貴音はおねえちゃんの部屋でヘンな本を見つけたのです(貴音side)
「ふぇええええええええんっ!」
ある日の朝……いつものように貴音が登校すると、教室の中から泣いている声が聞こえてきたのです。
「おはようなのです……どうしたのです?」
「あっ貴音ちゃんおはよう」
泣き声がする席を取り囲むようにクラスの女の子が数人集まっていたのです。そこには菱山天ちゃんもいて、貴音の顔を見るとあいさつしたのです。
「ぐすっ……ぐすっ……」
そして、席に座って泣いていたのは野牛島樹李ちゃんだったのです。
「樹李ちゃん! 始業時間前に泣くのは校則違反なのです」
「ウチの学校にそんな校則ないよ」
すかさず天ちゃんにツッコまれたのです。
「で、どうしたのです? カツ丼おごるから正直に白状するのです」
「貴音ちゃん、今は刑事ドラマの取り調べでもそれやらないよ」
……朝から天ちゃんのツッコミが冴え渡っているのです。
※※※※※※※
「エロゲー? 何なのですかそれ」
樹李ちゃんには高校生のお兄さんがいるのです。天ちゃんが言うには昨日、樹李ちゃんが探し物をしてお兄さんの部屋に入ったとき、偶然エロゲーとかいう物を見つけてしまったそうなのです。でも貴音はそのエロゲーとかいう物がよくわからないのです。
「エッチな内容のゲームのことよ! 十八禁って言って十八歳未満はやってはいけないゲームよ」
「なるほどなのです! 十八歳未満の高校生がやったからお兄さんは警察に逮捕されて……それで樹李ちゃんは悲しんでいるのですね?」
「いやそこじゃねーよ!」
今度は席にいた全員にツッコまれたのです! それにしても……ゲームといったら誰かと戦うことが一般的なのです。ゲームでえっちぃことをするなんて聞いたことがないのです。
「樹李ちゃん、ゲームというのは架空の世界なのです! 人を殴ったり銃で殺したり街中をインクで汚しまくるのです……実際にやったら犯罪なのです。だからお兄さんも実際にエッチなことなんかしないのです」
「たっ、貴音ちゃんが正論を言った!」
そこにいた全員が驚いたのです……失礼なのです。すると樹李ちゃんはようやく泣き止んで貴音たちに話しかけてきたのです。
「兄ちゃんも高校生だし、エロゲー持ってることくらいで驚かないっす!」
「……えっ!?」
「問題はそのジャンルっす!」
「ジャンル?」
「兄ちゃんが持ってたのは……妹ゲーっすよ!!」
――妹ゲー?
それは何なのです? 貴音は妹だからもしかして……
「妹が敵を倒しまくるゲームじゃないっすよ」
――先に言われてしまったのですぅううううっ!
「きっと兄ちゃんは樹李タソを攻略するために妹ゲー使ってシミュレーションしてるっすよ! 最近イイ女になってきたから樹李タソを恋愛対象……そしてエッチの対象として見てるっすよ!」
樹李ちゃん……そういうのを自意識過剰と言うのです。
「うわぁああああっ! そういや最近、兄ちゃんが樹李タソを見る目……何かエロくなってきたっす! 時々お風呂覗かれてるような気がするっす! こっ今夜あたり樹李タソは兄ちゃんに寝込みを襲われるっす! そして樹李タソはハダカにされてエッチなことを……うわぁああああっ! キンシンソーカンっすよぉ!」
「貴音の家は銀行と取引が……」
「信金に相談するワケじゃないから」
と、貴音が天ちゃんにツッコまれているところへ
「貴音っち!」
樹李ちゃんが貴音に声をかけてきたのです。
「何なのです?」
「貴音っちも他人事じゃないっすよ!」
「……えっ!?」
「貴音っちも師匠、じゃなかったお姉ちゃんいるっす! もしかするとお姉ちゃんはエッチな妹ゲー持っていて、そのうち貴音っちも襲われるっすよ!」
貴音が……おねえちゃんに襲われる!?
「大丈夫なのです樹李ちゃん、おねえちゃんはああ見えて一応女の人なのです」
「男とか女とか関係ないっす! 前にジェンダー教育の授業で言ってたっす! 世の中には男の人が好きな男、女の人が好きな女がいるっす!」
たっ、確かにおねえちゃんは見た目が王子様なのですが……
「師しょ……貴音っちのお姉ちゃんは怪しいっす! だってこの間のお泊り会で一緒にお風呂入ったとき、さり気なく樹李タソのおっぱい揉んだっすよ」
――えっ!?
「そういえば、私や空も前におっぱい触られたよ……何か手つきがエロかった」
――えぇっ、天ちゃん空ちゃんまで!?
そんなこと……ないのです! だっておねえちゃんはカッコよくて王子様なのです! 今までおねえちゃんが貴音に対してやってきたことは……
初めて一緒にお風呂入ったとき、貴音のバスタオルを強引にはがしたのです。
パンツが汚れていると言いがかりをつけてパジャマを脱がそうとしたのです。
貴音と天ちゃん空ちゃんに水着を着せ、撮影会をして大喜びしていたのです。
……お、思い当たるフシがいっぱいありすぎるのです!!
「貴音っち! 帰ったら絶対にお姉さんの部屋をチェックした方がいいっす!」
こっこれはもしかして……妹にえっちぃことをするゲームでも見つかるかもしれないのです!
「でもさぁ樹李……よく考えたらこの間お姉さんがのぼせて倒れたとき、どさくさに紛れてお姉さんのおっぱいをみんなで揉みまくってたよね!?」
「そっ、そういえばそうっす! めっちゃ神乳だったっす♥」
「ホント! すっごい気持ちよかった♥」
「天ちゃん樹李ちゃん、他人のことえっちぃとか言えないのです」
「う、うん……そうだね」
天ちゃんと樹李ちゃんは顔を真っ赤にしてうなだれたのです。
※※※※※※※
「そろーり、そろーり」
学校から帰ってきた貴音は、さっそくおねえちゃんの部屋に忍び込んだのです。
よく考えたらお姉ちゃんはテレビゲームをしないのです。だから妹ゲーとかいう物が出てくることは絶対にありえないのです!
でも……
おねえちゃんはヘンタイおっぱいさんなのです! だからゲーム以外で何かえっちぃ物が出てくるかもしれないのです。
おねえちゃんはまだ学校から帰ってこないのです。貴音はおねえちゃんに貸したマンガを返してもらう……という口実でおねえちゃんの部屋に入ったのです。
「ごそごそ……ごそごそ」
貴音はおねえちゃんのベッドの下に手を入れたのです。樹李ちゃんから「貴音っち! ベッドの下に隠してある可能性が高いっすよ」と言われたのです。でも本当にそんな場所へ隠すので……
〝コツンッ〟
――な、何か硬い物が当たったのですぅううううっ!
「どきどき、どきどき」
本当にあったのです! 何か分厚い板のような物なのです。こっこれは……本当にゲームソフトなのですか!? 貴音はドキドキしながら引っ張り出したのです。
ベッドの下から出てきたのは小説のような本なのです。おねえちゃん、本は本棚に入れるのです!
でも……何かヘンな本なのです。
タイトルが「校庭の二人」というその本は、背の高い女の人と背の低い女の人が抱き合ってキスをしているイラストが表紙なのです。
――これは一体、何なのですか!?
「ごくり」
貴音はこの小説を読んでみようと思ったのです。
貴音なのです。この小説……十五歳未満は読んじゃダメなのです!




