には最近デビューした新人「良坊 種夢」の方が全然面白いのだが……。
だがこの人の百合小説は心理描写が上手い代わりに、展開がディープと言うか表現が過激すぎて……とてもじゃないが中学生の妹に見せられる内容ではない。
なので今回は……どう考えてもネットの小説投稿サイトでタイトルを少し変えただけの中身がワンパターンな異世界ファンタジー小説を書いているド素人と何ら変わりがない「粟津まに」のクソつまらない小説をベッドの下に隠しておいた。
さて……妹はこのトラップに引っかかり「百合」という新しい世界へ一歩踏み入れるだろうか? 私は良坊種夢の書いた百合小説を読み終えると、それが掲載された雑誌を机の引き出しの中へ仕舞って就寝した。
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翌日……私が学校から帰ってドアからそーっと部屋の中を覗き込むと……
――いたいた♥
私の部屋の中で食い入るように百合小説を読んでいる妹の姿がそこにあった。
意外にも妹は読書好きだ。これは小さい頃から継父の書いた絵本や童話を読んでいたせいなのだろう。
だが今日から妹は、絵本や童話では決して目にすることのなかった「性欲」というモノを知ってハァハァとオナ……
――こっこれは断じてセクハラじゃないぞ! あくまでも性教育だ!
妹よ! 今までは子ども向けの物語ばかり読んでいたキミももう中学生……そろそろ大人の階段を上ってもらうよ♥
妹は食い入るように百合小説を読んでいる。だが反応が今ひとつ、私の思ったほどではなさそう……もっとハァハァ興奮するのかと思っていたが意外と冷静に読んでいる。うーん、やっぱ粟津まにの小説じゃそこまで興味がわかないか!?
小説を読み終えた妹は、その本を再びベッドの下に隠した。あまり満足気な顔をしていない……くそっ、無駄骨だったか!?
ところが妹はその後も部屋を出て行こうとせず、周囲をきょろきょろと見回していた……んっ、まだ他に百合小説が無いか探しているのかな? だとしたら百合に対して結構食いついているようだが……♥
すると妹はベッド下以外にも私の部屋を探し始めた……こらこら! タンスの中から私のブラを取り出してニヤけた顔してんじゃないよ!
やがて妹は机の引き出しを開けるとラノベ雑誌を取り出した。しばらくページをめくっていると、良坊種夢の小説が載っている辺りで手が止まった!
――うわぁああああああああっ! そっそれを読まれてはマズい!!
なぜならその小説はお互いの性●を●め回すだけでは飽き足らず、タチの女子●生がネコの女●校生の愛●をストローで●ったり肛●に●を入れてからニ●イ嗅いだり飲●シーンをスマホで撮影したり二人の唾●を●の中でねっとりと絡め合いながらネコの子に●ませたり……とにかく内容が過激すぎるのだ!
こんな変態的な小説を読まれたら、妹は百合に嫌悪感を示すどころか私と口きいてくれなくなってしまう! 早く止めなくては……私は妹の背後に近づくとそっと声をかけた。
「たーかーねーちゃぁああああん!」
「びくぅ!!」
突然声をかけられた妹は、まるで獲物を狙って潜んでいる所を邪魔された猫のようにビクッとなって飛び上がった。私は妹が言い訳できないように問いかけた。
「貴音ちゃん、ベッドの下から何を取り出していたの?」
貴音なのです。おっおねえちゃん! 最初から見ていたのですか!?




